誰もいない電車の一両目
ある日、『せっかくの日曜なので ちょっと出かけよう』と目覚める俺。
――そんな俺は、電車に乗った。
しかし、日曜の朝だというのに、電車に乗っている人が誰もいない。
いいや、よく周りを見ると、二両目からは そこそこ人が乗っている。
けれど、自分が乗っている一両目の中には、自分以外 誰も乗っていない。
まるでそれは、俺の乗っている一両目を避けているかのように見えた―――。
で、俺は一両目の真ん中くらいに座っていた。
そして、それからしばらくして、静かに電車は動き始めた。
“なんだか妙に静か” ――その言葉が、俺の心を打つ。
不思議な匂いを感じ取り、俺は二両目に移ろうとするが、どういうワケかできなかった。
――それは、扉が固いからとかそんなレベルの問題じゃない。
――まるで、コンクリートの壁を無理やり手でこじ開けようとしている感じだった。
とにかく、俺はそんな扉と格闘していると、 ふと 後ろから強い視線を感じた。
――錆びついた機械のように、ゆっくりとゆっくりと後ろに振り返る俺。
振り返った先にいたのは、髪の長い女。
前髪で顔が隠れているが、その隙間からは鋭い赤目をこちらに向けている。
“血が滲んでいるのか?” ――そんな事を思わせるほど真っ赤な女の目。
その赤目の女はゆっくりと、 確実に一歩一歩こちらに近付いて来る。
俺は怖くなって後退りをする。 が、すでに俺の後ろには扉。
――足が打つかって、どうしようもなくなった俺は、『逃げ場はないのか?』と考える。
だが、止まる事無く確実に近付いて来る女に、ついに俺は――――――――――。
気が付くと、俺は床で寝ていた。
――首を絞められたのだろうか?
そんな違和感が首にはあるが、最後の方の記憶が全くと言っていいほど残っていない。
俺はふと、周りを見てみた。
すると、 駅のホームには、先ほど出発したはずの最寄り駅の名前が。
そこから、今 乗っている電車が出発する前の電車の中だという事が分かった。
――笑える話だが、状況が掴めない。
そう思った俺は、『きっと 疲れているのだろう』と電車を降りようとした。
だが、降りる一歩手前の所で扉が音を立てて閉まった。 ――そこで気付く。
――さっき起きたことは夢なんかじゃない。リアルで起きたことなのでは? っと。
そう思った俺は、『そうだ、窓!』と思い、殴って割ろうとするがビクともしない。
だから、俺は席に戻り、静かに深呼吸をする。
それは、まるで 俺の終わりを覚悟したかのように―――――