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ちょっときいて  作者: 矢久 勝基


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「お客は神様だ」と誰かが言うようになってから

 日本はダメになったと思う。


 いやたぶん、はじめにその言葉を吐いた人の、もともとの意味は違っていたんじゃないだろうか。しかし、非常に履き違えやすいこの言葉が先走りに先走りすぎて、「消費者が一番偉い」などという阿呆な思想をどこかで定着させた。

 その結果、企業をブラックに変え、日本の風習を蹴散らして、民度を低俗化させている。

 ……と、思う。


 あるところから日本に深く根付いた「お客様は神様」という思想が、企業努力と競争を加速させ、世界でもまれに見る、利便性の高い社会を形成していることは疑いのないところだ。ここまで価格以外のサービス面で競争している国など他にあるのだろうか。それに必死に耐える日本人のすごさは確かにある。


 反面、皆が背伸びをしないと生きていけない世の中になってしまった。

 背伸びをして、ようやく届いた指の先の皮の部分が、やっと利益となる。皆が皆、腕を伸ばすものだから、自分だけは何とか目立とうと指に色をつけてみたり、一生懸命爪を伸ばしてみたりする。いっそのことわさびでも塗ってみれば目立つのかと、手段すら選ばなくなる。

 隣の人がわさびのつんとした匂いにやられても関係ない。企業は従業員すべてに無理矢理わさびを塗りたくり、彼らの手が荒れて匂いが残っても気にしない。

 企業なんて世間体があるだけまだマシで、失うもののない個人単位となると、爪にわさびどころかヘドロやウンコ塗ってるヤツもいる。

 明日のことなどはどうでもいい。いまここで、人より目立てばそれでいい。

 ……おととしあんなに流行った芸人のネタが、今になると誰も思い出さないという、使い捨ての世の中だ。


 「お客が神様」になってから、そこまでしないといけなくなった。

 前もどこかで言ったとおり、「良い番組は視聴率が取れる番組」なのだ。競争社会……民主主義が煮詰まれば当然もたげてくる弊害なのだろう。

 でもな、勘違いしちゃいけないことがある。

 ……それらは、あくまで発信側の思想や努力の結晶であって、受信側が偉くなったわけでは、決してないということ。

 どこかの阿呆がそこを勘違いしてから、日本はダメになった。

 「お客は神様だ」と客自身が言うようになってから、日本はダメになったのだ。


 "働き方改革"などと言っているが、ワガママになりきった"客"がもう一度ふんどし締めなおして自分の分をわきまえないことには根本的な部分は解決すまい。そんな社会は、便利にはなっても何も残らない。

 振り返れば文化らしいものなど何もない……という軽薄な文化を作り上げている大元凶がこの思想だと思うし、それはいつか必ず、日本という国にしっぺ返しという形で現れる。これは間違いない。


 理想を言えば、発信側と受信側は対等であるべきなのだ。

 しかし、何事も両極端にしか振れないのが人間の社会だから、こうと決めればまたナニカを勘違いする阿呆は必ず現れる。


 まぁ……『民主主義は最悪の政治といえるだろう。これまで試みられてきた民主主義以外の全ての政治体制を除けばだが』ってことなんだろうナァ……。

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