133.異世界旅行2-7 思い出に、『また明日』を 19
転写して焼きついた厚紙の上の魔術回路をなぞる。インヴィディアさんが焼き付けた通りの魔術回路が浮かび上がった。これを解きほぐし、指輪に刻印できるように再構成する。
アルマちゃんが解きほぐそうと難解なパズルを読み解こうとした。しかし、相当に難しいのか眉間にしわを寄せ、最後には引きちぎって破壊した。
「Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!! Uzeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee!!!」
なんかどこかで聞いたことのあるような咆哮が研究室に木霊する。
短気なアルマちゃんが地道作業に耐えきれずに破裂した。魔法に関しては短気を起こさないと思ったのは先入観だったみたい。
「あぁー……根気強く取り組む系は長丁場になるから我慢できるんですが、目の前のほにゃらがうがああああッ!」
「アルマさんはすぐに解決できると思ったのにそれができなくなると感情が爆発してしまうんですねえ」
アルマちゃんの咆哮を陽介さんが翻訳してくれた。そうだったのか。短気っ早い性格なのは知ってた。でも肝心なところは我慢できる子だと思ってた。魔法のことになればなんでも楽しく取り組む、と。
まさかこんな一面があったとは。それほどまでに難解なパズルなのか。不意にインヴィディアさんを見ると、視線を逸らされてしまう。いけない。彼女のほうを見てはいけない。
アルマちゃんを見よう。
「これ、よかったらわたしに任せてもらえるかな。レナトゥスで魔術回路の再構成は少しだけ経験があるの」
「よろしくお願いしうおおおおおおおッ!」
アルマちゃんは思い通りにいかなかったストレスで超速ヘッドバッドを繰り出す。こういう発作はいつものことらしく、陽介さんは慣れた様子でアルマちゃんにお菓子と紅茶を差し出した。続いて全員分のお茶菓子と紅茶を用意してくれる。
ひとまずわたしは目の前の魔術回路に集中しよう。魔法陣の構成自体は基本的な魔法と同じ。特殊な編み込まれ方はしてない。
闇魔法はわたしにとって未知の魔法。まずは基本的な魔法学に基づいて再構成を行おう。
「多くの魔術回路に見られる共通点。シンメトリー。円、三角、四角の多重構成。五芒星。六芒星。自然界を起源とする幾何学模様。情報を抽出。魔術回路を階層ごとに分離。形を整えて再構成…………」
重なった魔術回路の図形をひとつずつ引き離し、煩雑な形を魔術回路の基本原則に従って矯正。形を記録して再形成。
「――――できた。これで魔法が発動するか試してみよう。念のためにインヴィディアさんにお願いします。自分が普段使ってる魔法と同じ感覚かどうかを知りたいんです」
「え、えぇ、分かったわ」
なぜか彼女はおそるおそる魔法陣に手を伸ばした。彼女には1000年の時を越えて培われたプライドがある。自信がある。自負がある。だけれども、数十年しか生きてない若者にも満たない少女に及ばないものもある。
今まさにそれが目の前にあった。




