133.異世界旅行2-7 思い出に、『また明日』を 67
ワープをした先の世界は茜空。ティータイムのあともなんだかんだいって留まってしまった。
夢のような時間が終わってしまった。喪失感がすごい。旅行とはそういうもの。生まれて初めての旅行。分かっていても、フェアリーとの時間が、アルマちゃんたちとの時間が幸せすぎて現実に戻りたくない気持ちがすごい。
つい先日にホームシックに陥ったわたしとは正反対である。
はぁ……。さて、現実に戻るとしよう。ひとまずユノさんに帰宅の連絡をして晩御飯の相談をしよう。
スマホの電源を入れて画面が立ち上がった瞬間、滞りに滞った着信やメールが嵐のように押し寄せた。
シェリーさんとバストさんも同様、方々からやってきた連絡が堰を切ったように流れ来る。
「分かってはいましたが、3人も同じ状況になると壮絶ですね」
「ああ、想像以上に騒々し……騒がしいな」
「別に気にしないので……」
シェリーさんは不意にギャグが出そうになって踏みとどまる。狙ってやってるわけじゃないから気にしたりしないのになあ。
それにしてもバストさんの音と振動が鳴りやまない。彼女には世界中に友人がいるという。本当にバストさんはすごい。それにしてもいつまで鳴り続けるのだろう……。
それはそうと、早くユノさんに連絡を入れなくては。
スマホを開いてみると着信欄にマルタさんの名前が連なる。鬼のように着信とメッセージが入ってる。どういうことだろうと考えて、録画したデータが早く見たいということだと理解した。
ユノさんの前にマルタさんに連絡を入れよう。
「こんばんは、マルタさん。旅行から帰ってきました」
『おかえりー♪ 今日はもうお疲れでしょ? 私がディナーの用意をするから一緒にご飯にしましょ。パソコンも持ってきてるから、データを移してみんなで見ましょう!』
「ありがとうございますっ! あ、ちょっと待って下さいね」
電話口を抑えずにシェリーさんに向き直る。
「シェリーさん、バストさん、よかったらディナーをご一緒していただけますか? きっとマルタさんもお話しを聞きたいと思います」
『そこにシェリー騎士団長もいるの!? バストさんもいるの!? プリマちゃんもいるよね! ベレッタ、二人とも誘って誘って!』
「完璧に理解した。その前にスーパーに寄らせてくれ。プリマがサバ缶を食べたいらしいから」
「そういえばそうでしたね。それと一緒に買い物もしましょう。マルタさん、何か必要なものはありますか?」
『そうですね。まず、今晩のディナーはサモサとフロマージュの盛り合わせ、生ハムも用意したよ♪ それから牛肉のシュニッツェル。フライ・カチカヴァリィ。エンパナダス』
「か、かしこまりました……。しばらくお待ちください」
『待ってるねー♪』
電話を切った瞬間、一気にテンションが下がる。暗い雰囲気を察したシェリーさんが不思議そうに聞いた。
「どうした、ベレッタ。マルタが用意した料理の後半が知らない料理だったんだが、なにか問題があったか?」
「……はい。フロマージュと生ハム以外、全部揚げ物でした」
「全部……。とりあえずサラダを買って行くか」
「……はい。あと、ワインも。せっかくなので旅行前に作ったグラーヴィロヒも食べましょう。」
「グラーヴィロヒ? すまん。それはどういう料理なんだ?」
「サーモンの塩漬けです。どうしても食べてみたくて、奮発しましたっ!」
「サーモンか。素晴らしいな! よし、早く行こうか!」
「はいっ!」
暁さんが言ってた。グレンツェンとベルンの人たちはみんなサーモンが大好きだから、とりあえず手土産にサーモンを渡しておけばオーケーっぽい。そんなことを言った。
そこまで単純じゃないと思うも、今のシェリーさんとわたしの気持ちを考えると、サーモンでオーケーな気がしてきた。




