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15 空から降ってくる者

「……で。なぜ俺はお前とこんなところで座ってるんだ?」

「私に訊かれても困ります」


 ルーファスはアクアリリィと二人、同じ椅子に座っている。別に一人用の小さな椅子ではなく。ベンチのような複数人で座れるような大型の椅子である。その場所は先ほど二人……二組の怪人と魔法少女の戦いが行われかけた大きなショッピングセンターの入り口からすぐ外に出た所にある広場。何故そんなところに二人が座っているのかというと、今はいない二人組がとった行動が原因だ。

 いったい何が起きたのか?

 話を少し戻してみよう。イエローデイジーがルーファスに対し恨みを晴らそうと近づき滅しようとしたところをサテラがその前に立ち妨害する。それにより、一応動きを止められ近づけなかった。流石にいきなり変身して実力行使を、としなかったのは少々理性が残っていたのだろうか。もっとも、それならばむしろ変身せず近づき殺そうとする方がよほど物騒な話になるだろう。実力的な意味合いでも、傍から見た場合の状況的にも。まあ、一種の修羅場のようにしか見られないかもしれないが。

 そのイエローデイジーの動きをアクアリリィが説得し止め、とりあえず当初の目的である。


「それで、私のスマートフォンを拾っていただいたそうですが。確か電話をかけて出たのは女性の方でしたよね?」

「あ、はい。私っす。そういえばこれを渡すために来たんっすね」


 サテラがスマートフォンをアクアリリィに見せる。魔法少女に変身するような、まだ少女と言い張れるような年齢の女性が持つにしてはそのスマートフォンはどうにも武骨で遊びが少ない見た目である。デコレーションやアクセサリー、ストラップ、シールの一つもない。まあ、アクアリリィの会話の仕方から考え、性格的なものだと考えられるだろう。


「ありがとうございます」

「ただひろっただけっすから。気にしないでほしいっす」

「それじゃあ、俺たちはこれで……」

「あ、待ちなさい!」

「……別に俺はそちらに用事はないんだけど?」

「私はあります。あなたを殺したいくらいに」

「……今、俺はオフ。休日だから。そっちがどう動こうと関係ないからな?」

「…………」


 視線で殺さんと言わんばかりにイエローデイジーがルーファスを睨みつけている。まあ、前回の事の恨みもあるだろう。


「デイジー。止めておきなさい」

「っ……先輩」

「今のあなたでは勝てません。以前戦った時も、まともに攻撃を食らわせられなかったのでしょう?」

「ですけど」

「私も彼と出会った時、攻撃を仕掛けましたがあっさりと防がれています。肉体の能力だけでそれです。『悪の組織』、ジャシーンの怪人は特殊な能力を持つ者ばかり。彼もまたそうです。その能力を理解し、対処手段を講じない限り、まともに勝つのは難しい」

「………………」


 イエローデイジーは恨みを晴らしたい、という一心で行動しようとしているが、アクアリリィは冷静だ。それも理由としては極めて理性的で、相手の能力を知っているがゆえの物。一度ルーファスと出会ってから、その能力や戦績、ジャシーンの『悪の組織』の構成要素やその内実など色々なところを調査している。一つの要因にルーファスに対する興味があるが、そこは置いておこう。

 まあ、そういうことなので今のイエローデイジーでは勝てないとアクアリリィは判断している。そもそも一朝一夕で倒せなかった相手が倒せるようになるほど世の中は甘くない。これが一部の『正義の味方』であれば話は違う。熱血系とか、子供の夢のタイプとか。しかし彼女たちはどちらかというと理性で戦うタイプ。感情ですべてどうにかできるものではない。魔法少女であったとしても。


「あ、屋台あるっすね」

「ん? ああ、あるな」

「ちょっと食べ物買ってくるっす」

「おい」


 今荷物持ちで持たされているルーファスの持ち物は食物ばかり。その上さらに食べ物を買うようだ。どこまで大食いなのか。


「あ、待ちなさい! 何かしないように見張らせていただきますわ!」

「え? あ、デイジー!?」


 そのサテラを追ってイエローデイジーがついていく。その場に残された二人はぽつんと立っていた。


「……とりあえず、その辺に座っておくか?」

「そうですね。あまり場所を移動しすぎるのは……」


 と、意見が合い、二人は同じ椅子に座っている。






 そんなことがあり、二人は椅子で同行者の二人を待っている。


「……一つ聞きたいことがあったんです」

「何だいきなり?」

「いえ、恐らくはこういう機会でもないと聞けないと思ったので。『正義の味方』として出会えば、『悪の組織』の一員であるあなたとはまともに会話ができる機会は訪れないでしょう。前にあった時、本拠地の方ではあなたがいる事自体が問題で話すこともできなかった。ですが、こういう機会、両者とも普通の一般人として……一応そういう形で出会ったのならば、少しは話すことができると思ったので」

「ま、話くらいは良いけどな……何を聞きたいんだ?」


 二人は敵対者である。しかし、今はその形を伴っていない。同じ一般人としての姿。それならば、話をできるかもしれない。アクアリリィには、どうしてもルーファスに訊きたいことがあった。以前助けられた時から思っていたこと。


「……あなたは『悪』なのですか?」

「『悪の組織』に所属している怪人なのには間違いないけど?」

「……そうですね」


 ルーファスの答えはアクアリリィの望んだ答えとは違う。答えにはなっているが、どうにも……それを受け入れにくいといった所である。


「いえ、そういう意味での問いかけではないのですが……」

「そう言われてもな」

「どう問えばいいでしょうか……」


 空を仰ぐ。アクアリリィも、聞きたいとは思っているが、どうにもうまく聞きづらい。聞きたいとは思っていた。訊ねて答えを得たいと思っていた。自分の望む答えを聞きたかった。恐らく、相手はちゃんと正しい答えを返してくれるだろうと思っていた。何故なら、ルーファスは『悪』ではないはずだから。だが、それを問うのにどうにも聞き方が悪かったらしい。ゆえに、どう問えばいいのか、とつい空を見上げる。


「……?」

「ん? 飛行船…………って、ありえないだろ」


 飛行船が空に飛んでいた。ルーファスはそれをあり得ないと言っているが、それはなぜか? この世界における『悪の組織』と『正義の味方』のルールの内、空に関する規定も存在する。飛行機など空を飛ぶ乗り物の関係上、巨大兵器もそうだが飛行兵器も扱うのは難しいのである。そういった様々な約定の結果、飛行物体に関する規定は『悪の組織』も『正義の味方』も一般市民も、等しく厳しい規定がなされている。その罰則を考えれば、飛行船を運行することはあり得ない。仮にあるとしても、それは事前に通知されてしかるべきものなのである。


「いったいどこの……っていっても、まあ一つしかないな」

「『悪の組織』ですね。しかし、真上に……連絡を入れないと。どこで一体何をするか」

「嫌な予感がする……っていうか、黒点が見える」

「黒点?」

「大きくなってきた、黒点、だよっ!」

「っ!?」


 ルーファスがアクアリリィに近づき、その腕をつかんで一気にその場から跳び退る。その僅か後、彼らのいた場所に大きな穴が穿たれた。


「『悪の組織』の怪人っ!?」

「ったく、今日は休日だってのに……あ、買ったものが全部吹っ飛んだ。あー、これは……あいつがブチ切れ、って、そんなこともいってられないかっ!」


 ルーファスの周りだけではなく、広場の他の場所、そしてデパートにも『悪の組織』の怪人たちが降ってきていた。休日は終わり。これからは彼らの戦いの始まりである。

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