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学術都市グレンツェン

学術都市グレンツェンは一般的な日本の学校教育とは違う構造になっているので、少し感情移入がしにくいかもしれません。

作者が初期に構想していた時は1クラスに数人を詰め込んで、少数の人間とサブキャラ的なキャラクターを回していくという王道のストーリーを考えていました。

しかし作者の性格上、それでは間違いなく飽きること、キャラクターをたくさん登場させたいという願望、登場回数の少ないキャラクターにも人生があるという信念。

そして作者が別で掲載している、これから作成予定の作品のキャラクターが出てくるという小説体系自体の性格のおかげで、自然と登場人物が多くなることになりました。

それはそれでたいへんですが、色んなキャラクター視点のストーリーを展開できる面白さもあります。


グレンツェンの格言にも取り上げますが【一生青春】を掲げ、多くの人々の娯楽に、なれれば幸いです。どうぞ末永く、よろしくお願いいたします。

追記:【学術都市グレンツェンへようそこ!】に登場するネタの中にはフィクションっぽいノンフィクション、ノンフィクションっぽいフィクションが織り交ぜられています。『世の中にはこんなものもあるのか』『世界ってこんなに面白いんだ』と思ってもらえるような、世界にわくわくしてもらえるような作品を目指して参りたいと思います。




以下、主観【小鳥遊すみれ】

 私は小鳥遊すみれ。どこにでもいる16歳の女の子。

 でも私は世界にたった1人だよ!


 生まれ育った島からフェリーで2時間。

 バスで空港まで3時間。

 飛行機に乗って16時間。

 さらにシャトルバスに乗って約2時間半。


 そこは春の青空に眩しく輝く花の国。

 煉瓦と木でできた街並みも、ショウウィンドウに並ぶかわいい雑貨も、何から何まで初体験。絵本やお話しには聞いていたけど、見たり触れたりするのは今日が初めて。

 特に人の多さにびっくり仰天。島から出たことのない少女は、生まれてこのかた自分以外の人間で、3人より多くの人が集まる景色を見たことがない。

 ドキドキとワクワクが渦巻いて、心臓が爆発してしまいそうになるのを必死に抑え、バスを降りていざ参らん。


 見たことのない赤い服。

 朝露を抱いた青い花。

 黄土色の石畳。

 大きな音を立てて人をたくさん乗せて走る薄緑色の路面電車。


 きょろきょろと辺りを見渡して、地図を見ながら目的地に向かう。

 大丈夫。地図を見る予習はちゃんとしてきた。故郷の島で地図を作って、目印を見つけて、まっすぐ進む。

 そう、コツは目印を見つけること。

 たしか四角くて大きな建物で、一番高い建物に鐘がいっぱいついてるって…………あ、どの建物も大きくて、見上げても見当たらない!

 そうだ、島は遮蔽物が殆どないから見えたんだ。まさかこんな大きな建物が存在するなんて思わなかった。

 どうしよう。人に聞くのがてっとり早いんだけど、育ててくれたおばちゃんたち以外とお話しなんてしたことない。

 そもそも聞いて教えてくれるだろうか。みんな忙しそうにしてるように見える。どうしようどうしよう。


 あたふたとパニックになって、振り向き様に大きな壁にぶつかってしまった。

 反射的にごめんなさいを言って頭を下げると、大きな壁は、『大丈夫』と手を差し伸べてくれた。壁じゃなくて人だった。壁だと思ったのは彼女の足。青いジーンズだった。

 身長191cm。金髪碧眼のナイスバディ。

 編み込まれた大きな三つ編みが腰まで伸びる大人の女性。

 そして、私の、留学生活初のおしゃべり相手。


「大丈夫? 怪我はない?」

「あ、はい、その、大丈夫です。こちらこそごめんなさい。慣れない場所で落ち着かなくて」

「そうなんだ。私もだよ。ここに来たのは今日が初めて。もしかして、あなたも勉学のためにグレンツェンへ来たの?」

「あ、はい、そうなんです。あなたもですか? えっと……」

「私の名前はハティ・ダイヤモンドムーン。ハティって呼んでほしい。みんなそう呼んでる。あなたの名前は?」

「私の名前は小鳥遊(たかなし)すみれって言います」

「すみれ。いい名前だね。これからよろしく。よかったら一緒に街を見て回らない? 暁が案内人を紹介してしてくれてるから、今からそこへ向かうところ。でも場所が分からなくて。四角くて大きくて、鐘がいっぱいついてる建物なんだけど」

