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ちょっときいて  作者: 矢久 勝基


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満たされぬ動物

 芸能事務所JのTというグループ、Y氏が泥酔後女子高生を連れ込んで無理やりキスをした。

 ……みたいな事件が巷を騒がせている。

 本人は事実を認めて謝罪。芸能活動を無期限で休止らしい。え、謹慎?……何が違うの?


 人間というのは、満たされぬ動物だ。

 どのような立場にいても、どのような状況にあっても、腹をすかせたライオンのように、いつも何かを欲している。

 そして、満たされぬ気持ちを忘れるために、人はいろんなことをする。

 この"いろんなこと"は実に多岐に渡っていて、趣味に没頭するのもそう、ストレス解消という名目の何かをするのもそう、酒を飲んだり馬鹿騒ぎをするのもそうだ。

 夢を追うのもそうだし、何かを目指すのもそう。

 実は、本を読んで批評をしたり、逆らえない立場の相手に威張ったり、犯罪めいたことをしたり、鬱に陥ったりするのも、結局は同じ。すべて"今の自分が満たされぬゆえ"であり、人それぞれの表現の仕方の違いだけなのではないかと、最近思うようになった。


 世の中というのは本当に、自分の思い通りにはならない。世間の大波の中で自分の意見を通そうとしても、あっさりと沖にさらわれて、気がつけば不満という名の海の中でもまれている。

 これは一見、他人から見れば自分の思い通りになっているように見える人も同じ。

 大空を飛ぶ鳥が、地を這うネズミの目には決して映らない風景を目の当たりにしていることに別段感慨がないように、人は皆、自分を視点を水平線として、世の中に対して満たされない自分を抱えている。

 豊臣秀吉が日本を平定したら韓国へ向かったのも似たような心境ではないか。


 つまり、人間誰しもがそうなのだ。そして、それを忘れられるなにかを見つけ、その場に身を置いて、がむしゃらでいる時だけ、人は「充実してるよ」と、満足げに語っているように思う。

 何かにハマって夜通し遊んでしまった時、明日のことはあまり考えていないように、充実している時、人間は目をつぶって走っているようなものだ。それは意識的、無意識問わず、である。

 大きな歴史の流れで、日本の高度成長期も、つまりは国レベルでそうであったのではないかと思う。あんな時期は日本の歴史を見ても特殊だ。


 しかしそうやって、充実した時間を手に入れた人も、いずれ必ずまた満たされぬ時間が戻ってくる。

 ほしいものが手に入った瞬間、ほしいものは、ほしいものではなくなるからだ。

 人はまた、腹をすかせてなにがしかを探すようになる。

 冒頭の話、あのような押しも押されぬ立場にいるアイドルが、あれほどに浅はかでくだらない流れを作ってしまうのも、結局彼もどこか満たされぬ部分があってのことなのだろう。

 あの事務所の所属タレントの、酒によるご乱心はこれまでも多く取り沙汰されてきたが、すべてすべてが勝利の美酒に酔った挙句のことではあるまい。

 結局、満たされぬ感情が、彼らに浴びるほどの酒を飲ませ、自分の立場をも忘れさせてしまうのである。

 それがネズミにとって、どんなに慢心のように思えても、贅沢なものに映ったとしても、鳥には鳥の事情がある。


 彼をかばっているわけではない。

 ただ、なんとなく空しさを感じたのだ。

 矢久も結局、満たされぬ気持ちを、文章、小説、エッセイという形で表現しているのだと思う。その背景に自分の生活があり、自分の人生がある。

 自分を充実させるためにモノを描き、人生を充実させるためにモノを描いて、いつかは自分の作品が世に出ることを願ってやまない。

 でももし、実際そうなったとしても、人がうらやむような立場を手に入れたとしても、結局、満たされぬ自分を感じるのだろう。そんなことを言うこと自体が慢心だと思われたとしても、やはり満たされぬ日が来るのだろう。

 満たされぬ気持ちを忘れるためにモノを描いているのに、その先にある物がやはり満たされぬとすると……。

 とはいえ、走らなければやはり満たされないままなのだから、自分が満たされたければ走り続けるしかないのだが、この矛盾……あの、唇をかんでいたアイドルの表情を見るにつけ、なんとなく、このようなエッセイを起こしてしまいたい心境である。

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