みな、夢のために 3
以下、主観【ヴィルヘルミナ・クイヴァライネン】
夕方が過ぎ、姉のシルヴァは明日用のケーキ作りのために店を閉め、厨房にこもった。
あたしはいつも通り、お店の掃除を終わらせ、戸締りの確認をし、母親のところへ行って売り上げの報告を行う。
今日はケビンさんとルージィさんのおかげで大繁盛だった。
いやぁ呼び水があると活気が全然違いますなぁ。おかげでお小遣いも少しアップしてもらえた。イケメン万々歳です。
最後のサービス券は少し露骨だったかもしれないけれど、また来てくれれば儲けもの。
持つべきものは友達です♪
小躍りを踊ってると、姉が部屋へやってきた。
嬉しそうなあたしを見てか、彼女も笑顔になる。
「お疲れ様。お小遣いアップしてもらった?」
「うぃ~♪ 3割増し増しなの~♪」
「う~ん……お姉ちゃんとしては、そういう呼び込みの仕方ってどうかと思うけど」
「大丈夫。誰も困らないならオールオッケー! お店も繁盛。お小遣いもあっぷっぷ。お客さんも幸せになる。素敵なことなの。これであたしの夢に一歩近づいたの~」
「イケメン2人のことはいいの? ヴィルヘルミナの夢って、お布団屋さんだっけ?」
「そう、それもただの布団屋さんじゃない。寝苦しい梅雨も暑苦しい夏も快適に過ごせる羽毛布団の開発なの」
「別に羽毛じゃなくてもよくない?」
「ダメッ! 寝る時は羽毛布団がいい。もふもふの羽毛布団が一番幸せ。なんなら枕も敷布団も羽毛!」
「そこまでしなくてもいいと思うけど。でも頑張ってね。お姉ちゃん、応援してるから」
「ありがとうなの! お姉ちゃんも頑張るの!」
厨房に戻る姉を見送って自室に飛び込む。そして羽毛布団にダイブ。
ふっふっふぅ~♪
あぁ~やっぱりこのもふもふ感。たまらないなぁ。ふかふかの羽毛布団に包まればなんだって頑張れる。どんな辛いこともやり過ごせるもん。
お札をぱんぱんと指で弾き、貯金箱へほうり込んで自然と口角が上がる。
これでもう少し。あと少しで目標金額に到達する。
お金を貯めてモーリシャス島へ行き、ドードー鳥を探しに行くのだ。
噂だと、ドードー鳥の羽はもっふもふでふっかふか。通気性も高く、最高級の羽毛布団に使われたという。
しかし数百年前、ドードー鳥は突如として島から姿を消した。人間から逃れるためにどこかへ逃げてしまったと推測された。
逃げ出したドードー鳥を見つけ、最高の羽毛布団にするという野望を胸に、ヴィルヘルミナ・クイヴァライネンは夢を見る。
いつか必ず見つけだし、最高の睡眠ライフを送るためにっ!
~~~おまけ小話『起源』~~~
ケビン「毒を使ったケーーーーーーキって作らない?」
シルヴァ「そんなの作ったらお店が潰れる上に刑務所行きになるのが明白なので扱いませーーーーーーーーーーーーん」
ルージィ「お前マジで黙ってろマジで」
レレッチ「え、えっと、チョコレートケーキってショコラが開店した当初からあったんですよね。どういった経緯で生まれたのですか?」
シルヴァ「グランパがパティシエを志すきっかけになったのが、子供たちに作った手作りのチョコレートケーキなの。だから看板メニューは絶対、チョコレートケーキにするって決めてたみたい」
ルージィ「ん! パティシエになってチョコレートケーキを作ったんじゃなくて、パティシエになるきっかけがチョコレートケーキだったのか。ってことは、店を開店させたのはかなり晩年なのか?」
シルヴァ「そうなんです。グランパはパパがお店を継承するまでずっと現役だったんですよ。元々バイタリティが凄い人だったんだけど、亡くなる95歳までずっと厨房に立ってたんです」
ルージィ「それは本当にすごいな。95で厨房に立てるって」
レレッチ「本当にケーキと、子供たちからもらったありがとうを大事にされてた方なんですね。ちなみに長寿の秘訣とかあるんですか?」
シルヴァ「甘い物は新作スイーツの時の試食だけ。運動と栄養バランスのいい食事。パティシエだからって、甘い物ばかり食べない」
レレッチ「パティシエにあるまじき発言と思いきや、めちゃくちゃ合理的!」
シルヴァ「見た感じはそうでもないんだけど、仕事になるとゴリゴリの合理主義者だったみたい。あ、自分に対してもだったかな」
ルージィ「兄妹のしっかり者気質はグランパからだったか。ぜひとも会ってみたかった」
シルヴァ「まぁ私は試食だろうがプライベートだろうが、甘い物は食べるけどね」
ルージィ「うん、まぁ、人それぞれあるからな」
ケビン「俺は
ルージィ「はい黙ってろ」
みな、自分のやりたいこと、したいことのために奔走しています。
まだ自分が何をしたいのかが分からず、何ができるのかを探している人もいます。
悩みながら助け合い、笑い合いながら手をつないで前へ進んでいます。
いやぁ青春ですねぇ。




