133.異世界旅行2-7 思い出に、『また明日』を 51
覇気に満ちたゆきぽんは小さな嘴を姫様のほっぺに押し付ける。押し付けて、押し続けるためにぐいぐいと前に進んだ。小刻みに歩み寄り、ついには首筋に足をかけて本気で押しにいく。
このままでは真綿で首を締めるが如く、首が折れるまで押し続けそうな勢いだ。
「ちょっ、ゆきぽんっ、力強っ! あ、これ、あっ、やっぱりソフィア貴女、使い魔に魔力を送ってるでしょ!」
「首折れろーーーー」
「死んじゃうおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
「ソフィアさん! さすがにそれはやりすぎです!」
「……………………」
「沈黙しないでっ!」
そろそろ止めないと姫様の首が90度に曲がってしまう。
そうだ。フィンガーライムでゆきぽんを釣ろう。手のひらにたっぷりのフィンガーライムを乗せて近づけると、好物に気付いたゆきぽんが手のひらに乗ってくれた。小さな嘴でつんつんつついてぱくぱく食べる。
かわいい。うさぎのゆきぽんもかわいい。小鳥のゆきぽんもかわいいなあ。
首が折れそうになった姫様のことを忘れ、一生懸命にごはんを食べるゆきぽんの姿をずっと見てしまった。
失意に伏せる姫様を見たペーシェはソフィアさんに当然の質問をする。
「ソフィアさん、姫様とはいつもこんな感じのやりとりなんですか?」
「そうだけど、どうかした?」
「いや、ええと、仲がいいなあと、思いまして」
「……………………」
「沈黙しないで欲しいんですけど……」
そのままソフィアさんは、姫様にひと言も声をかけることなくその場を立ち去った……。
♪ ♪ ♪
青い空の下には見渡す限りのハーブ園。風になびいて金と緑の波を見せる原風景は心が原初に還る場所。温かい日差しの中を優しく吹く小さく冷たい風が心地よい。
フラウウィード。空と大地とハーブを楽しむ、素敵な時間を過ごせる世界。
ゲートから降り立って、初めて訪れるカフェの景色にソフィアさんたちは胸躍らせる。
「なんて素敵なんだろう! 景色もそうなんだけど、緑の香りと色彩と、ウッドデッキのカフェのコントラストが素敵!」
ソフィアさんの高揚を代弁するかのように、ゆきぽんが大空へ羽ばたいて風の柔らかさを喜んだ。
デーシィさんも頬を染めて両腕を大きく空へ向ける。
「景色もよくて涼しくて、とても過ごしやすい場所ですね。こんなところでティータイムができるだなんて夢にも思いませんでした」
フィーアさんは足元で自由に散歩する鶏を見て目をそらす。
「サマーバケーションの時の鶏を思い出すな……」
つられてわたしも思い出して頭の外へ追い出した。
ティアさんは初めて見る景色に感動してぴょんぴょん飛び跳ねる。すると、鶏たちもつられて飛び跳ねた。
「なんだなんだ? 鶏たちも飛び跳ねるのか? メリアローザは本当に面白いところだな!」
「ティア、あんまり飛ぶと埃が舞うからそれくらいに」
「あっはは。ごめんごめん。それで、今日はここでティータイムなんだよね。でもまだ少しお腹がいっぱいだな。おいしすぎて食べすぎちゃった」
「それは同感」
実はわたしたちもそうなんです。キノコもパスタもスープもおいしくて、ついつい食べ過ぎてしまいました。




