第一話 就職浪人のオレ、ついに就職!でも嬉しくねぇ!
新作のハートフルなハチャメチャ現代ファンタジーラブ(?)コメディです。
頭空っぽにして笑える作品を目指しますので、どうぞよろしくお願いします。
「粗茶ですが」
「ああ、お構いなく」
オレとちゃぶ台を挟んで対峙するこの人。
すらっとして、結構なイケメンで、なんだかデキる男、といった感じだ。
何故、見知らぬこのイケメンを家に上げたのかというと、ほんの10分程前に時間を遡らねばなるまい。
―10分程前。玄関にて―
「私、こういう者でございます」
「はぁ、どうも」
うやうやしく差し出された名刺には『人材発掘及び経営者復帰支援コンサルタント』というちょっと長めの役職が書いてある。
なんだこれ。復帰支援…?
「貴方のお住いになっているこの歴史ある家屋、そしてそれを管理する貴方に是非、受けて頂きたい案件がありまして。こうやってお伺いさせていただいた次第でございます」
深々と頭を下げるこの人、就職浪人と化したオレなんかに頭を下げるような感じじゃないんだが。
「えぇっと、住所を間違ってたりしません?」
「いえいえ!そんなことはございません。神鳥様のお宅ですよね?」
「確かにそうですけど…」
確かに神鳥は俺の名字だ。だけど、オレが住んでるこの家は古いだけのオンボロ一戸建てだ。
爺ちゃんと婆ちゃんが住んでたんだが数年前に亡くなって。
取り壊すのにも金がかかるし、立地が絶妙に田舎だからと買手もつかない。
就職浪人で就活をするオレに、両親が生活費を出すかわりにって出した条件がこの家に住む、って事だ。
なんでも、家っていうのは人が住んで多少手入れをしないと一気に廃墟まっしぐらになるとか。
ま、バイクもあるし移動には困ってないんだが…って思考がズレた。
この人、なんで態々このオンボロ一戸建てを歴史ある家屋、なんて言って強調したんだ?
「もし宜しければ、お話を聞いて頂けませんか?我が社では貴方のような方を雇い入れる事が急務となっておりまして…」
「その話、詳しく」
―――ああ悲しいかな。
自分の疑問もどこ吹く風といった感じに、『雇う』という言葉の魔力に操られこのちょっと怪しいイケメンを家に上げてしまったのだ。
―そして時間は10分後へ、戻る―
「それで、雇うって一体どういうお話なんです?」
「はい、私は名刺に記載されている通り…«人材発掘»と«復帰支援»を行っておりまして」
ふんふん、つまり仲介業者ってところか?
人材発掘って言えば、まあ派遣会社とかそっちでもよく聞くし。
復帰支援は病気をした人とか、引きこもりとかの社会復帰を手助けする、なんてテレビで見たことあるな。
「人材発掘に関しては、今こうやって貴方とお話させて頂いている事が仕事の内容の一つですね」
「なるほど」
「復帰支援に関しましては、人材発掘にて雇わせていただいた方に協力を頂き、文字通り復帰させる手助けをしてもらう…という内容となっております」
「ああ、なるほど。復帰させる側が足りない、と」
「その通りでございます」
丁寧な説明だな、これなら変な会社でもない、か?
でも、ピンポイントでこんな田舎の就職浪人を狙って雇う、か…?
「ですが、我々が手助けする方々は…誤解を恐れずに申しますと、一癖も二癖もある方で。いえ、いえ、悪い方々ではないのですよ?」
まぁそうだろうな。まだ社会に出てないオレが言うのもなんだが、そういうのに頼らざるを得ない人は何かしら尖った所がある人なんだろう。
「そして、もう一つお伝えせねばならない事がございまして。我々の支援事業は、ホームステイタイプの事業なのです」
「……はーん…そういう事情が重なったから、人が適度に少なくて自然もあるこんな場所を狙ったってことですか」
ここまで言われればオレでもわかる。
つまるところ『静かな田舎で自然と優しい風土に触れて癒やされよう!』ってヤツだな。
そうじゃなけりゃ、この家を狙い撃ちするより施設なりなんなりにぶち込んだほうがまだ早いだろうし。
「…………えぇ、えぇ!そうでございます」
「古いっちゃ古いっすけど、ここらじゃ一番デカくて部屋が多い家ですし。そこらも見越して来たんでしょ?」
「流石神鳥様。そこまでお見抜きになられるとは。やはり貴方を選んでようございました」
ふんふん、このイケメンさん中々わかってるじゃぁないか。
成績……は、まぁ普通。
対人能力……も、まぁ普通。
家事能力と身体能力は、大学一人暮らしのおかげで自慢できるくらいにはあるこのオレを選ぶとは。
やっぱり企業の面接官はクソだな!緊張しすぎてどもりまくったオレも馬鹿だったけどさ!
「働くのは吝かじゃないっすけど、給料とかその他諸々はどうなるんです?」
「はい、それではこちらの資料にお目を通していただいて…」
―――そう、ここまでは、ここらへんまではまだ引き返せたはずだった。
でも仕方ないだろ?
何人か住む人が増えるからって、目ン玉が飛び出るような額の給料とガッチリバッチリな福利厚生を掲示されたら、誰でもころっといっちゃうって。
ほら、今説明されながら目を輝かせてるオレが見えるだろ?
ほんとぶん殴りてぇ。
―イケメンさんが訪問してから、大体2時間後―
「では、労働契約にご同意頂けるという事でよろしいですね?」
「勿論ですよ。こんな良い待遇初めて見ましたし」
「……それはよかった」
物凄い安堵してるな、この人。
そんなに人材が足りなかったのか?
「そうそう、今日からステイを受け入れて頂ければ給与の前払い等もできますが…」
「今日から?そんなに人が足りないんすか…?」
「お恥ずかしながら。この復帰支援に関してはステイ希望者が列をなしている状況でして」
苦労人っぽい雰囲気がたっぷり出てるな、この人。
「そういう事なら、別にいいですよ。その希望者の人は近くにいるんですか?」
「いえ、少々お待ちを…」
あ、この人まだガラケーだ。
ああ~でも会社で準備する携帯は安いからって理由でガラケーだったりするらしいし…。
「……はい、ご同意を頂けました。本日から大丈夫のようです……えぇ、えぇ、その通りです…」
どんな人が来るんだろう。
ちょっと不安もあるけど、暴れたりしない人だといいなぁ。
「…おまたせいたしました」
「連絡ついたんすね。どの位かかりそうです?」
「ご心配なさらず。"今すぐに"お見えになりますから」
このイケメンさん、すっと空へと手を出して見るように促してる。
なんだなんだとオレが空を見ると、そこには太陽。
眩しいわ畜生め。なんで空を―――…
『お主が、私の世話人かや』
オレ、物凄く眩しい何かに話しかけられてる、よな?
というか、どんどん眩しいのが近づいてきてるんですけど!
どういうことですかイケメンさん!
「ご紹介します。この御方が"一人目の"ステイ希望者、天照大御神様でございます」
『うむ、苦しゅうない。ここが私の住まう本殿であるな?』
「うちは神社じゃねぇんですけど!!?」
―――オレと、イケメンさんの受難が確定した瞬間だった。