133.異世界旅行2-7 思い出に、『また明日』を 10
バラの蔓が撒きつく小さな黒い古墳から転移した先には快晴の空。海に面した崖には崩落した石造りの橋。丘の上にストーンヘンジを彷彿とさせる遺跡群。海風が心地よく吹くここはダンジョンの中。薔薇の塔17層【ゴーレムパラダイス】。
見渡す限りにおいてゴーレムのゴの字もない。てっきりゴーレムが縦横無尽に闊歩するディストピアだと思っただけに拍子抜け。
現実はひどく寂しく、痛々しいまでの静寂が横たわる。我が愛しの使い魔たるゆきぽんが動かない。知らない土地に来たら、とりあえず飛び回って環境視察をするゆきぽんが飛び立たない。私の頭の上で佇むばかり。
「なんでゴーレムパラダイスって名前なの?」
呟いた私の疑問にロリムが答える。
「ここを塔破した人物がゴーレムの研究者でして、ゴーレムが大好きなんです。なので、ゴーレムが頻出するこの場所はまさにパラダイスだ、と。そのように聞いております」
「好きな人には、ね……」
ゴーレムのパラダイスなんて普通に嫌なんですけど。でもゴーレムはいない。研究者が狩りつくしたのかな。
首を傾げる私の隣でロリムがストーンヘンジを指さした。
「今日はまた破壊しがいのあるゴーレムが生まれましたね」
「破壊しがいのあるゴーレム?」
指さしたものはストーンヘンジ。円環の建造物。まさか……?
ロリムの次に言葉を放ったのは黒髪ポニテの夜咲良桜。
「フィーアさん、ソフィアさん、戦闘準備はよろしいですか?」
「嫌な予感がするけど、まぁ、大丈夫」
「あたしはいつでもいいよ。ソフィア、先にあたしにやらせてくれ。せっかくだから全力で八つ当たりしたい」
「あ、うん。どうぞ」
失恋の八つ当たり。それは私もしたいかも。
フィーアは魂の形から巨大なガントレットを取り出す。彼女の体格をすっぽり包んでしまえるほどに巨大な籠手。
魔装・激甚拳【十赫】
魔装とは、己の魂の形から生み出した自分専用の魔力兵装。己の魂から生み出された武器は魔剣と同様、己が発現する魔法の全てを最大化することができる。それは魔剣を遙かに越える性能を持つ。
ただし、己の魂を形にするということは、己の精神をむき出しにするということ。武器のダメージはそのまま術者が受けることになる諸刃の剣。
赤く燃える巨大な籠手を携え、フィーアは大地に拳を叩きつけた。
「さぁ、共に踊り狂おう!」
フィーアを中心に巨大な魔法陣が展開。最大まで広がった瞬間、魔法陣から火柱が上がる。




