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ちょっときいて  作者: 矢久 勝基


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時間の止まっている店

 "ちょっときいて"で書きたい話題はたくさんある。

 タイトルまで決まっている、今でも書けるネタとして、「99%」「なろう版共謀罪」「ちょっと悲しい話」とか、シリーズとしては「好き勝手言う党」「華麗なる我が家族」「魔王様(♀)……言いたいことはいっぱいある。書かせりゃいつでも書ける。

 が、そんな時間はない。空いた時間は物語を描きたいのだ。


 が、が、にもかかわらず、無性に"ちょっときいて"ほしいことができたりする。今がそうだ。別に面白いかはわからんけど、いいから"ちょっときいて"。


 矢久がよくいく隣街の一角に、時間が止まっているような場所がある。

 何十年も前から風景はそのまま、店はそのまま、進化も風化もせず、ただひたすら昔のままが広がっている場所があるのだ。

 今日、その界隈で知り合いと飯を食うことになった。面白半分とか、まだ生きてるのか?的興味ではなく、その界隈には本当にそこしか飯を食う場所がないので仕方がなかったのだが。


 時間が止まっている。

 店は小汚いのれんのラーメン屋だ。ラーメン博物館のように、わざと古い雰囲気を作り出している場所も世の中にはあるが、そうじゃない。普通に古い。何もが古い。

 入ってみても客もいない。ついでに店主はいても、「いらっしゃい」の一言もない。

 ただひたすらに、『しとしとぴっちゃん』がスピーカーから流れている狭い店で、椅子に座ってしばらくして、ようやく客が来たことに店主が気付くという壮絶さ。世知辛い今の日本ではなかなか見られない光景だ。

 店主は立ち上がり、震える手で水を入れてくれる。ちなみに店主はヘタすると80の大台には乗っているかもしれない。それくらいのじーさまだ。手が震えるのも無理はないが、まるでドリフターズの志村ケンを地でいってる。こぼしそうでこぼさない、そのスリルが職人芸だ。

 じーさまはそのまま仕事をするのかと思いきや、椅子に座って新聞を読み始めてしまう。とりあえずラーメンを注文するまで、店はただの集会所と化していた。


 その後、「熱い熱い」を連呼しながらラーメンのどんぶりを震える手で持ってきてくれる店主。盆に乗せてもいいだろうに、熱さに耐えながら持ってきて、熱い理由を三十文字程度にまとめて説明してくれる。

 曰く:塩は固形だからしょうゆより熱いそうだ。……意味はよくわからない。

 麺はノビていて、お世辞にもうまいとは言いがたいが、不味くて食えないというほどでもない。……という感想は矢久だけなのか、知り合いは残していた。ラーメン屋でラーメンを残されるラーメンというのも、なかなか珍しい。(主観)

 ちなみにゆで卵のサービスがあった。ラーメンに入れてくれるわけじゃない。殻ごと、丸々ひとつ出てくるのは最近のラーメン屋では珍しいのはないか。


 とにかく、大昔のギャグマンガとかにでてきそうな店構えと店主のキャラとそのアバウトさ。

 極めつけは会計の時だ。

「550円に600円ね、消費税で『3%』加算されちゃうけど」

「へ?」

「ここに書いてある通りね」

 見ればレジの脇に、張り紙がしてあり

<4月1日より、消費税として3%を加算させていただきます>


 ……

 …

 いつの4月1日じゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!

 ……冗談は"しとしとぴっちゃん"だけかと思っていたが、じーさまは味のある古いレジスターで、550円と600円を打つと、手打ちで1,03を掛け、しかも一の位を切り捨てた値段でおつりを渡してきた。

 本気で、その店の消費税は、まだ3%だったのだ。


 時間の止まっている店。

 ひょっとすると、あの店の中だけはまだ昭和60年くらいなのかもしれない。

 店を出て、振り返ったらあのじーさまはもういなかったのかもしれない。

 タイムスリップできる、田舎の街の古いラーメン屋。

 ……なんかステキじゃないか?

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