41 ある怪人の最後
しん、とした何もない、闇の消えた首領のいた部屋。その中でルーファスとアクアリリィが呆然としている。突然の出来事過ぎたせいである。あまりにも唐突に何もかもが消え去った。それは『悪の組織』や『正義の味方』にとっても異常に過ぎるほどのものだ。とはいえ語られた以上のものでもない。
「…………あ」
アクアリリィに他の『正義の味方』の魔法少女から連絡が行く。魔法少女には魔法少女の魔法による独自の連絡網がある。魔法少女に限らず、今このジャシーンの秘密基地において『正義の味方』間での連絡の取り合いが行われていた。
「……わかりました。ルーファスさん」
「…………なんだ?」
「戦いが終わったそうです。怪人たちが軒並み突然倒れ、死亡が確認されたと……」
「………………」
ルーファスはそのアクアリリィの言葉を聞き、不安がよぎる。何か忘れているような、まだ気づいていないような。そして邪神の最後の言葉を思い出す。『彼女に会いに行くなら早い方がいいですよ』。彼女とはだれか? ルーファスは『悪の組織』の怪人でありその知り合いは少なく、またルーファスにとって仲のいい相手と言える人物も少ない。思い当たる存在は二人。一人はアクアリリィ、そしてもう一人は……
「っ! サテラ!」
「ルーファスさん!?」
ルーファスがいきなり部屋の外へと出る。唐突なその行動にアクアリリィが驚き、ルーファスを追いかける。ジャシーンの首領の部屋への道は一本道。部屋の入り口に向けて真っ直ぐというわけではないがどこに行けばいいのかは実にわかりやすい。そもそも途中で通ってきており、戦いが続いていたとすれば場所は変わらない。わかりやすい。道の途中、そこに向かいルーファスはそこに存在する二人の怪人の姿を見る。
「サテラ!」
一人は『憤怒』の隊長。彼は地面にうつ伏せに倒れていた。拳は握ったままで、まるで今にも殴ろうとしていたところを唐突に死んでしまっていたかのような状態であった。そしてもう一人はサテラ、『傲慢』の副隊長、ルーファスの部下。彼女は壁を背にし頭を下げていた。
「…………隊長?」
「よかった、生きてたか……」
弱々しい声であるが、サテラはルーファスの声に答えた。
「まあ、生きてますけ……生きてるっすけど」
「それ、言いなおさなきゃダメなのか?」
「『悪の組織』の怪人っすから………………」
妙なポリシーのようなものをサテラは持っている。だから普段喋る時はなんとかっす、って感じの喋り方である。『悪の組織』の怪人、その下っ端、部下としての怪人っぽさを演出するものだ。まあ、本人がマジモードの場合は話が違うのだが。
「まあ、いい。とりあえず行くぞ」
「…………それは無理っす」
「なに?」
「…………最期に隊長と話せてよかったっす」
「……どういう意味だ?」
サテラは壁に背をつけたまま頭を上げない。半ば座り込んでいるまま、立ち上がる様子を見せない。
「なんというか、体からごっそりとなくなって、今はまだ何とか辛うじて生きてるって感じで……力、もう入らないんで……入らないんっす」
「………………」
「ルーファスさん」
「アクアリリィ」
「怪人が先ほど軒並み倒れた事、タイミング的に恐らくはあの邪神がいなくなったタイミングです。あの首領の人と邪神の言葉を総合すると、ジャシーンの怪人には『闇』が埋め込まれていたみたいな話です。それが先ほどすべて回収された……」
「俺は無事だが」
「ルーファスさんは能力による例外になります」
「……でも、他の怪人やそこに倒れている『憤怒』の隊長は死んでいるのに、サテラはまだ生きている。これの説明は?」
「それは私にはわかりません……」
アクアリリィは色々とここまで聞いたジャシーンの組織やその関係の話、つまりは首領と邪神の『闇』云々の話をまとめ、それによる影響にサテラが曝された結果今の状態になっていると推測した。実際にその通りである。邪神はジャシーンに根付いている『闇』のすべてを回収した。ルーファスは能力により市の対象にはならない例外であるが、それ以外のジャシーンの怪人は全てが対象となる。当然サテラもだ。
『闇』は怪人に根付いている怪人を怪人たらしめる核のようなものだ。それが体に満ちており、その結果怪人は怪人として己の力を発揮できる。そして怪人として悪行を行うことにより、『悪』として『闇』が育ち、怪人としての性質があがり、『闇』が大部分を占めていく。そして全身に満ちる『闇』を体から抜かれてしまい、怪人は死ぬのである。いうなれば体の中のすべての臓器を引っこ抜かれるようなものだ。生存に必要な臓器すら失い死ぬ、そういうことである。
サテラが生きている理由はサテラのこれまでの行動の結果だ。サテラはルーファスと似たり寄ったりで望んで悪事を行うほど『悪』に染まっていない。彼女の能力は"純粋一途"であり、己の生き方を変えず、飢えを避けるために活動していた。幾分か『闇』は成長していたが、それでも全身を占めるほどではなかったのだろう。だが、それでも先ほどのたとえで言うならば、体の臓器の一部になっていたような状態だ。それを抜かれれば、抜かれてすぐはまだ生きていられるかもしれないが、ずっとは無理、という状態になる。臓器を抜かれ弱っていき、最終的に死に至る。
「………………」
「よくわからないっすけど……首領は倒したんっすよね?」
「ああ」
「じゃあ、隊長は自由っすね。頑張って、私の分も生きてください……っす」
「………………サテラはそれでいいのか?」
「お腹空いて死ぬんじゃなければまだ……って感じっすか。まあ、死ぬのは嫌っすけど……もう、どうしようもない自覚はあるので」
死期を悟る。サテラはなんとなく、自分が死ぬことが確実であるとわかってしまっている。まあ、状況的に一気に生命活動の低下が起きていることを自覚しているのかもしれない。体もまともに動かない状態だ。しかたない。
「…………」
「……………………」
「ルーファスさん……」
「サテラ。一つだけ聞く」
「……何ですか?」
「生きたいか?」
「…………死にたくない、じゃないっすっよね………………………………生きたいですよ、もちろん」
「そうか」
その答えを聞き、ルーファスはサテラに触れる。
「隊長……?」
「できるかどうかわからないが……まあ、できなければ死ぬだけだ。生きられれば儲けもの、と思っておけ」
"規則破り"。その能力をルーファスはサテラに行使した。




