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12.5 粛清の話と魔法少女の話

「っ! ここは……」


 過去の話。『正義の味方』のアクアリリィはある日ある時、『悪の組織』の怪人に敗北した。

 基本的に『悪の組織』に敗北した『正義の味方』の末路は大半が相手に殺される、という形になる。『正義の味方』も『悪の組織』も基本的にはお互い殺し合う形なので大体の場合はどちらか一方が生き残ることが多い。そう考えるとルーファスがイエローデイジーを生かしたことはかなり珍しいケースと言える。そもそもからして殺し合い、相手は殺す気で来ているのだから自分の方は生かしておこうなんて思う方が変なのである。

 しかし、実際には生き残るケースも存在しないわけではない。厳密に言えば、生き残るのではなく生き残らされるのであるが。『悪の組織』という存在において、『悪』とは色々な主義やポリシー、生き様のようなものであるが、ジャシーンにおいてそれはわかりやすく七種類に分けられる。ルーファスの所属する『傲慢』を含めた七つの大罪、『憤怒』、『嫉妬』、『怠惰』、『強欲』、『暴食』、そして『色欲』。その『色欲』は実にわかりやすい。相手が見目麗しい女であれば攫って陵辱する。単純明快で分かりやすい悪行である。それがたとえ正義の味方が相手であったとしても、だ。


「…………酷い」


 周りから聞こえる音、周りで行われている行い、周りに見える物。それは機械や道具、触手生物や人間による女性への陵辱行為である。


「ほっ、ほっ、起きたかなあ?」

「っ! あなたは……」

「ひひっ、お前と戦っていた悪の怪人さあ。いやあ、いい女、いい女、いい女だ」


 ぐぱっとアクアリリィの目の前にいた怪人の口角があがる。それを見た人間の百人中百人が気持ち悪いと言うくらいに目の前の怪人は嫌悪感が強い。それは別に彼自身の見た目が悪い……というのも間違いではないが、そもそも彼自身人に嫌悪感を抱かせる性質があるのだろう。俗にいうブス専と呼ばれるような人種でも彼は絶対に選ばない、と言うほどにその存在に嫌悪感が存在する。


「これは、全部あなたがやっていることですか……?」

「ああ、これかあ? そうだ、そうだ、ひひっ、全部俺だあ!」


 目の前の光景はこの怪人が行っていること。行っているだけではなく、全部の快楽と感覚をすべてこの男が感じているのである。自分自身と作り上げた生物、機械との感覚の融合。それによりより性的快楽を愉しむ。『色欲』という『悪』にふさわしいものと言える。


「お前もああなるんだ。ひひっ、もう人間にゃあ戻れない、戻れないぜ、ひ、ひ、ひ!」

「………………」


 アクアリリィはそうなることも覚悟している。『正義の味方』として『悪の組織』に負ければ死ぬ、それが普通の事。今回生きてはいるが、このままいけば精神は死に絶える。死なずとも、恐らくまともに活動できるような精神状態ではいられないだろう。目の前にいる女性たちのように肉の人形になってしまう。


「……っ!」


 抱くものは嫌悪や恐怖よりも口惜しさ。自分の力が足りず、届かず、助けることもできず、そして自分すらも目の前の怪人の犠牲になる。なにも意味はない、何も得られたものはない、ただ犠牲が増えるだけの結果になった。それが彼女の敗北の結果だ。自分の力が足りず、届かずそうなってしまった。それは彼女にとって、『正義の味方』として在る者として、とても悔しく口惜しいことである。


「じゃあ、それじゃあ、脱ごうか、その服、ひひ、どんな体をしてるかみせてもら」

「それは残念ながら駄目だな」

「おおっ!? 誰だお前はあ!?」

「っ!?」


 突如声を掛けられ驚く怪人。その声の主は怪人もそうだがアクアリリィもその存在を把握できなかった。


「誰でもいいだろ。えっと、『色欲』の所属の怪人だろう、お前?」

「お、お前は……第一隊の隊長の……」

「ああ。そうだな。うちの首領に言われてお前を殺しに来た。やりすぎなんだとよ」


 そう言って現れた男……ルーファスが怪人に手を向ける。そうするとばしゃり、と怪人が液状になって崩れた。


「………………」


 目の前の光景のあまりの非現実さにアクアリリィは言葉も出ない。


「んー……ひとまず、助けるから、攻撃はしてこないでくれるかな? 人助けもやってくれてかまわない。っていうか、ああいうのはこちらの不手際に近いしな……どこから攫ってきたんだこいつ」


 そうしてアクアリリィはルーファスに助けられる。助けられた直後、アクアリリィはルーファスに攻撃を仕掛ける。どこまで信用できるかもわからないし、助けられたとはいえ『悪の組織』の怪人である。『正義の味方』として、本来なら見過ごすべきではない。もっとも……それはあっさりと止められてしまったが。


「っ!?」

「……ま、そうするのが普通だけどな。こっちの方が強い、ってのはわかったろ? なら今は大人しくしとけ」

「……はい」


 このとき、アクアリリィがルーファスに挑んだ結果負けたこと、それが後輩への話に繋がり、また事の時ルーファスに助けられたことが『悪の組織』についての思考と、自身の『正義の味方』としての在り様についてに繋がっている。






 と、そんな過去があった。恐らくそんな過去があった。アクアリリィの覚えている限りではそんな感じの過去があった。その話はさておき、アクアリリィは『正義の味方』の本拠地を立ち去るルーファスに向け一つ質問をする。


「そういえば聞きたいことがあったのですが」

「なんだ?」

「私の後輩……イエローデイジーに対しあのような仕打ちをしたのは何故ですか? あれはあまりにも非道すぎるとこちらは思うのですが」

「…………そんな酷いとしたっけ?」


 ルーファスとしては別に酷いことをした、という思いはない。


「彼女を縛り付けて掲げたではないですか。流石にあれは……」

「ああ。いや、だってそうしないといつ助けに来るかわからなかっただろう? 容赦なくぶちのめしたから、下手すれば死ぬ危険もあったし。ああすれば、こっちが勝ったこともわかるし、あの子の居場所もわかる。わかりやすく見つけやすい、それに状態もわかるから危篤状態ならすぐに助けが来るかなと」


 『悪の組織』として勝利の喧伝も理由にはある。それに行動としては『悪の組織』らしい、というのも理由だろう。自己顕示の一種としてとらえられれば罠として考えられることも少ないだろうと言う思いだ。ただ、やられた側としては堪った物ではない。


「おかげであの子はあなたを殺したがってますが?」

「……知ってる。ま、こっちとしては弁解するつもりはない。実際にやったのは事実だし、言った所で仕方がないからな」


 お互い『正義の味方』と『悪の組織』。認識の祖語、理解の不一致、常識の欠如……少し違う。行う行為の認識の違い、というものがある。そもそも相手の意図を正確に理解しろと言っても難しいし、理解したからと言ってそれを許せるかというとまた別の話。


「それだけか?」

「はい」

「じゃ、俺はもう行くから」

「……もう来ないでくださいね? また同じようには対応しませんから」


 今度は挨拶してきたら容赦なく敵対する……そうアクアリリィは言う。


「わかった」


 ルーファスはそれに頷く。お互い本当に敵対する立場の存在か、と思うところだ。しかし、これはアクアリリィが『悪の組織』……正確にはルーファスが相手だからというのもあるだろう。それ自体が珍しい物、今回限りの邂逅となるものだ。そのはずである。

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