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ちょっときいて  作者: 矢久 勝基


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地球に優しく、サイフに優しく……?

 五月といえば、車を保有してる人間にとっては自動車税が重石となる。

 日本という国は登録されてから13年以上経った車両に15パーセントの重課税を施してる。つまり、今まで3万円なら34,500円といったところだ。

 『二酸化炭素など有害物質を多く排出する古い車は迷惑だからペナルティを課します』……ということのようだ。一瞬聞けば、特に車に詳しくない人は「そりゃそうだ」と思うかもしれない。


 しかし実際、この"古い車は有害物質を多く排出する"という概念は単純に燃料の燃焼ベースの話であり、車を製造することや廃棄すること、それに関わる無数のエネルギー消費(と有害物質の発生)についてはまったく考えられておらず、大局的に見た効率としては、造って潰してを繰り返すことの方が問題は大きい。

 程度や状況にもよるのだろうが十年以内にパンパン新しいのに乗り換えてを繰り返す方が地球にとってはよほど有害だ。(ちなみにこれは諸説あり、繰り返すけど程度や状況にもよるということなのだろう。俺がここでこんな断言をしたら顔を真っ赤にして怒るやつもいるはずだ)


 じゃあなんで国はそういう政策を進め、やたら新しい車を優遇するかといえば、日本というのは要するに車大国なんだな。トヨタ、日産、ホンダ……まぁいろいろあるけど、車産業は戦後日本を支えてきた基幹産業であり、その産業を後押しする意味でもこの部分の流通が滞るのは好ましくない。こんな巨大産業ともなれば政治屋との癒着もベッタベタだろうから、"悪代官に越後屋が"入れ知恵してることも、想像に難しくない。

 六年前に『電気自動車ってさ……』って稿をこの『ちょっときいて』に載せたが同じこと。結局耳障りのいい話に流されて、本質の部分がうやむやな話というものが、世の中にどれほど多いか。


 先日、とあるエアコンのCMを聞いた。

「省エネ+パワフルなエアコンでとてもお買い得です。今使ってるエアコンが十年ほど前のものでしたら、年間5,000円もの節約が期待できます。取り付け工賃は無料。古いエアコンの回収費用も無料。こんなお得なエアコンが本来でしたら128,000円のところ、今回は特別に78,000円でのご奉仕。さぁ、今年の夏の厳しい暑さを新しいエアコンで乗り切りましょう!」

 ……原文ままではない。営業妨害って文句言われたらたまったもんじゃないし。まぁそんなエアコンを売り出していたのだが……。


 年間5,000円という数字だけを見れば、まぁたしかにエアコンをよく使う世帯ならだいぶお得だと思われる。

 でも待て。78,000円なんだぞ、これ。

 この78,000円かかったエアコンで5,000円を回収するのにはどれくらいかかるか。答えは15年と半年ちょいだ。

 逆に、古いエアコンが壊れていなければ、あと十年余計に使ってもそのニューエアコンに比べて、50,000円の負担増になるだけだ。

 じゃあ今のエアコンをあと十年使って、壊れでもした時に買い換えるのと、まだ使える今のエアコンを捨て、78,000円で年間5,000円お得になるエアコンを買うのはどちらかお得か。

 十年後に、"年間五千円の節約ができるエアコンよりもパワーアップ、さらに五千円の節約ができるエアコン"が出るのだとすれば、壊れるまで使ってその後買い換えたほうがよほどお得じゃないか?

 繰り返すけど、"環境のことを考えて"ってお題目は、製造、運搬、廃棄、解体までにかかる環境負荷を考えれば、単純に二台目を用意するということは一台を使い続けることの倍のコストと負荷がかかるわけで、一年で5,000円の電気代とそれを作り出すための二酸化炭素排出量を考えるとそうそう変わらない。


 車も同じだ。

 エコカーになれば燃費は改善する。そして現在は重量税も75パーセントの優遇が得られる。さっき言った3万円の例で言えば7,500円となり、年間27,000円も税金に差が出る。

 じゃあ本当に、エコカーに買い換えた方がお得か。

 もちろん今車を持ってない人がどちらかを選ぶならエコカー一択だ(お得という意味では)。しかし、今まだ壊れてもいない車をわざわざエコカーに買い換える行為となるとハナシは違ってくる。


 まず前提条件として、場合によっては乗り換えた方がいい場合もあるとは思う。遠距離への通勤通学や毎日十五キロ先の店に買い物に行く等、普段の生活に密接に関わり、かなりの頻度と距離を走るなら、あるいはエコカーの方がお得になる可能性はある(壊れなければな)。

 それを踏まえ、まぁ、仮に一ヶ月120キロ走るとしよう。

 燃費がリッター15キロの新車、5キロの旧車とするなら、一ヶ月に必要な燃料はそれぞれ8リットルに24リットルとなる。

 現在のレギュラー全国平均価格が1リットル160円だから、一ヶ月にかかる燃費はそれぞれ1,280円と3,840円。年間では15,360円と46,080円となる。

 ほかのメンテナンス代(車検も含めず)を置いておいて、これらに十年乗ると、税金と燃料だけで、新車が228,600円で旧車が805,800円となるわな。


 うおおーー差は歴然だ!!と思うかもしれないが、たとえばプリウスの価格は一番安くて320万円。実際に値引きとかがうまくいって280万円で買えたとして、旧車が修理代で十年100万円余計にかかったとしても、まだまだ余裕で100万円"お得"だ。

 維持費はお互いかかるし、エコカー減税ってヤツは時限措置であり、いずれなくなる減税である。事故れば新車もクソもないし、だいたい、だいぶ旧車に厳しく書いてるので、実際はこれほどの差がでないケースも多かろう。

 造って壊してを繰り返すことによる環境負荷を考慮に入れて(実際の環境負荷に)それほどの差がないとすれば、旧車を害毒としてわざわざエコカーというものを買い換えればエコ……という考え方は、必ずしも当てはまらないことは間違いない。

 セールスの話術と時代の潮流に乗せられて、なんとなく地球環境にもお財布にもやさしい気になってしまう落とし穴だと言えるんじゃなかろうか。


 全稿『ウクライナ情勢、雑感』でも言ったとおり、確かな情報、知識としては読まないでほしいのだが、考え方としてはそれほど的外れでもあるまい。

 温暖化、省エネ……もちろん元は崇高な意味合いがあると思うし、「そんなのは無視するべきだ」と言ってるわけではない。

 しかし、耳障りのいい言葉の裏には、必ずビジネスの臭いが漂っている。その言葉を利用し、たいした効果も期待できない便乗商売をする現象が起きるのはある意味宿命であり、俺としては、なんか世間が一方の世論に傾いてる時は「え、それホントかな」と疑える知恵も必要だと思う。

 この稿の数値や試算が正しいかどうか……じゃない。考え方として、肝に銘じるべき話だと思うんだ。


 とりあえず、旧車を有害と決め付けて重税を課すことは、根拠に乏しいと思うからやめてほしいんだが……。

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