133.異世界旅行2-7 思い出に、『また明日』を 11
太陽に見られるプロミネンスが魔法陣から飛び出しては大地に向かって消えていく。
魔法陣を発動して、彼女はストーンヘンジ型のゴーレムへつっこんで行った。その間にも、発動させたプロミネンス・ダンスパーティーはフィーアを中心に荒れ狂う。自分を起点にして移動する、極めて珍しい魔法のひとつ。炎の結界を己の周囲に常時展開させる、超攻撃型の魔法。フィーアの火の魔力と相性抜群。近づくだけで焼かれてしまう。踊り狂う活火山。
異様な熱量に気付いたのか、ストーンヘンジは足の生えた毛虫のようにもったりと動いてフィーアに襲い掛かる。ゴーレムの攻撃方法はシンプルに『殴る』。巨大な建造物がそのまま人間を押し潰しにくる。ただただシンプルに恐怖でしかない。
それをフィーアは真正面から受けてたつ。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぅぅぅぅぅうううううらああああああああああああああああああああああッ!」
右ストレートがゴーレムの拳を溶かして粉砕。溶岩弾のような飛沫が花火のように散って消える。
次に繰り出す左の拳はゴーレムの胴体の真上から。雄たけびと共に大地へ叩きつける。
「なんでよりによってマリーと相思相愛なんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」
失恋の八つ当たりが炸裂した。
巨大な体は真っ赤に燃え、溶解し、爆散する。
その間にも、魔法陣から噴き出すプロミネンスがゴーレムの長く分厚い胴体をドロドロに溶かし続けた。
ゴーレムから吹き出る水蒸気が収まるにつれ、原型は崩れ、最後には跡形もなく消えてしまう。残ったのは黒い塊の岩石と、真っ赤な髪を輝かせるフィーアのみ。
まだ殴り足りないのか、拳を構えて空へ咆哮を放つ。とても人間から放たれる音ではない。獣の咆哮と呼ぶべき轟音が響き渡る。腹の底を豪打するような音圧が轟いた。
「フィーアってこんな声を出すのか……」
部署は違えど、教職の場で仕事を共にする同僚の真の姿を見たシェリー騎士団長が絶句する。
「なんとまた、これは壮絶」
サンジェルマンさんも呆気に取られて言葉が縮こまった。
「凄まじい攻撃力です。たいていのモンスターは大地と共に灰燼に帰しそうですね」
「モンスターの素材が取れないし、生態系を破壊しそうだから冒険者には不向きだな」
冒険者の桜とスカサハは至極冷静。
ロリムは感嘆の溜息をついてフィーアを眺める。
失恋の記憶を思い出したフィーアの激昂に誘われて、大地に眠るゴーレムたちがゾンビ映画よろしく現れた。
それと同時にゾンビじゃなくてよかったと思った。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ! ぶっっっ壊れろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」
うわぁ……。ここまで全力で暴力を解き放つフィーアは初めて見た。




