133.異世界旅行2-7 思い出に、『また明日』を 37
度肝を抜かれた。フェアリーは花から生まれる。だから恋だなんて感情に興味が湧くなんて思わなかった。
違う。人間が大好きだから、人間を知りたくて、自分たちが持ちえることのない感情に興味があって、だけどそれはフェアリーにはないもので、羨ましくて、憧れて、でも届かなくて。
あーもーなんてセンチメンタルなのっ!
悶々するわたしを見た白雲が自分の独り言を聞かれたことに気付く。はっとして、彼女は小さく頭を下げた。
「あ、ごめんなさい。人間の【恋仲】という人たちを見ていると、なんだかわたくしたちまで心が温かくなって、幸せな気持ちになるんです。もしもそれが自分事になったなら、どんな気持ちになるんだろうと気になってしまったんです」
「ぐっ……それは…………」
それはきっととっても素敵なことなんだろう。
でも!
わたしは!
恋をしたことなんて!
一度だって!
ないのだ!
だからその気持ちを正確に白雲に伝えることができない!
なんてふがいないことだろうか!
「今ここから憧れの波動を感じたわ」
「インヴィディアさんッ!?」
この人、嫉妬とか憧れとかに敏感すぎません!?
ちょっと怖いんですけど!
事情を話したら経験豊富なインヴィディアさんがなにかいい助言をしてくれるかもしれない。
「恋の気持ち…………………………………」
ものすごい間を取られた。
目をかっ開いて、必死に過去の自分を思い出そうと試みる真剣さを感じる。
「もしかして、1000年の間、恋とかってしたことないですか?」
「恋………………は、ないかもしれない。彼と結婚したのも突然に告白されたことだったし。子供を生んだあとに速攻で離婚して、それからもう二度と結婚しないって決めたし」
「なんかその話し、ものすごく重そうですね……」
「重いわよ。思い出したくないくらい」
インヴィディアさんの目が死んでる!
怖い。超怖い!
話題をそらそうそうしよう。
「えっ、と……クラリスさんは恋色絨毯まっしぐらなんですよね。彼女に聞いてみたら分かるかも」
「そうね。きっとそれがいいわ♪」
クラリスさんを呼び込んで話しを聞こう。白雲の恋色バズーカを受けた彼女は赤面して俯いて、両頬に手を添えて体を左右に揺らして悶絶した。
「白雲、これが恋に身を浸した人間の感情よ。恋とか好きっていうのは言葉にならないものなの。でもね、胸の中があったかくなって、ぽかぽかしてとっても幸せな気持ちになるの。今の彼女がそれ」
インヴィディアさんの言葉に白雲がはっと気付く。
「恋は分かりませんが、好きという気持ちは分かります。わたくしもイチゴが大好きで、ぷっくりと膨れたつやつやのイチゴを見ると幸せな気持ちになります。食べるとじゅわっとみずみずしい甘さと酸味が口いっぱいに広がって、とっても嬉しくなります!」
「そう! フェアリー的にはそれが恋で好きって気持ちだと思うわ。これで白雲の疑問は解決できたかしら?」
「はい。教えていただいてありがとうございます♪」
さすがインヴィディアさん。いい感じにまとめてくださった。




