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コイバナ 5

以下、主観【イラ】

 空は快晴。やることも無し。

 暇だし今日は魔芋畑の雑草抜きでもして、昼寝をして、晩飯を作って寝ようかな。

 ついこの間まで大きな戦があったとは思えないほどの平和っぷり。平和なのはいいことだ。なんの問題もない。問題があると言えば暇ってことくらいか。

 もういっそ、戦争で傷ついた土地に出向いて畑を耕しにいきたいなぁ。

 でもこの土地を離れようとするとピィさんが怒るからなぁ。

 自分の飯を作る人がいなくなるからって。自分で作ればいいのに。

 まぁでも育ての親なわけで、面倒を見ないわけにもいかないわけで。

 他にもいろいろと理由があるけれど、あぁ~……とにかく暇だ。


「こんにちは~。イラさんにお手紙ですよ。グレンツェンより小鳥遊すみれさんからです」


 暇を持て余していたら暇を殺すのが大好きな人がやってきた。

 ミカエル・ダンディライオン。手紙の魔女の使者。自称郵便配達員。


「たかなしすみれ? って、誰だっけ?」

「髪の色が三色の小柄な女の子です。グレンツェンの雑貨屋さんで会ったそうですが?」

「あ、あぁ~あの人間の子か。そういえば文通をするって言ってたっけ。すっかり忘れてた」

「まぁっ! そんな大切なことを忘れていただなんて、とんでもない悪魔ですねっ!」

「お前、まだ文通をしてなかったの? ゴミがッ!」


 ミカエルさんからもピィさんからも罵声が飛ぶ。

 ただただ辛辣。


「酷い言われよう。それからピィさん。外に出歩くときは服を着て下さい」

「敷地から出てないから大丈夫。それにピィはヌーディストだから大丈夫」

「何ひとつとして大丈夫ではありません」

「こんにちは~。ピィさんに頼まれていたライ麦パンをお持ちしました。焼きたてですよ~♪」


 パン屋に住み込みで働いてる(あおぐろ)がやってきた。

 三人官女の完成。嫌な予感しかしない。


「やったぁ~♪ さぁさぁ2人とも上がって上がって。イラにお茶を淹れさせるから」

「いいですけど、人遣いの荒い……」

「悪魔遣いが得意なだけだし」

「どっちも一緒です」


 そうここは悪魔の住む国・センシンズ。

 俺はこの国の頭首を担っている憤怒の悪魔。と言っても、半分は人間、半分は悪魔のハーフなんだけど。

 ちなみにピィことピグリディアは怠惰の悪魔。色欲の悪魔・ルクスリアと嫉妬の悪魔・インヴィディアと共に最も長くこの国を支えてきた1人。

 現在ではルクスリアとインヴィディアの2人は外国にいて長い間帰国していない。いないけど、彼女たちの存在は大きく、国が困った時にはいつも助けてくれた。


 ミカエル・ダンディライオンは元四大天使長の1人。今はキザイア・メイスンという手紙の魔女の元、世界中を飛び回って手紙の配達員をしているとのこと。

 飽き性でおしゃべりな彼女にとって、世界を見て回り、依頼人と会話を楽しむのは天職だそう。

 いつもニコニコ笑顔で幸せそうだ。

 殺伐とした天使の頃とは違って生き生きとしている。


 黝は謎の多い女性。闇に染まった大天使長に操られた天使信仰をする人間の侵攻から、多くの有翼人の命を救い、人間・悪魔対天使との戦争で大活躍してみせた人物。

 その力の底は計り知れず、警戒する者も多数存在した。

 今では、というより元々温和な彼女は、夢だったというパン屋さんで修行の毎日を送っている。

 実に平和だ。

 文句のつけようもない。


 あぁでも、文句をつけたいことならあった。

 ひたすらに人をコキ使う女性陣だ。


「お返事の際には私をお呼び下さいね。すっ飛んできちゃいますから。返事が遅いと催促しに来ますから!」

「それは大変だ。すぐに返事を書かないと」

「あぁ~~~、早く孫の顔が見たいなぁ~~~」


 あぁ~~~、脅迫がすごい~~~。


「えっ!? これはいわゆる、遠距離恋愛ですかっ?」

「いえそういうのではなくて、紆余曲折あって、文通をすることになりまして」

「あの子、絶対いい子だよ。かわいらしいし。なんでひと目惚れしないかなぁ」

「「ひと目惚れっ!」」


 もぅ本当にこれだから年頃の女の子はコイバナが好きだよなぁ。

 戦場で見る悪鬼羅刹(彼女たち)からは想像もできないような顔をして、まるで自分のことのように頬を赤く染めて詰め寄ってくる。


 彼女にはそういう感情を持っていないし、第一、彼女は人間。ハーフとはいえ、俺は悪魔なのだ。住む世界が違う。

 それを言うとピィさんは、『お前の両親は種族が違えど、愛してお前を生んだのだ』と説教をしてくる。

 だとするなら、どうして俺を捨てたのか。理由はわからない。わからないけど、そこに愛があったのか疑問に思えてくる。

 何か事情があったのか。そう自分に言い聞かせても、納得できないでいた。

 己の心を吹きすさぶ荒野に置き去りにした両親が許せない。

 考えても仕方のないことだということはわかっている。わかっているけど、考えてしまうんだ。


 だから俺は、結婚するならハーフの子だと決めている。

 同族なら、きっと俺の両親のようなことにはならない。

 そう信じた。


「でもまぁ、違う文化の人と交流があるというのは良いことです。それだけで見聞が広がりますよ。私もよく暁ちゃんのところに遊びに行きます。いろんな人や人じゃない人がいて楽しいです。今度ベティちゃんのところにも行かなくちゃ♪」

「そうですよ。それに貴方は悪魔の国をしょって立つ王たる存在なんですから。もっと世界を見てみないと。で、お手紙には何が書かれているのですか? 愛ですか? 愛の囁きですかッ!?」


 期待してもらってるところ悪いのだけど、簡単な挨拶と、先日迷惑をかけたことに関する謝罪。

 それから、今度グレンツェンでお祭りがあるから来てみないかというお誘い。彼女曰く、きちんとお詫びがしたいとのこと。

 本当に真面目だなぁ。こういう子には好感が持てる。誠実で思慮深い。これで生まれがハーフなら言うことなしなんだけど。


 その内容に湧き立ち茶化す三人官女をあしらって、お祭りにはぜひ参加する旨を書き連ねる。

 筆が走るのを見て勝手なコイバナで盛り上がるレディースの楽しそうな表情たるや微笑ましい。

 世は快晴。素晴らしきかな!


本格的に文通を始めた小鳥遊すみれとイラ。すみれは恋心を乗せて、イラは義務感故に。

彼女の想いは彼へ届くのでしょうか。それともただの文通仲間で終わってしまうのでしょうか。

その顛末は秋ごろに発覚する予定です。実りの秋。恋の花は咲くのかな?


次回はアルマが聞かん坊をこてんぱんにするお話しです。


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