16 『悪の組織』対『悪の組織』+『正義の味方』
「『悪の組織』の怪人!? しかし、いきなりこんな……!」
「どこにでもいるだろ! 違法者ってやつだ!」
『悪の組織』と『正義の味方』の戦いは基本的にそういう舞台を作り上げて戦う物となっている。例えば市庁舎、公民館、村長の家、県庁、そういった公共施設、それもその土地や街、都市などの管理を行う場所を狙い、さらに言えば出来れば被害を少なく出来る限り無血でその場所を確保する。その行動が迅速であればあるほど、混乱が少なければ少ない程、その上で『正義の味方』と戦う舞台を作り合げ、その場所で戦い、更には『正義の味方』を下し勝利し、自分の側の被害もほとんどなく終わらせる。それが最も『悪の組織』として立派で十分、怪人として優秀な存在である。一応ルーファスはこの立派で十分優秀な怪人と言える仕事をやっている。
まあ、そういった怪人の優秀さや『悪の組織』と『正義の味方』の戦い事情はさておき、基本的に『悪の組織』と『正義の味方』の戦いはそういった形式を作り上げた上での戦いが殆どだ。しかし『悪の組織』の中にはその決まりを平然と破り、市民や建物、周辺に被害を与えることを厭わない存在もいる。ある意味『悪の組織』、『悪』の存在としてはこちらの方がよほど正しいと言えるだろう。破壊と恐怖で人々を支配する。なんとも『悪の組織』らしい。しかし、それで得られるものはどれほどあるだろう。『悪の組織』として世界を治めるのに、それがどれほどの反発心を生むか。また、『悪の組織』なりに人の求心力、支配力を求める他の『悪の組織』にとってはそういったルール違反を行う存在はとても困る存在だ。何故なら彼らはルールを守って人々からの関心を寄せている。しかし、一つのルールを破る存在によってそれが大きく崩れかねない。困った話である。まあ、『悪の組織』にどれほど信頼が寄せられるかというと疑問だが、雀の涙ほどでもあるとないでは全然違うのである。
「ここ以外にも……」
「とりあえずお前はとっとと変身してこい! 休みか休暇か休日かしらないが、いつでもできるんだろ!」
「そちらはどうするのですか?」
「うちの方針は『悪』として誇りある『悪』を。首領がなんかそんな感じで言ってるが、基本的に首領の匙加減だな。とはいえこういう『悪の組織』はぶっ潰す方針だ。ってことで、俺はこいつらをどうにか抑えるから、その間にそっちは変身と連絡を取っとけ。こういうのは元々そっちの仕事だろう」
「……その格好で戦うのですか?」
「なに、姿を隠すくらいできるぞ。ほら」
そう言うとルーファスの姿が黒く……シルエットのみ、見えるようになる。"規則破り"の能力の応用だ。この世界の既存のルールから外れた行動をとることのできる能力。この世界に対する姿の投影、光の法則を変更する。まあ、"規則破り"は変更する能力ではなく外れる能力なのでその姿を自由に変更できるわけではないのが困りものだが。
「早く行け! こっちは何とかする!」
「……わかりました、ありがとうございます! さようなら、お願いします!」
アクアリリィがルーファスに告げたのは別れの言葉。ここで彼は怪人に、彼女は魔法少女になる。そうなれば、先ほどのようにのんびり話し合いなんてできるような状態にはならないだろう。だからこその別れの言葉である。それを告げ、彼女は去っていった。
「さて……」
降ってきた怪人、それがルーファスに向かってきた。それをこの世界から存在を外し、一端その場から離脱。
「はあっ!」
「っ……守らなくても、いいですのに!」
「別にそちらを守ってるわけじゃないっす。持ち物、持ってもらってすっすからね!」
サテラとイエローデイジー。こちらも襲われていた。魔法少女は怪人と違い変身しなければ戦えない。だからサテラがイエローデイジーを守る形となる。彼女はルーファスほど善い姿勢であるわけではない。基本的に彼女は自分の考えに真っ直ぐだ。それゆえに、彼女はイエローデイジーを守っている。ただ、まあ、場合によっては見捨てていただろう。守ることで自分側に被害が出るのならば躊躇なく。だが、今回はそうではなく、ついでに買ったものをデイジーに渡していたこともあり、そちらを守っていた。
「サテラ!」
「っ! あなたはっ!」
「隊長! どうしたんっすか!?」
「とりあえず、姿隠しなっ!」
ルーファスがサテラに自分と同じ姿隠しをかける。"規則破り"は自分以外にも適用できる能力である。流石に自分は姿を隠すがサテラはその間まで戦わせるわけにもいかないだろう。
「っ!? 真っ黒に!」
「ありがとう、っす! あ、隊長? あれ? 勝っておいた物はどうしたんですか?」
「あいつらがぶっ壊したよ。全部パーだな」
「…………は?」
殺気。ルーファスに普段のサテラからはまったく感じられないような、濃密で恐ろしい殺気が向けられる。
「お前の標的は、あっち。あれを全滅な。やったのはあいつらだから」
「了解です。全部殲滅ですね。ええ、殺してあげます。そんなことができるのは飢えの苦しみを知らないからですね、ええ、知らなくていいでしょう。知る必要もない。知る前に全部殺してあげますから」
いつもの喋り方ではなくなった。マジ切れである。
「お前はとっとと変身してこい。もう一人の方も連絡と変身しに行ったぞ」
「っ! 先輩が……!」
「その荷物は……袋、これに入れて縛ってそのあたり、ベンチか何処かの上に置いておけ。運が良ければ残る。お前は自分の仕事をしろ」
「………………わかりました! 後であったら殺しますから!」
そう吐き捨てて、凄く嫌そうな、不満そうな表情でイエローデイジーは去っていった。
「さて、俺も、なんとかしますかね……っと!」
イエローデイジー、アクアリリィが共に去り、残ったのはルーファスとサテラ。とりあえず広場にいる『悪の組織』の怪人はそれでもいいのかもしれないが。問題はショッピングセンターの方にも降ってきた怪人たち。まあ、そちらは『正義の味方』側が何とかすることを期待するしかない。こういう場合『悪の組織』は組織で動かない。ルーファスやサテラが暴れる分には構わないが組織側は関与しない。場合によっては『正義の味方』の殲滅作業に巻き込まれかねないこともある。もっとも、そのリスクは承知の上。
「サテラ! 『正義の味方』が来たら物だけ回収して逃げるぞ!」
「………………了解」
とりあえず、怒りは多少収まったようで隊長であるルーファスの声に返事をするサテラ。いざというとき逃げる選択はとれそうである。




