133.異世界旅行2-7 思い出に、『また明日』を 13
ゴーレムは巨大だけど動きが遅い。解体していくにつれて動きが早くなるかもと警戒したが、そういうこともないらしい。
あっという間に核のある中心部分を切り離し、橋梁型ゴーレムは完全に沈黙した。だけど、このまま放置すると核から漏れる魔力のせいで新たなゴーレムが生成されるだろう。このあとの処理はどうしてるんだろう。
ロリムに聞いてみるか。
「ひとまずゴーレムを沈黙させたけど、このあとはどうすればいいの?」
聞くと、ロリムは万雷の拍手を思わせる勢いで喝采を与えてくれる。
「素晴らしい! これほどまでに完璧な解体をした記録はありません。ソフィアさんは本当に素晴らしい人間ですね」
「人間……?」
なんだか違和感のある言い回し。私の小さな疑問符を無視したロリムは本題に入る。
「あとは核を取り出すだけです。それは私の得意とするところなので、あとのことはお任せください。よいしょっ」
よいしょ、と言ってゴーレムの核のある巨大な岩石に手を当てると、ゆっくりと引き込むように岩石の中から輝く丸い塊が現れる。
ブラックオパールのような不思議な輝きを放つそれを全員が覗き込むように見た。
美しいだけではない。安定した魔力を内包したそれは、魔力を内包した魔鉱石のそれ。これが魔晶石というものなのか。
未知の物質に興味津々なシェリーさんがロリムの手の中の魔晶石を見て言った。
「魔鉱石と同じく大量の魔力を内包してるみたいだが、これはメリアローザではどのように使われるんだ?」
「その質問に答える前にこの階層を離脱しましょう。魔晶石を求めて他のゴーレムが集まってきます。ほら」
ほら、と言われて顔を上げると、マネキンらしき形をしたゴーレムやら、タイヤがパンクしたような姿の車型ゴーレムやら、ホラーなゴーレムワンダーランドがパラダイス。
途端、全員が脊髄反射的に戦闘態勢に入って武器を構える。
いの一番に号令を出したのは歴戦の雄、サンジェルマン・アダン。
「ロリムくんを中心に円陣! 目的はダンジョンからの離脱。ゲートを12時の方向として右回りにシェリーくん、桜くん、フィーアくん、僕、スカサハくん、ソフィアくんで6方向をカバー。足並みを揃えてゲートへ前進! 始め!」
「「「「「了解!」」」」」
英雄の言霊に全員の心が一つになる。
シェリーさんは神器の盾を構え、空気を圧縮して盾で押し出す。迫りくるゴーレムのカーニバルを蹴散らしながら道を作った。
側面に位置する桜、フィーア、私、スカサハは側面から襲い来るゴーレムを相手にする。倒す必要はない。大振りの必殺技は無用。移動の速度を落とさず、道に障害物を寄せ付けず、ただ粛々とゴーレムを張り倒す。
私はゴーレムの足を重点的に攻撃。行動不能にすればそれでいい。
フィーアはプロボクシングプレイヤーのジャブのように的確に、細かく、手数を多く、それでいて一発一発に衝撃の魔法を乗せてゴーレムを吹き飛ばす。
桜は全員の歩幅を守りながらコンパクトに刀を振るった。小さな傷が爆発し、周囲のゴーレムごと粉々にする。
スカサハは私と同じくゴーレムの関節だけを的確に狙い、長槍を小さく振るって円陣を守る。槍は相手と距離を取って攻撃することはもちろんのこと、長さを活かした遠心力の力で高い攻撃力を出す。ゴーレムのような防御力の高い相手に、それも振り幅の狭い密集した陣形は槍使いにとって得意な戦況ではない。
おそらくこの人、第三者を守ることに長けた術者だ。インヴィディアって人の守護者って感じだった。だけど、インヴィディアさんの魔力を見る限り、守る必要がないほどの怪物に見えたけどな……。




