133.異世界旅行2-7 思い出に、『また明日』を 74
~おまけ小話『キノコ』~
ヘラ「思ったんだけど、いくらメリアローザの土地が肥沃で多種多様な樹木があると言っても、キノコの種類が多すぎない?」
すみれ「はっ! 竹林に生えるキヌガサダケの採取を忘れてしまいました!」
ペーシェ「さすが、すみれ。食欲の権化。で、暁さん、そこんところはどうなんでしょう?」
暁「蝶に昔から住む古参の話しだと、キノコの種類が爆発的に増えたのはここ3年ほどです。つまり、あたしがメリアローザにギルドを創設した時期と合致します。それに、ダンジョンで採取されたキノコがメリアローザで見られるようになったことから、人間が胞子を持ち帰ってしまい、そのまま野に山に増えていったのでしょうね」
ヘラ「なるほど。人間の仕業だったというわけね」
すみれ「ダンジョンには多種多様なキノコが、まだ見ぬキノコがあるということ!」
ペーシェ「それはいいんだけど、一人で行ったらダメだよ? 危ないからね」
すみれ「もちろん。怖いのは嫌だから、モンスターがいない階層だけにする」
ペーシェ「行く気はまんまんなのね……」
すみれ「エルドラドにはまだまだ可能性があるんだよ! 今回は人が住んでる土地の近くの森だけの探索だったけど、山頂から見て北西の森にもたくさんの実りがあった。350キロくらい離れたところ」
ペーシェ「どういう視力してん?」
ヘラ「魔法じゃなくて裸眼だもんね。人間の可能性を感じるわ」
暁「ちょっとすみれは人間離れしてる感がある時ありますけど。問答無用拳とか」
ヘラ「それ、暁ちゃんが言う?」
すみれ「秋はいいですね。キノコもそうですが、山菜も野菜も、お魚さんもみんなみんなおいしい季節です。特に蕎麦はいいですね。グレンツェンでは麺の蕎麦がなかなか食べられなくて」
アンチクロス「蕎麦食わせろ」
暁「お前はいきなり出てくるな。それで蕎麦粉をたくさん持って帰ったのか。お茶っ葉も持ち帰ったよな。練り込むのか?」
すみれ「はい。お茶を練り込んで風味豊かなお蕎麦を作ります。キノコもたくさんもらいましたので、茶蕎麦とキノコの天ぷらでうふふふふふふ♪」
ペーシェ「想像しただけで笑ってらっしゃる。たしかに秋風亭で食べた蕎麦と天ぷらは超おいしかった。最後に食べたパスタも超おいしかった。びっっっくりするほどハズレがないよね。運良くあたしの舌に合うものばっかりだったのかもだけど」
レーレィ「次のホムパは茶蕎麦かしら。楽しみね♪」
グリム「ホムパをする前にはグレンツェンに戻りますので、必ず呼んでください。くれぐれも私が戻る前に茶蕎麦パーティーをしないでください。私も茶蕎麦と天ぷらが食べたいです!」
すみれ「次のホムパはもう少し先になります。オータムフェスティバルとハロウィーンの準備がありますので」
ライラ「オータムフェスティバルで寄宿生が作る料理の指南役を頼んだからな。みんなまとめてうちにホームステイするがいい! うちはすみれにキキにヤヤ、アルマ、ハティを入れても十分な広さと設備があるからな!」
シェリー「と言っても、それほど期間を拘束するつもりはない。報酬もきちんと出すから安心してくれ」
キキ「ライラさんちにお泊り。わくわく♪」
ヤヤ「ライラさんの家にお泊り。わくわく♪」
アルマ「ベルンに滞在。わくわく♪」
ベレッタ「そ、それだったら、一度でいいからわたしに料理を振舞わせて! ホムパではいっつも料理を作ってもらってばっかりだから!」
ライラ「ベレッタもうちでお泊りしてみるか? いろんなところに行ってみるのも経験だぞ?」
ベレッタ「え、でもユノさんが……」
ユノ「そうだよ、ベレッタ。たまには助手の立場を外れて視点を変えてみることも大事だよ。というわけで、ベレッタをよろしくお願いします」
