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ちょっときいて  作者: 矢久 勝基


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魔王様(♀)その9

 召使いたちがあまりに物分りが悪いからか、魔王様(♀)は自ら意思表示をすることが多くなった。

 とは言っても、言葉など下々のものにはもったいないようで、相変わらず意味の分かる言語を用いない。いや、ひょっとしたらイルカ語のようなものをしゃべって、召使いたちを試していらっしゃるのかもしれないのだが、残念ながら二人ともイルカ語を解せない。駅前留学などをすれば少しは分かるようになるのだろうか。


 意思表示はYES,NOである。

 うなずいて「うん」という"Yes"と、ちょっと怒ったように声をひっくり返す"No"。……この場合首を横に振ることはない。

 ……つまり、質問には答えてくれるというわけだ。これだけでだいぶ違う。

「おなかすきましたか?」

「うん」

「おなかじゃなくて眠いですか?」

「ぅぅん!!」

 ……となれば、とりあえず空腹で不満だということがわかる。


 そうすると当然召使いたちは一つの質問に行き当たる。

「召使いのことは好きですか?」

 人間、一度は通過せねばならない質問である。生きるのに必須というわけではないのに、家にこのような皇帝がいらっしゃればほぼほぼ確実に一度は聞く質問だろう。

「召使いのことは好きですか?」

 YesかNoしか存在しない魔王様にする質問としては、非常にサバイバルな質問でもある。


 以下、ニュアンスを伝わり易く伝えるために、呼称を召使いではなくパパママ(仮)とする。

 機嫌のいい魔王様に召使い二人で歩み寄り、並んで座って聞いてみた。

「ママ好き?」

 すると魔王様は満面の笑みだ。

「うん!」

 そうか!やはりそうだな!!ならばパパ!

 すでにオチが読めてしまいそうで申し訳ないが!

「パパ好き?」

「ぅぅん!!」

 即答で嫌われてるぞ!!!!

 ……いや、たぶん、よく聞こえなかったのかもしれない。近くには日本でも有名な米軍基地もあるし、しょっちゅう飛行機やらヘリやらが近くを飛ぶから、ひょっとしたらその音にかき消された可能性はある。

 そこで、パパ(仮)は一度深呼吸をして、もう一度向き直って試してみる。

「パパ、好き?」

「ぅぅん!!!」

「……」

 ふむ……。

 ……今度は北朝鮮から飛んでくるミサイルの音にかき消されたようだ。よくある話である。

「パパ好き!?」

「ぅぅん!!」

 ……。

 ……たぶん、魔王様も少し混乱されていて、YesとNoの区別をし忘れているのだろう。

 パパ(仮)、質問の前に、場を暖めてみることにした。

「ママ好き?」

「うん!」

「ママ好き?」

「うん!」

「パパ好き?」

「ぅぅん!!!」

 ……ふむ……。

 ……どういうことじゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!


 話を盛っているとお思いだろう?

 とりあえずエンターテインメント性を高めるために大げさに演出しているとお思いだろう?

 …………

 ……

 ……私もそう思いたい……(泣)

 なんでだ!あんなに遊んであげてんじゃーーん!!たまに仕事中でもわざわざ私の部屋まで来て、私の手を引いてリビングまで連れて行かれ、ままごとセットで遊んであげるじゃーーん!!

 ……はっ!!

 すっかり取り乱して召使いキャラを忘れてしまっていたが、ともあれ、本気なのか魔王様なりの冗談なのか、召使い1は

「好き!?」

「ぅぅん!!!!!!!」

 なのだ。あまりの仕打ちではないか……。


 そんなこんなで夜になる。魔王様は風呂を終え、お休みになる少しの時間で私を呼びつけ、『遊べ』と強要する。

 怖いのですべておおせのままにしているのだが、なにせ寝る時間なのだ。魔王様は眠くなる。

 すると魔王様はやおら、「ん!」と私の部屋を指差すのだ。

 さながら「もういいから帰れ」との如く。いや、……ひどくない……?


 質問が出来るようになったので、一度素直にうかがってみた。

「もういいからカエレ、との意味ですか?」

「うん!!」

 ……さすが魔王様。容赦がない。今の今まで遊んでてあげたんじゃーーーん!!!

 私があまりのことに言葉を失って立ち尽くしていると、私のすねの辺りを両手で押し始めたりもする。

 さながら「早く帰れーーー!!!」との如く……。


 さすがに召使い1がかわいそうだと思うのは私(本人)だけだろうか……。

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