28 新たな始まりを
二人が『宣誓の約定呪』を使い契約する。その契約は絶対に破ることの出来ない一種の呪い。一応は例外的にそういった呪術に対する解約を可能とする手段もあるが、極めて限定的な存在しま持ち得ぬ技術であり、またそれに必要な労力や代価が結構なものとなるため恐らくはアクアリリィ一人のためにそこまでの対価を出してまで契約の解除は行わないだろう。そもそもルーファスもアクアリリィも『正義の味方』にとって価値のあるものではない。そしてルーファスはそこまで危険視されているわけでもない。まあ、アクアリリィがその能力に関して報告していればわからなかったが。
それはまあともかく、『宣誓の約定呪』を用いて契約をすると言うことはその存在にその約定を刻み付ける物。だからこそお互いに連動しあい、魂や精神と言った部分に不可思議的に作用する。現在の技術では不可能なことだが『正義の味方』と『悪の組織』であれば持ち得る技術である。そんな技術でお互いに関わり合う繋がりを作れば、『正義の味方』としても『悪の組織』としても異端。それによる影響を強く受ける。
「っ!?」
「なにっ!?」
アクアリリィの体が光る。魔法少女の変身だが、その光に黒く、闇雨が生まれる。
「これは……」
アクアリリィは『正義の味方』の魔法少女。つまりは『善』であり『光』であることを求められる立場である。伝わる話の一つには、天使と呼ばれる存在は神に仕える者、人に手を貸した者、魔に落ちた者で翼の色が違うと言う。『正義の味方』でもそういった傾向はあり、『悪の組織』によって洗脳され取り込まれた『正義の味方』は黒色を主体としたり、女性ならば何故か露出が多くなったり、刺々しい衣装になったり鞭を持ったりとそういった特徴を現すようになる。
当然ながらその影響をアクアリリィも受ける。しかしその逆でルーファスは影響を受けない。彼の持つ"規則破り"はそういったルールからも外れることができる。実のところルーファスの能力であれば契約に置ける約束事からも外れ無視することができたりするが、そこはルーファスが意識的に継続するよう"規則破り"の影響を受けないように対象から外している。まあ、本能的に反応する危険もあるがその時はある意味仕方がない。ルーファス自身は悪意で行動するつもりはないので恐らくは何も問題はないはずだろう。
「……衣装が黒っぽくなりましたね」
「あー、確か話には聞いたことがあるが……『悪墜ち』ってやつか?」
「いえ。恐らくは『闇墜ち』ではないかと。衣装の色に大きな変化はありましたが、それ以外の変化はありません。『悪墜ち』ならば恐らく私の衣装の露出が多くなっているはずです。それに……」
アクアリリィが魔法を使う。その魔法は今までアクアリリィが使っていた者とは変わりなかった。多くの場合『悪』になった魔法少女は闇系統を含むように変化するが、アクアリリィはそれまでと変わらない。
「魔法も変わりません。恐らくは……あなたと契約を行ったことで『正義の味方』としては異端であると判断された結果でしょう。しかし『悪の組織』の一員になったわけではなく、あくまで『正義の味方』であることには変わりない。ですが『悪の組織』の味方を作った、仲間を作ったことが影響して闇の側になったと考えられた可能性があります」
「……大丈夫か?」
「追及はされると思いますが……恐らくは問題ありません。いいえ、これで問題視されるのであれば……別の手立てを考えるだけです」
アクアリリィの目的はルーファスを『悪の組織』から脱し救出すること。そのためならばいくらか『正義の味方』として基本的なルールとされることから外れることも考慮に入れている。自身の望む正義のためとはいえ少々やりすぎではないかと思われるところである。
「……それでは契約をしましたが、改めて訊ねますが『正義の味方』の方に来てくれますか?」
「流石にそこまでさせておいてできないってのは言えないだろ……はあ、まったく」
「『悪の組織』の怪人ならばやっぱりやめたと言って裏切るのが普通です。そういう所はやはり『善』ではないでしょうか」
「そういうもんか? まあ確かに他の奴ならまともに対応しないだろうけど……」
他の部隊の隊長を思い浮かべれば確実にまともに『正義の味方』についていこうとする者はいないだろう。そもそも、『悪の組織』は味方であっても油断はならない。裏切り内応埋伏の毒、内部工作に洗脳、拉致監禁殺害、様々な『正義の味方』にとって害となる行動を行う可能性がある。そもそもからスパイである可能性も珍しくはないのである。
なので本来なら『正義の味方』の行う逃げ込んだ『悪の組織』の一員に対する行為は間違っていない。彼らにとって逃げ込んだ者がスパイであるか、それとも本当に『悪の組織』から逃れたいだけの者なのか判断できないのだから。とはいえ、本当に『正義の味方』を頼って逃げ込んだ者にとっては悲惨なことである。
「それじゃあ改めてよろしくアクアリリィ」
「はい……いえ、其方の名前だけでは不誠実ですね。本名の方を教えます。私は水城若葉です。改めて宜しくお願いしますルーファスさん」
「……いや、本名を教えられた以上こっちも教えないと失礼だよな。俺は佐山浩二だ。まあ、よろしく水城」
「はい、よろしくお願いします佐山さん」
本名も知りえる立場、本当に協力関係となりえる状況。『悪の組織』を裏切り『正義の味方』に手を貸すこととなったルーファス。そしてそのルーファスの救出に全力を尽くした魔法少女のアクアリリィ。少々困る事態も多そうではあるが彼らは新たな道のりを進むこととなった。




