パンツ見えてますが……
梅雨時日本列島、じめじめと湿った街を歩いていると楽しそうに話をしながら前を歩く女子高生二人組が目に入った。
下校時刻のようで他にも制服の男女をちらほらと見るから別に珍しいことではない。駅の構内をミスタードーナツ方面へ向かっている彼女らを、わたしは追いかけているような構図となった。
そのうち、右側の女の子。背中向きなので顔はよく見えないが、黒い髪はストレートに長く、全体的に華奢なイメージを受ける子である。
その子のパンツがものすごい勢いで見えている。
だいたい女子高生の制服はスカートの丈が極端に短い。足を見せるとかわいいという信仰でもあるのか、とにかく競っているかのように短い。イギリスではそのために教師の気持ちが乱されるとかで問題になって学生服のスカートが廃止されるとかなんとかで、女子の太ももというのは軽く凶器なのだろう。
その子の場合、肩からかけているバッグが短いスカートを下からめくりあげて腰に挟み込んでしまっているために、右の尻のふくらみと黒い下着が丸見えになっているのだ。背負い方が悪かったんダネ。
こういう場合、むしろわたしの方が困る。
本人はまったく気づかず楽しそうに隣の友達との会話を楽しんでいる。
その背中で、駅という場所を考えればモザイクかけた方がいいんじゃね?というグレーゾーンを目の当たりにして、気恥ずかしくなるのはこっちのほうだ。
周囲には当然人もいる。
「ラッキー、写メ写メ」
などと携帯を取り出そうものなら、わたしはお宝映像と引き換えに後ろ指を刺されまくって、蜂の巣状態で憤死させられることは間違いない。同時に、それだけの衆目の中、知らずに下着を晒していることを知れば、彼女もさぞショックだろう。
だが、
「パンツ見えてますが……」
これ言えない。
そもそも微妙な状況なのだ。わたしは歳の離れた男だし、内容が内容だけにあまり大声ではいえない。街中歩いてたら後ろから耳元にささやくように「パンツ見えてるよ」などとしらない男に言われることを想像したら、わたしが年頃の女ならパンツよりもその男の性癖の方が心配になる。
ちょっと遠目で見てるから全身見えるわけだが、彼女にしてみれば自分の尻を追いかけてきた不審者にも映ろう。おまけに、背中から声を掛けて彼女が振り向いて、かばんの位置が変わればスカートは戻ってしまいそうな配置なわけで、そうなった場合、既成事実すらなくなってしまう。
交番も近いというのに痴漢の濡れ衣を着せられ、人生が真っ黒クロスケになることを考えると、彼女のパンツはそのまま放置せざるを得ない。彼女はあのままどこまでいってしまったんだろうか……。
まぁ痴漢まで行くと大げさかもしれないが、李下に冠を正さず?……多分、わたしが制服を着た同い年だったら彼女の感じ方も違うだろう。あ、いや、逆に今のわたしと同世代の女の人がパンツ丸出しでもそれはそれで言いづらいかもしれない。
ともあれ制服女子は以上の理由でパンツ晒して歩いていても教えてもらえるとは限らないことを頭の片隅に入れておいたほうがいい。男はやっぱいろんな意味で言いづらい。