133.異世界旅行2-7 思い出に、『また明日』を 9
姫様を引きはがしたい私はシェリーさんに目配せする。彼女も私と同意見。
「姫様、これから行くのはゴーレムが出現するダンジョンです。一緒には行けません」
「わたくしにはピウスがいます。それに夜咲良さんとスカサハさん、サンジェルマン副騎士団長、シェリー騎士団長もいらっしゃるではないですか。だから安全です!」
なんという他力本願。わがままプリンセスのうざいことよ。
どうやって諦めさせよう。いや、考え方を変えよう。戦いを見るよりもっと楽しいことを提供すればそっちに意識が向くはず。
「姫様、せっかくですから異世界でしかできない体験をしましょう。今日のお昼ご飯はキノコだそうです。山に入ってキノコ狩りなんていかがですか? ベルンではなかなかできない経験ですよ?」
「山狩りでしたら先日行きました。紅葉の実をたくさん取って、みんなでおいしい紅葉饅頭を作ったんですよ。ソフィアにも食べて欲しかったですね♪」
ぐぬぅ。既に体験済みだったか。
たしか以前の会議では、姫様は異世界大使になると豪語していた。であるならば、この世界のことをもっとよく知る必要があるのではないだろうか。
「たしか、姫様は異世界大使になられるんですよね。それでしたら、暁さんのお仕事を見学されるべきでは? もしかして、もうご覧になられましたか?」
「いえ、それはまだです。ソフィアの言葉にも一理あります。が、今のわたくしは仕事モードではありません。遊びたい盛りなんですっ!」
「それ、自分で言わないでください……。シェリー騎士団長。どうすれば姫様を諦めさせられますか?」
「う、うぅ~ん…………」
騎士団長は悩み、一瞬で答えを導き出す。
「姫様。今回ばかりは諦めてください。なにが起こるか分かりません」
「むぅ~っ!」
ぷっくりと頬を膨らませて不機嫌をあらわにする姫様の前に、のけ者にしたグリムが現れた。私の意図を知ってか知らずか、グリムは姫様をキノコ狩りに誘う。
「ソフィアなんか放っておいて、フェアリーたちと一緒にキノコ狩りに行きましょう。きっととっても楽しいですよ。ソフィアなんか放っておいて」
目がマジだ。そんなにのけ者にされたことが気に障ったのだろうか。誘っても断られることが分かってるから気を使って誘わなかっただけなのに。
傍観する私の隣にいる姫様は圧に押されて固まる。トドメとばかりにグリムが言葉を続けた。
「ソフィアのためにキノコをたくさん集めましょう」
毒キノコじゃないよね?
「フェアリーのみんなも、シャルロッテ姫様と一緒にキノコ狩りに行けたら楽しいですよね?」
「えっ!? シャルロッテも一緒にキノコ狩りに行ってくれるの?」
「――――うんっ! みんなでたくさんのキノコを集めましょう!」
「「「「「やったーっ!」」」」」
一瞬悩み、グリムの圧とフェアリーたちの期待の眼差しのまま肯定した。
グリムのファインプレーで姫様が引きはがされた。あとは毒キノコを料理に出されないように気を付けなくては……。
そう思うと、グリムはいつものアルカイックスマイルを見せる。
怒ってるの?
気にしてないの?
どっちなの?




