魔王様(♀)と姫(♀)、白昼の戦い……?
今までを読んでない人のための登場人物紹介
魔王様(♀):長女(二歳)
姫(♀):次女(零歳)
召使い1:矢久
召使い2:嫁
*なお、作中のカギカッコはすべて矢久の脳内補間です。
最近姫は何でも食べる。
「まぁ、おいしそうなチラシの切れ端だわ」
寝返りをしながら移動して手に触ったものを持ち上げて恍惚そうな表情でしばらくそれを眺めてから食べるのだ。
しかしそうすると決まって魔王様(♀)がやってきて、ひったくってしまう。
「それはわらわのじゃ!」
「え? ではこのおいしそうなキティちゃんのキーホルダーは?」
「それもわらわのじゃ!!」
「では、このおいしそうなおままごとセットのにんじんは?」
「全部わらわのじゃ!!!」
……結局、全部取り上げられてしまう。さすが魔王様だ。この世の中(=家の中限定)のものはすべて自分のものであるらしい。
しかし姫はめげない。思えば、そもそも魔王の暴力に屈する姫を見たことがない。スカウターで計れば戦闘力などゴミ以下だろうに、すべての姫は魔王に対して非常に反抗的である。ある意味すごい。
ともあれめげない。姫は無言で次なる目標を目指し、転がっていく。その先々で
「まぁ、おいしそうなビスケットの箱だわぁ……あ~ん」
「コラァ!! 世界はすべてわらわのものじゃぁぁ!!」
となっていくので、気がつくと家の中のものがすべて端っこがよだれでふやけているという状況に陥る。こういうことが原因でファンタジー世界では魔王と人間が熾烈な戦いを繰り広げるのだろう。(たぶん)
しかし、今は無敵の魔王様にも恐怖の時間がある。
『オヒルネノジカン』である。
以前の「寝かすのは戦いだ」みたいなことをどっかで言った気がするが、とにかく寝るのが嫌いな魔王様と、何とか寝かしたい召使い2の、血みどろの駆け引きがオソロシイ。
「わらわは寝とうない!」
「早く寝ないと起きるのが遅くなっちゃって午後が遊べませんよ!!」
「おーーーきーーーてーーーるーーーー!!!!」
無理矢理立ち上がる。しかし魔王様が本当は眠い時は非常に分かりやすい。
……よく転ぶのだ。そして呼ぶ。
「たーーーれーーーかーーーあーーーるーーーー!!!!」
でも、それで召使い1が駆けつけてくるのが、実は魔王様一番の恐怖だったりする。
「どうしました!!」
「うぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!! わらわのベッドシーンを男は見るなぁぁぁぁ!!!!!」
とにかく泣き叫ぶ。声を限りに泣く。呼吸がひっくり返って死んでしまうんじゃないかと思うほどに泣く。
召使い2はそれを武器に戦うのだ。
「早く寝ないと召使い1が来ますよ!!!」
だが、いないと効かない。
「へへーん、全然平気じゃよーーん」
「呼びました?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!! マジキタコレーーーー!!!!!!!」
寝る直前の魔王様。召使い1を見るだけで大泣きである。理由はまったく不明だが、今のところ、魔王様にはどんなDVよりも、どんな貞子よりも、よっぽどの恐怖らしい。
それであとで「召使い1! 遊べーーー!!」とか言われるのだからまったく不本意だ。
……と、壮絶な戦いが繰り広げられている中、隣の部屋では天敵がいなくなった姫が一人恍惚そうな表情を浮かべて手に持ったジグソーパズルを見つめていたりする。
「まぁ、おいしそうなジグソーパズルだわぁ……」
魔王様のオヒルネタイムは彼女のパラダイスである。