「それ! 私も今から行くところなんです。一緒に行ってもいいですか?」

「もちろん。でも場所がわからない」

「そうですよね。空が飛べればいいんですけど。なんちゃって」


 見上げると、悠々と空を舞う鳥さんたち。

 私もあんなふうに空が飛べたらいいのにな。

 旋回する鳥の跡を目で追ってると、ハティさんは、ぽんと手を叩き、思い出したように言い放った。


「空を飛ぶ。そうだ、そうすればよかったんだ。なんで気づかなかったんだろう。すみれ、しっかりつかまって」


 返事をするより早く、しっかりと抱きかかえられて、景色が一変した。

 足が空に浮いて地上の人々が小さくなっていく。空に浮かぶ雲が大きくなっていって、心地よい春の風が頬を撫でる。

 眼前に広がる景色はまるでキャンパスに描かれた絵画、いやそれ以上、たくさんの人の営みが、とてもキラキラして見えた。

 私もこんな風に、キラキラのひと欠片になれるかな。


 鐘のある建物を見つけて降り立つと、たくさんの人混みの中をかきわけて1人の少女が突進してきた。

 金髪ツインテールと笑顔の素敵な女の子。ハティさんをめがけて抱きついた。

 その後ろで手を繋いで歩く双子の姉妹。1人は明るいオレンジ色の髪をしていて年相応に闊達そう。もう1人の明るい青い髪色の子は、年不相応に落ち着いてる。

 3人ともハティさんの知り合いだそうで、共に机を並べて勉学に励むよう、紅暁(くれないあかつき)という人物から留学してきなさいと言われたそうな。


「はじめまして。アルマ・クローディアンと申します。鐘のある建物を目指してらっしゃるということですが、すみれさんもヘラさんとお知り合いなんですか?」

「え、いいえ、存じておりませんが」

「そんなにかしこまる必要はありません。アルマのことは気軽にアルマとかアルマちゃんって呼んで下さい」

「キキもねー、キキちゃんって呼んでくれると嬉しいなー」

「私のこともヤヤとお呼び下さい」

「それじゃあ、その、私のこともすみれって呼んで欲しいな。よろしくね」


 金髪ツインテールの元気な子はアルマ・クローディアン。15歳。

 幼い頃に事故で両腕を失くして、今ではフリフリの袖を魔法で操り、両手代わりに動かして生活している。

 魔法が大好きらしく、ここ学術都市でも魔法に関する知識を深めるため、ケンカで負けたトカゲ野郎とやらに勝つためにやってきたそうな。超が付くほどの負けず嫌いだ。

 自慢のツインテールはハティさんに対するリスペクト。師として仰ぐ仲らしい。


 双子の姉妹はキキ・ランヴィとヤヤ・ランヴィ。10歳。

 ヤヤちゃんがお姉さんでキキちゃんが妹さん。物怖じせずに突っ走る妹と、それを見守るお姉さんといった、とっても仲良しの姉妹。

 キキちゃんは暁という人から、好きなことをたくさん見つけて、たくさん学んでくるように言われてるらしい。

 ヤヤちゃんはなまじなんでもできるて効率的すぎるから、無駄と思うことを積極的にしてきなさいと言われてるそうだ。

 変わった人な気がするけど、それ以上にきっといい人なんだなと思った。


 大人の男の人より背の高いハティ・ダイヤモンドムーン。自称24歳。

 年齢については、物心ついた頃から世界中を旅していて、自分が何歳か分からないし、気にもしてこなかったから、とりあえずこのくらいということで、年齢を聞かれた時はそう答えてるらしい。

 ずっと放浪生活だったけど、ある出来事をきっかけに、行き場をなくした子供たちの里親的な立場になる。だから子供たちに勉強を教えて、『お姉ちゃんすごーい』と言われたいから本を読むことを決意した。

 文字を勉強するためにグレンツェンへやってきた。勉強しようと思った理由がかわいい。


 自己紹介を済ませると、待ち合わせた人がやってきた。パッションピンクの髪色をしたほんわか物腰の柔らかそうな女性。

 ヘラ・グレンツェン・ヴォーヴェライトと名乗るその人は、暁と呼ばれる人物と仲良しで、4人に街の案内を頼まれていた。

 恐る恐る飛び入りでの参加を希望しても、嫌がる素振りもみせず、笑顔で快諾してくれる。


 みんな本当にいい人ばかりなんだな。笑顔と一緒にこぼれたありがとうに、安堵のため息を感じたのか、彼女は頭を撫でてくれて、緊張しなくても大丈夫だと励ましてくれた。

 その手がとっても温かくて、きっと母親の手もこんななんだろうなと、まだ見ぬ両親を心の中で夢想する。


「この学術都市は、年齢に関係なく好きな講義を選択して履修するのですよね。それこそ同じ講堂に違う世代・価値観を持った人々が集まると聞いています」


 博識なヤヤちゃんが楽しそうに語る。

 そうだったのか。いろんなことが学べて、いろんな人と出会える。なんて素敵なところだろう。


 ヘラさんは肯定してヤヤちゃんの頭を撫でてあげた。


「そうよ。暁ちゃんから聞いてると思うけど、すみれちゃんがいるからざっくりだけど説明するね。この学術都市グレンツェンは、誰もが学びの場を享受・提供できる場所。かつてこの都市、当時は領土だったのだけれど、領主のグレンツェン伯爵が貴族も農民も関係なく、勉学を修めるべきだと考えて創造されたのがグレンツェン。世代を重ねるごとに大きくなって、都市にまで発展したのがグレンツェンの歴史。今では世界中の人が集まって、いろんな文化が混ざりあってる。街の花屋さんから大企業のトップまで、誰もが学んで、誰もが教鞭をとる。自社の製品と技術のアピールと、優秀でオタクな人材を発掘するために、飛行機で10時間を費やす企業もあるくらい」