ライラ「任された!」
ユノ「ふぅーー…………」
ヘラ「なにその安堵の溜息は?」
ユノ「え? いいえ、そんな溜息なんてしてませんけど?」
ヘラ「なぜ目を逸らす?」
すみれ「ベルンでもキノコパーティーがしたいですね。メリアローザにはないキノコもいっぱいありますから」
ライラ「その時はぜひ、キノコとベーコンたっぷりのピッツァを作ってくれ!」
すみれ「お任せくださいっ!」
ペーシェ「――――と、いう話しの流れだけど、まずは蜂謝葬。略してエルビーベアに参加だね」
キキ「蜂さんたちに感謝を伝えるお祭りなんだよね」
ペーシェ「ノットフェスティバル!」
キキ「ノット?」
ペーシェ「エルビーベアは葬儀の側面が強いから、フェスティバルじゃないよ。だからフラワーフェスティバルみたいに外国に広報するような形にしてないでしょ。グレンツェンアプリで告知するだけ」
キキ「え、そうだったの? 知らなかった」
ヘラ「キキちゃんたちはグレンツェンが初めてだもんね。エルビーベアはグレンツェン夫人が始めた行動で、それが街に広まって、いつしかグレンツェンの毎年行事になったの。蜂とともに生きるグレンツェンの人々が蜂たちに感謝するために、息を引き取った蜂を見つけたら花壇の土に置くでしょ。今回は蜂さんたちを集めて一か所に集めて火葬して、『蜂さん、ありがとう。私たちのグレンツェンを素敵なものにしてくれてありがとう。土に還って花になって、次に続く蜂を人を見守っていてください』って」
暁「それはぜひともあたしも参加したいですね。グレンツェン・ビーのはちみつにはお世話になってます」
キキ「未だにグレンツェン・ビーのはちみつを舐めさせてくれない」
ヤヤ「こっそりでいいのでひと口ほしいです」
ヘラ「まさかキキちゃんたちにも渡してないとは」
暁「特別扱いはできないので」
ペーシェ「めちゃくちゃ特別扱いしてると思いますけど」
すみれ「暁さんははちみつ大好きですね。今度来た時ははちみつスイーツを用意しておきます♪」
暁「頼むっ!」
ヘラ「エルビーベアに参加したら、全員に修道院の子供たちが作るハニーキャンデーを手渡します」
暁「よし行こう」
ヘラ「いらっしゃ~い♪」
ペーシェ「暁さん、移動手段は?」
暁「ペーシェかルクスかハティに頼む」
グリム「あ、私もエルビーベアにだけは参加したいので、ルクスに連れて行ってもらいます」
ルクスアキナ「だから妹をこき使いすぎーッ!」
グリム「――――姉は妹をこき使うためにいるんです」
ペーシェ「グリムさんにならこき使われたーいっ!」
グリム「ペーシェさんにはそんなことはしませんので、ご安心を♪」
ルクスアキナ「私にも安心をちょうだいよッ!」
ソフィアたちクレール姉妹は失恋の痛みを癒すため、しばらくはフェアリーたちと一緒に夢のような時間を過ごすことでしょう。
ベレッタは大好きなアルマと一緒の時間ができて大喜び。しかし尊敬する先輩であるマルタをドラゴンで攻撃しなくてはならないとなった彼女は、きちんと仕事をこなすことができるんでしょうかね。心配ですね。
次回は、すみれ主観のストーリーで進みます。
グレンツェンの伝統行事のひとつであるエルンテダンク・ビーネ・ベアディグングです。今日まで働いてくれた蜂たちに感謝の気持ちを贈り、死骸を集めて火葬して、土に混ぜて肥料にして、各々が持ち帰って植木鉢に撒いたり、道中の花壇に添えたりと彼らをグレンツェンの住民の手で自然に還す儀式です。
お祭りではなく葬儀の扱いなのでてんやわんやの大騒ぎにはなりません。粛々と時間が進んでいきます。
エルビーベアが初めてのすみれたちはなにを思い、どんな気持ちでこの日を過ごすのでしょう。




