133.異世界旅行2-7 思い出に、『また明日』を 15
魔晶石が手に入らない。ともすれば、シェリーさんの意識が目の前の魔晶石に向くのは必然だった。
「ダンジョンの性格上、この魔晶石はソフィアの収穫物だ。そこで提案なのだが、ソフィア、レナトゥスに売らないか?」
レナトゥスなら高値で買ってくれるだろう。だけど、私はこれを手に入れた時に心に決めたことがある。
「えっと……、これは暁さんに渡そうと考えてるんです。ご飯も宿もいただいちゃって。いくらになるかわかりませんけど、ルクスの言う通り、働かざる者食うべからず、ですから」
「ソフィアはいいお嫁さんになるよ」
そう言ったシェリーさんは額を机にぶつけて沈黙した。
目の前のごちそうにありつけなかったシェリーさんは溜息をテーブルの下に隠す。
申し訳ありません。暁さんは構わないって言うけれど、妹におんぶにだっこは姉の小さなプライドが許さないのです。
シェリーさんから視線を逸らそうと、ライブラからゆきぽんのご飯を取り出して与える。フィンガーライムの粒を手のひらに乗せてちゅんちゅんしてもらう。
すると、目の前に紅茶とクッキーが滑り込んだ。いつの間にか席を離れたサンジェルマンさんがティーセットを用意していたのだ。全然気付かなかった。
がっくりするシェリーさんに、サンジェルマンさんが優しく声をかける。
「まぁまぁ、魔晶石なら別の機会に手に入れられそうだし、今回はフィーアくんとソフィアくんの実力が確認できただけいいじゃないか。すまないね、二人とも。無理に付き合わせてしまって」
「あたしは問題ないですよ。ずっと隠してたツケみたいなもんですし。それより、思いっきり感情のタガを外したとはいえ、お見苦しいものを……」
「いやいや、君の人と成りが見られて嬉しいよ。やっぱりベルン騎士団に居てほしいと強く思わされた」
「い、いやぁ~……えへへ♪」
フィーアの髪が赤く光った。ストレートに褒められることに弱いからなあ。それが尊敬する大先輩となればなおさらか。