 ヤヤちゃんはヘラさんの息遣いに合わせ、楽しそうに体を左右に揺らす。

 ヘラさんの呼吸に合わせ、未来にわくわくするヤヤちゃんがヘラさんに言った。


「それでは、最初は膨大な講義の中から好きな科目を選択するところからですね」

「そう。でも履修期間はまだ1か月以上あるから焦らなくても大丈夫。その間にアルバイト探しとか講義のガイダンスを確認するのが一般的。普通の人は仕事をしながらだけど、みんなはギルドからお金を出資されてるから、そのへんは大丈夫かな。あ、でもアルバイトは成人、つまり15歳以上だから気を付けてね。18歳未満の20時以降の就労も禁止。さてさて、まずは――――」

「「「「「まずは?」」」」」


 ヘラさんは両の手をぽんと叩き、手を差し伸べた先には魔力と電気で走る路面電車がある。


「まずは家探し。それから街歩き。ハティちゃんの身長にも合う賃貸をいくつか抑えてあるから、まずはそこから。荷物があると動きづらいからね。街のこともいっぱい知ってもらいたい。おいしいピッツァを出す店もあるんだよ」

「おいしいピッツァ!」

「さすがハティさん。おいしいものに目がない! そこに痺れちゃう! 憧れちゃいます!」

「うふふ。アルマちゃんは暁ちゃんに聞いた通り、本当にハティちゃんのことを尊敬してるのね。あ、そうだ。これを言っとかなくっちゃ!」


 思い出した様子でくるりと向き直って、満面の笑みを見せて両手を広げた。

 誇らしく、鼻高らかに自慢するように、でも対等なまなざしでいられるのは、この街のことを本当に大好きで、愛してるからに違いない。

 自分にもそんなものができるだろうか。気づくと、胸にくすぶっていた不安がドキドキに変わっていた。彼女のそのひと言で、新しい扉が開けた気がしたんだ。


「ようこそ、学術都市グレンツェンへ!」




~~~おまけ小話『学術都市』グレンツェン~~~


キキ「学術都市ってよく意味が分かんないんだけど、グレンツェンってお花がいっぱい咲いてるね。お花の街なの?」


ヘラ「よくぞ聞いてくれました。グレンツェンは花の都とも呼ばれていて、世界中のお花が咲き誇る色彩都市でもあるの」


ヤヤ「どこへ行っても素敵なお花の香りばかりで見惚れてしまいます。花々に囲まれてのランチなんて最高でしょうね」


ヘラ「ええ、芝生はピクニックとして利用できるし、カフェテリアは屋外も開放してるから、お店で注文した料理を食べながらお花を愛でることもできるわ。めいいっぱい、グレンツェンを楽しんでね♪」


アルマ「花もいいけど超でっかい図書館が気になる。優雅に本を広げて、カフェで紅茶を飲むなんて大人っぽいかも!」


ヘラ「いいわね。グレンツェンの住人なら図書館の本はいつでも貸し出し無料だから、いっぱい借りていっぱい読んでね。有料になるけど、世界中の論文を購入できる設備もあるし、論文提供者がグレンツェンのデータベースに登録してたら、その人とコンタクトがとれるサービスも提供してるの。運が良ければ直接話しが聞けるかも。たくさん利用していってね」


すみれ「ろんぶん? でーたべーす? 勉強しなきゃいけないことがいっぱいだあ」


ヘラ「焦らずとも、ここから一歩一歩進んでいけばいいのよ。それに1人で悩まず、誰かに相談してもいい。グレンツェンの窓口には自己診断プログラムや、大好きなものを客観的にカウンセリングするサービスもあるから、困ったらそこに行ってみるのも手ね」


アルマ「す、すごい。学術的なところから、1歩を踏み出すためのサービスまで充実してるなんて。アルマの想像の斜め87度上を行ってました!」


ヘラ「ほぼ壁! 登るのが大変なやつ!」


ハティ「大丈夫。フライで飛べばいい!」


アルマ「おっしゃる通りです! さすがハティさん。あったまいいーっ!」


ハティ「そ、そうかな。えへへ」

人生で最も大事だと思うことを、この作品で最も伝えたいことを小鳥遊すみれが二行目にしてさっそく語ってくれました。

始まって一話目ですが、とりあえず言いたいことを言えた満足感があります。

これからもゆる~く、時々刺激的な作品をお届けできればと思います。

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