13 平時は普通の彼等
「隊長ー。あれはどうっすか?」
「普通の場所で隊長はやめろ。水瀬」
「あ、そうっすね佐山さん……佐山先輩? 何かいつも通りの呼び方以外をやりづらいとこっす」
悪の怪人であるルーファスとサテラ。そんな彼らもいつも悪の怪人をやっているわけではない。基本的に彼等が悪の怪人としての顔、姿をしているのはジャシーンの組織にいる場合やその組織の下での仕事を行っている場合。家の中でも怪人の格好で過ごしている人間がいればそれは基本的に馬鹿としか思えない。街の中を怪人が歩いていれば、通報されるのは間違いなく、当然『正義の味方』がやってくることだろう。別に悪事をなしていなくとも、『悪の組織』の一員というだけで基本的には大罪者。容赦なく滅ぼされる。
そういうこともあり、多くの悪の怪人は基本的に通常時はその恰好をしていない。もっとも、『正義の味方』もそうであるが、『悪の怪人』もいくらか顔が見えたりすることもあり、彼らの正体はいくらか露見していることも珍しくはない。とはいえ、それを知っている人間は襲われたところの人間だったし、助けられて直接相対した人間、あとは『悪の組織』の人間と『正義の味方』の人間同士くらい。一般的に街にいる住人は誰が『悪の組織』の怪人で誰が『正義の味方』の人間かは知らない場合が多い。そうでなければ物を購入するのも、食事自体かなり困ることになってしまう。彼等もまた一般的な生活を行っているのだから。
「ま、なんでもいいけどさ……」
「もうちょっと楽しそうにしたらどうっすか? 可愛い女の子とデートっすよ?」
「荷物持ちな。まあ、可愛いってのは否定しないが。せっかくの休日に部下に付き合わされるのもどうよ?」
「……そうっすねー。いや、阿漕な職業っすから私友達もいないんっすよ。他に買い物に付き合ってくれるって人もいなくて……」
「そういうのはうちのつらいところだよなあ」
一応『悪の組織』の人間であっても友人を作ることはできるだろう。しかし、いつ死ぬかもわからない、下手に知り合いを作ると何処から何が露見するかもわからない。そもそも職業の事についても碌に話すことはできないだろう。多少は誤魔化すことはできるかもしれないが。他にも先輩づきあいとか、部下の話とか、職場事情とかも話しづらいことはとんでもなく多いのに間違いない。
なので基本的に彼等は職場結婚が多い。まあ、それ以上に恋愛関係になる前に死亡することの方が多いのは職業柄という奴だろう。
「っていうか、食べ物ばかり買ってんじゃない。今回は奢りじゃないぞ?」
「わかってるっす。でも、私がお金使うのは基本的に食べ物っすし……」
「ちょっとは…………いや、いいか」
「え、なにその反応? 気になるんっすけど?」
「気にすんな。あまり言っても仕方ないな、と思っただけだ」
サテラの事情はさておき。食べ物ばかり買っても仕方がない。荷物持ちとはいえ、サテラの買い物ばかりをするのはどうか。そういうことでサテラの買い物の後はルーファス側の買い物を行う。とは言っても、彼も人のことは言えない。基本的に彼自身はあまり娯楽にお金を使うような性質ではなく、それほどほしいものはない。一応気になるものを探して買うくらいのことをしている。
「本屋っすか。そういえば家に行った時に暇つぶしに読めるような本があったと思うっす」
「ま、本当に暇つぶし用だけどな。本気でほしい物っていう物もないし」
正直言って彼等にとって本などの娯楽は気を紛らわせる用途以上のものではない。というのも、彼等自身が経験する出来事の方が刺激的すぎて本などのフィクション娯楽に満足いきにくいからである。もちろんフィクションはフィクションで楽しめるのだが。
「……お。珍しい」
「どうしたんっすか?」
「これこれ」
ルーファスがサテラに見せた本は、『悪の組織』の怪人を主人公にした漫画作品である。
「こういのあるのは珍しいな、とおもってな」
「そうっすね。実際にこの世界に『悪の組織』が出現してからそういう娯楽はなくなったらしいっすからね」
実際にこの世界に『悪の組織』と『正義の味方』が現れた後、そういった戦隊もの、ヒーローものといった作品は基本的に姿を消した。いや、今でも一応そういった作品もないわけではない。ただそういうものは基本的にはプロバガンダ的な側面が強いものとされ、『悪の組織』を絶対悪とし『正義の味方』をより格好良く、より良い者として主張し徹底した『悪』廃絶の性質を表現されていることが多い。そういうこともあって、昔から存在するそういった作品を批評する人間にとってはちょっと内容が偏り過ぎてよくないと言う評価をされている。
なお、新たな作品が生まれなくなった、というだけで基本的に昔に作られたものは残っている場合が多い。また、同人など個人製作ではいくらかそういうものもなくはない。ただ、そういった作品を作ると『悪の組織』の影響を受けているか、所属であるかなどの確認、またそういった作品そのものを一緒の焚書に近い扱いにされることも珍しくはない。特に『悪の組織』の人間を主人公にしたものなどは。なのでそういう内容が書かれた作品そのものが存在すること自体が稀少なのである。
ちなみに、そういった作品は今ではオークションなどで高値で取引されることもある。もちろん、そういった分野では監視がついていたりして、そう言ったものを求める側も裏オークションみたいなものを作り其方で取引したりと『悪の組織』が関係しない一般人と『正義の味方』の熾烈な争いが行われていたりもする。こういうことを見ると人間とは極めて面白いものであると思えてくるだろう。
「それ、買うんっすか?」
「ああ。実はこの作品、昔見たことあるんだよな。まあ、こうして本にされているとは思わなかったが」
「『正義の味方』に目つけられるんじゃないんっすか?」
「今更だろ……」
彼らは『悪の組織』の怪人なので『正義の味方』に目をつけられてもそこまで問題ではないだろう。どちらにしろあまり変わらないのだから。もっとも、今の彼らは見た目だけなら一般人であるので、その状態で目をつけられるとそれはそれで問題な気もするが。
そうして彼らは一通りの品物の購入を終えた。そののち、ちょっとその建物……集合ショッピングセンター? そんな感じの建物内にある、少し休める場所で休息をとっている。主にルーファスが。
「ふう……」
「別に疲れないっすよね?」
「ま、これでも力も体力もあるし。だけど肉体的なのと精神的なのは別だ」
「そうっすか」
肉体的に疲労はない。だが、まあ部下の買い物に付き合うのもいろいろと精神的な疲労はあるということだろう。
「……ん?」
「どうした?」
「落とし物みたいっす」
サテラは据わっている場所の近くに落ちていたスマートフォンを拾う。
「……落とし物センターにでもとどけるか、それとも落とし主が来るのを待つか」
「ええー。それはそれで面倒じゃないっすか?」
「でもなあ……放置するのもあれだし」
「中身見て友人辺りに連絡とってそちらに渡すとか」
「普通はパスとかあるんじゃないか?」
落としている他人の携帯電話を拾うと正直扱いに困る。そんな困難な状態に彼等はある。
「っ!? で、電話っすよ!?」
「……友人か、落とし主か。まあ、何にしても出てみたらどうだ? 知り合いに連絡を取れるかもしれないぞ?」
そういうことで、サテラが電話にでることになった。少なくとも男性がでるよりは印象がいいだろう。電話先の相手が男性であるとしても、女性であるとしても。




