05 悪の組織・ジャシーン
『悪の組織』、ジャシーン。その組織はよくある『悪の組織』の首領とそれに従う上位の怪人、そしてその怪人の部下となる怪人たち、そして多くの雑魚構成員たちで構成される一般的な『悪の組織』である。『悪の組織』に一般的も何も何と思う所であるが、よく見られるような構成の『悪の組織』であることには変わりない。この世界における無数の『悪の組織』において最も多い組織のパターンである。
「ふむ。よくやった、第一隊、『傲慢』の部隊の隊長、ルーファスよ」
「はっ。光栄です」
『悪の組織』は成功した者を褒めたたえ、その褒章を授ける。失敗した者は容赦なく打ちのめし、降格。場合によっては殺してしまうこともある。もっとも彼等『悪の組織』の人間はなかなか『正義の味方』との戦いに負けると生還きないものだが。まあ、負けた時の事実はさておき。今回ルーファスは『正義の味方』の魔法少女に勝利しその土地を支配下にいれている。つまりは成功した者である。
「ルーファス。何か欲しいものはあるか?」
「今は何も。あえて言えば、休暇が欲しい所かと」
「むう。確かに少々お前にはいろいろと雑用や虫除け、汚物処理を頼んだりと色々と仕事を頼んでいるからな」
『傲慢』の部隊の隊長であるルーファスはその持ち得る能力が極めて優秀だ。便利ともいえる。疑似的な形とはいえ時間停止に近い所業を行えるし、その気になればその姿をこの世界から隠すことができる。そのうえ相手の防御力や生命力に関係なく殺害することもできるし、どんな鉄壁の城塞、密室であっても侵入することができる。彼の持つ能力はあらゆる法則、あらゆる規則から逃れるこの世界から外れることのできる異能。"規則破り"。その能力の強さをこの『悪の組織』、ジャシーンの首領は知っている。それゆえに便利に使ってしまっている。少々酷使していると思える程度には。
「よし。ならばしばしの休暇を出そう。ところで、お前が今回手に入れた街だが……」
「それは私ではなくその街を治めるべきものが治めればいいかと」
「む」
「私にはその能力がないので。その才、その能力を持ち得る者に譲り渡して構いません」
ルーファスは自分に能力がない。そう言って自分で治めることをするつもりはないと首領へと告げる。
「首領! 第一隊の隊長がそのように言うのです! ぜひとも我が部隊の者に統治をお許しください」
「ふむ……マムーか。おまえの統率する第五隊の者に任せろと?」
「はっ! その通りに御座います。第一隊の隊長は自身の至らなさを理解しているのでしょう。ですから自分は治めるのにはあたらない。誰か他の者をと主張している。我が部隊の者であればその者にはない十分な能力があるでしょう!」
マムー、第五隊、『強欲』の部隊の体長である。名前からわかることだが、この『悪の組織』ジャシーンの部隊な七つの大罪を象った物となっている。第一隊は『傲慢』、第二隊は『憤怒』、第三隊は『嫉妬』、第四隊は『怠惰』、第五隊は『強欲』、第六隊は『暴食』、第七隊は『色欲』を司どるものとなっている。そしてそれぞれの隊に所属する怪人はそれぞれの性質にふさわしい在り様を持つ。第五隊の人間は実にわかりやすい『強欲』の性質を表しているわけだ。
「他に自分の配下を、と推すものはおらぬか?」
「はっ。勝手にしやがれってところですねうちは。暴れるの大好きな奴らばかりなんで」
「いらないわ。誰かのおさがりなんてまっぴら」
「べつにいらねーです。うちはいろいろあそばせてもらいますんで」
「支配とかそういうのはどうでも。あれこれ手を出せないんじゃつまんないし」
「女を侍らしていいなら……」
「それは許さん。まったく……やはり第七隊は解体するべきか?」
最後の第七隊の意見だけは容赦なく首領に切られる。
「我らがジャシーンも悪の誇りを持つ『悪の組織』。悪としての在り様を正しく持て。悪行大いに結構! しかし、悪足る者として好き勝手なことをしていいというわけでもない。第七隊の在り様、『色欲』の都合上仕方がないともいえるが、あまりに過度な行いは粛清の対象だ。理解しておろう?」
「は、はっ!!」
「うむ。さて、『強欲』の部隊以外は特にこれと言って配下を主張する者はおらぬようだな。ならばマムーよ。お前の配下に今回手に入れた街の支配権をくれてやろう」
「はっ! 格段の感謝を!」
そうして今回のジャシーンの行った『悪の組織』としての行動、その決着はつく。
「では下がるがよい、ルーファス。しばらくは休暇となるか。その前に残っている仕事片付けておけ」
「はっ。行くぞサテラ」
「はい」
一応副隊長であるサテラもこの場所に来ていた。なお、ルーファスが休暇となると部隊の隊長がいなくなるのでその部下であるサテラもまた必然的に休暇である。もっとも、彼らの部隊の構成員は他の部隊の構成員としても流用できるので話は違う。そもそも彼らは部隊の性質とはまた別の単なる構成員。有象無象の一部である。そのため彼らは基本的に休暇もないし給料も安い。世知辛い立場である。
「あれでよかったんっすか?」
「ん? あれって?」
「いや、ほら、手に入れた所あっさり他の人に譲ったっじゃないっすか」
「ああ」
自分の手に入れた街を他の舞台に譲り渡す。それをあっさりやったことに対してのサテラの言。
「いいんだよ。だって向いてないのは事実だし……仕事増やしてもきついし。ああいうのはやりたい奴にやらせておけばいいんだから」
「そういうものっすかね……」
「ああ。こっちとしては休暇の方がありがたい」
「隊長はお仕事多いっすからね。こちらとしては休暇中で給料貰えるかが心配っすけど」
「お前なあ……」
マイペースである。自分らしい行動をする。それが彼等の基本原理。ゆえに『傲慢』なのかもしれない。