133.異世界旅行2-7 思い出に、『また明日』を 49
襲い掛かったのはシャルロッテ姫様。大好きなソフィアさんの気を引こうと、ほっぺたをぷにぷにしてしまった。
しかし、フェアリーにほっぺをぷにぷにしてほしいのであって、姫様にほっぺをぷにぷにしてほしいわけではない。
ソフィアさんは目を見開き、怒りを露わにした視線で姫様を殺そうとする。
「怖いっ! ソフィアが怖いですっ!」
「誰のせいだと思ってるんですかッ!?」
「きゃあ~♪ ピウス助けて~♪」
「ッ!?」
調子のいい姫様がピウスの影に隠れてやりすごそうとする。いや、いくら仲のいいソフィアさんだって怒るでしょ。はい、怒髪天です。
静かに立ち上がり、なにが起こってるのかよくわからないピウスは立ち尽くす。賢いピウスはご主人様が友人に粗相をしたのだと理解した。だけど、主人を守ると決めた手前、逃げるわけにもいかない。どうすればいいか分からなくて硬直した。
そこに天からの御遣いよろしく、ソフィアさんの使い魔の、シマエナガのゆきぽんが舞い降りた。ピウスの背中に乗り、姫様とソフィアさんを交互に見る。
ソフィアさんは姫様との間に割って入った大切な家族を前にして止まった。ゆきぽんが次にどういう行動に出るのかで自分の考えが変わる。
ピウスの背中からどかないなら、回り込んで姫様を捕まえる。
ピウスの背中から飛び立つのなら、ピウス越しに姫様を捕まえる。
捕まえる以外の選択肢はない。
逡巡して数秒、ゆきぽんは飛び立ち、あろうことか姫様の肩に乗った。
まさか、ゆきぽんは姫様の味方をするというのか。
ソフィアさんは驚愕の事態に驚きが隠せない。
姫様はいやらしい笑顔をソフィアさんに向けて勝利を確信した。
次の瞬間、ゆきぽんは小さな嘴を姫様の頬に連打する。
大好きなご主人様の感情を代弁するかの如く。
「いだだだだだだだだだだだだだだだだだッ!?」
「ゆきぽん、ナイスッ!」
「これ、ナイスって言っちゃダメなやつですよね!?」
思わずつっこみが抑えられなくて叫んでしまった。
だって相手はお姫様。お転婆でもお姫様。身分というものがあるんですもの。
というか、この光景は前にも見たなあ……。
「大丈夫よ、ベレッタ。今はただの一人の女だから」
「せめて女の子って言ってあげたほうが……」
「自称・立派なレディって言ってるから」
「あ、はい…………」
取り付く島もない。でも悪いのは姫様なので止めようがない。
ピウスも困惑の色が隠せない。小さく呻くように鳴くのは、ゆきぽんに『そのくらいにしてあげて』と呼びかけてるのだろうか。




