03 悪と善の戦い
「行きますわっ!」
「ひ、ひいっ! 待って、待ってくれ! まだ私がいるのに攻撃を仕掛けないでくれえっ!」
魔法少女が戦いを始めようとしたところで、人質として捕まっていた市長らしい人物が魔法少女に対し叫ぶ。彼のいる場所はルーファスのいる場所からそれほど離れていた場所ではない。ゆえに魔法少女がルーファスに対し攻撃を仕掛けた場合、魔法少女の攻撃に巻き込まれる。もっとも魔法少女の攻撃という者がどのようなものかと言われれば、かなりファンタジックなものでありどういう作用をもたらすのかその魔法少女次第であってどうなるかわからないものなのだが。
「安心してくださいな! 私たち魔法少女の魔法は普通の人間には通用しません! 怪人などの『悪の組織』に所属している悪人にしか通用しないのですから!」
「卑怯だよなあ、そういうの……」
「『悪の組織』所属の怪人に卑怯と言われるような謂れはありませんわっ!」
イエローデイジーが魔法を放ってくる。それはいうなれば光の光弾と行った所のエネルギー弾。
「とおっ! 危ない危ない!」
「行きますわよっ!」
魔法少女、イエローデイジーが持っている杖を一振り。杖は子供の魔法少女が持つハート形や星型などの幼い者向けの物ではなく、ファンタジーなどのゲームで見かける、どこかメカニカルな杖だ。機能美からその年齢に合わせたイメージ性も併せ持った魔法少女の杖。別に見た目自体はどんな形であっても持ち得る力はそれほど大きな差はないだろう。どちらかというと魔法少女の強さに必須になるのは杖の持つ性質や能力よりもその本人の資質に大きく傾く。精神性、生まれ持った魔力量。この世界は元々そういったものが確認されない科学中心の世界だったがなぜかそういう物はあるようだ。いや、そもそも『悪の組織』と『正義の味方』という者が出てきたのだからそういうこともあるだろう。もしくは既存の物とは違う別の科学力によるものか。
そんな疑問はさておき、魔法少女イエローデイジーは杖を一振りして先ほど放ったエネルギー弾をいくつも作り出す。
「大人しく当たって下さらない!?」
「当たったら死ぬだろ! 誰だって避けるって!」
「あなたが『悪の組織』の怪人でなければ、ごく普通の一般人だったら無事に済みますわ。そうでなければつまりは『悪の組織』の人間。戦い滅びるのは当然でしょう? なぜなら悪はこの世界に許容されるべきものではない。悪いことをしたら罰されるのは当然ですものねっ!」
「まあ、言ってることは、間違っちゃいないだろうけど、なっ!!」
放たれる光弾をルーファスは回避する。幾らか光弾の操作はできるようだが自由自在というわけもいかないようだ。一度生み出したエネルギー弾もずっとその存在が維持されると言うわけではない。
「くっ!」
「と、りゃっ!」
「っ!?」
攻撃が当たらない中、ルーファスは地面を蹴って一気にイエローデイジーに近づく。基本的な在り様で、魔法使いは接近戦に弱い。そういったセオリーを利用し近づいて彼女を殴り倒そうとするつもりだ。女を殴り倒すなんて、と言われるかもしれないがそもそもそんなフェミニズムを語ったところで相手は『悪の組織』の一員。そもそも殺しもありな戦いを行っている状態で殴り合い程度の内容で文句を言われても困ると言う話だ。
だが……せめて相手が幼いタイプの魔法少女であったならばともかく。相手が大人に近しいタイプの魔法少女だったのが問題だろう。
「はあっ!」
「とっ! ぬっ!? 魔法少女は接近戦に弱いのが普通だろ!?」
「昨今の魔法少女は接近性をたしなんでいますわっ! そもそも、あなたは先輩と戦ったことがあるのにそのようなことを言うのですか!」
「先輩ねえ……誰か戦ったことあったかな」
ルーファスの方にはイエローデイジーの言う相手の心当たりはない。もっとも、だからといってイエローデイジーの物理攻撃が無くなるわけでもない。昨今の魔法使いはある程度の近接戦もこなすようになっている。まあ、杖での殴り合い斬り合いのようなものが一般的であるが、どうやら彼女は素手での殴り合いを得意とするようだ。彼女自身お嬢様であるなら多少の護身術の類を心得ているのかもしれない。それとも彼女の言う先輩とやらに学んだのだろうか。
「ま、それはどうでもいい、っと!」
「ぐっ!」
「確かに戦えるのには驚いたが、接近戦は得意じゃないみたいだな。っていうか、そもそも肉体の力は怪人である俺の方が強い。魔法少女でちょっぴり強くなったところでそこは変わらねえよなっ!」
「ええ、そうですねっ!」
「とおっ!?」
イエローデイジーの体が発光する。魔法による光の力。別に直接戦っているからと言って魔法が使えなくなるわけではない。光弾を使えないが、しかし他にも魔法はある。自分の体から発する光の魔法、それがイエローデイジーの発した光の正体である。
「はあっ!」
「危ないっ!」
魔法、というには少々お粗末だが魔法少女の力で無理やり放たれる光の帯。レーザーとも思える光の魔法、そしてそれが薙ぎ払われる。力の消費が大きいのであまりイエローデイジーも使いたくないものであるが、しかし相手を追い払うのには有効なもの。流石にこれはルーファスとしても離れざるを得ない・
「今のうちに……!」
その間、光の帯にルーファスが追いやられているうちにイエローデイジーは次の魔法を使う。今使っているような攻撃手段程強力なものではなく、また相手に致命傷を負わせるものではない。しかし引っかかれば少なくとも一瞬の間くらいは硬直するような、そんな作用をもたらす光の魔法。それは攻撃手段……であることには変わらないが、光弾のようなはっきりと動きの見える者ではない。罠の魔法。
「ふっ!」
籠めた魔力を大地に根付かせる。倉庫内の、ルーファスからイエローデイジーに繋がる道に罠が張り巡らされる。それを帯に沿って、相手方からイエローデイジーに来ることのできる道に無数に張り巡らす。ただ、それはどうしても魔法の性質上かはっきりと見えてしまっている。これでは罠の意味はないだろう。
「っと……もう終わりか」
「終わり、ですけど……ふふっ、目の前を御覧なさい」
「……足の踏み場もない、ってほどではないが。面倒だな」
自分の前に広がる魔法の罠。それを避けて進むのはルーファスには難しいことではない。しかし、それは何も起きない状態であればという但し書きが必要になる。
「超えられる物なら、超えて見せなさいっ!」
イエローデイジーが光弾を生み出す。相手の行動が制限される状態であれば光弾を避けるのは容易ではない。
「……はあ」
ルーファスの攻撃手段は基本的に物理攻撃のみ。それ以外の攻撃手段を持っているのなら近づいた時に使っていただろう。つまりそういった攻撃手段を持ち得ない。もしかしたら防御能力が高いのかもしれないが、近接戦の感触や魔法を避けることから可能性は低い。ゆえにそういったものではないだろう。そうイエローデイジーには確信がある。ならば問題ない、そうイエローデイジーは思っていた。
仮にも相手は悪の組織の一部隊の体長格であると言うのに。
「……ふう」
イエローデイジーが止まる。光弾が動きとをめる。罠の光が輝いたままの除隊で止まる。全ての動きが停止した。
「これで問題はなし、と」
ルーファスの能力、それを使うことで全ての動きが止まった。