133.異世界旅行2-7 思い出に、『また明日』を 64
せっかくなのでわたしも月下に大好きアピールしたい。
「月下、祈ちゃん、スイーツ食べるのまだでしょ? 焼き芋を使った柿のタルトがあるからみんなで食べよ♪ ペーシェも、タルトとクッキーと、紅茶を淹れてもらったよ」
「焼き芋っ!」
「わぁ~、ありがとうございますっ! いやー、本当においしい桃ですね。宝玉の名にふさわしいおいしさでした。一瞬、魂が抜け落ちたかと思いましたよ~♪」
「ッ!」
本当に魂が飛び出てたよ、とは言えなかった。
多分言っても信じない。それに信じたら信じたで困る。
どういうわけか桃源郷を見たのはわたしとペーシェだけらしい。彼女とわたしの共通点とは?
気になるけど、今はスイーツタイムに集中しよう。残念かどうかはともかく、宝玉を食べることはもうないだろう。おいしかったけど、エクトプラズムしてしまう果物はノーサンキュー。
月下に笑顔で差し出されたら食べちゃうだろうけど。
おいしいスイーツを食べる祈ちゃんと月下の笑顔が眩しい。永遠に見ていられる。なんて幸せそうな笑顔で咀嚼するのだ。ほっぺを膨らませてもぐもぐする姿が愛らしい。
眼♪ 福♪
もぐもぐもぐもぐ。すすー……っ。ふはぁ♪
おいしいスイーツ。おいしいハーブティーと紅茶。かわいいフェアリー。美しい景色。
なにもかもがプレシャス。なにもかもがマーベラス。こんな時間が過ごせるなら、メリアローザに住んでもいいかもしれない。
そんなことを思うわたしの耳に残酷な言葉が聞こえた。
「ティータイムが終わったらグレンツェンに帰らなきゃかー。名残惜しいなー」
「いやーっ! 聞きたくなーいっ!」
そう言って耳を塞ぐ。すると暁さんが悪魔の囁きをする前にシェリーさんが止めに入った。
きっとまたわたしを勧誘しようとしたのだろう。メリアローザでならいつでもフェアリーとティータイムが楽しめるぞ、と!
もしもそれが夢や幻なら諦めもつこう。
しかし!
これは!
まごうことなき!
現実ッ!
ならば!
心行くまで!
後悔なく!
堪能するしかない!
意を決して頭を上げると同時にソフィアさんから質問がくる。
「姫様の付き添いの折りに時々ベレッタを見かけるんだけど、ベレッタって眼鏡かけてたっけ? というか、レンズの横のそれってカメラ?」
「えっ、ええと、急用でこれなくなったマルタさんに押し付……渡されて、ずっと動画を撮ってま、あっ! 伝えるのを忘れてました!」
「いいよいいよ。気にしないで。異世界の景色だからネットに上げるとかはしないでしょ? でも、コピーしたデータがほしい」
「あ、はい」
結果オーライ。危うく盗撮になるところだった。




