133.異世界旅行2-7 思い出に、『また明日』を 16
紅茶をすすり、クッキーをかじったところで話題が私に向けられる。
「ソフィアくんも凄まじかったね。あれほど巨大なゴーレムは僕の人生の中でも見たことがない。それをあっという間に解体してしまうなんて。やはりどこかで戦闘の訓練を受けたのかい?」
「ええ、護身術程度ですが」
「護身術程度……」
私との一対一の勝負を引きずるシェリーさんのクッキーを食べる手が止まる。八百長だったのに、なにをそんなに気にすることがあるのだろう。
シェリー騎士団長が本気で戦ったなどと夢にも思わない私は、シェリーさんの本心をスルーして紅茶をすする。
ひと含みして紅茶の味と香りに酔いしれて、温かい溜息をひとつこぼしたのちに簡単に過去を振り返った。
「幼い頃は孤児でして、ですが出会いに恵まれて、今の私がここにいます。彼らには本当に返しきれない恩があるんです。それでいて、私が幸せに暮らすことが恩返しだって言ってくれて、私は本当に幸せ者です」
「素晴らしい! 君の育ての親や友は素晴らしい人物だ。ぜひとも会って話しがしたいな」
「それは、少し難しいですね。あ、亡くなってるとかではないんです。物理的な意味で会いに行けないだけなんです」
「そうか。それは残念だなあ」
「ええ、本当に……」
後から知ったことなのだが、かつて私がいて、今も迦楼羅さんたちがいる場所は時空の歪の中。座標が分からない限り、こちらから会いに行くことはできない。
暖かなティーカップを撫でるように包む。あの温もりが恋しい時はいつもこんな空虚な気持ちになった。隙間風が心の空洞を通り抜けて行くような、冷たい秋の風が全身にまとわりつくような、いてもたってもいられなくなる寂しさを感じる。
だからだろうか。姫様といる時は寂しさを忘れられる。少なくとも、騒がしくわがままな姫様といると寂しいという気持ちは湧きあがらない。良くも悪くも。
最後の紅茶を飲み干して、ほっこりあたたかな溜息をついて秋晴れの空を仰ぐ。
姫様と一緒にいるのは楽しいけど、同じくらい疲れるんだよなあ。
寂しい気持ちを紛らわすには丁度いいけど、騒がしいのも困り物だよなあ。
「給料はいいけど、拘束時間が長いよなあ」
「――――そこのところはきちんと相談するよ」
「――――――――げっ!? 今、私、声に出てました!?」
「「「「「思いっきり」」」」」
ヤッ・バッ・イッ!
赤面して、いたたまれない気持ちになって、クッキーをハンカチに包んで立ち上がる。
「さぁっ! キノコ狩りに参戦しましょうっ!」
露骨に逃げを打ってしまった……。




