魔王という存在
昨今、魔王とか勇者もののブームが来ているっぽいので、自分も挑戦してみました。
基本的にコメディーっぽく行きますが、最後は少し好き嫌いが分かれるかもしれません。
そこの所をご了承ください。
AM 2:00
「魔王様、侵入者でございます」
深夜、まだ月が夜空で現役を張っている時間に、魔王は側近によって起こされた。
「……う、うう。今何時だ?」
「2時でございます」
その答えに、魔王はげんなりした。
「まだ日が変わって少ししか経ってないではないか。……こんな夜遅くに来るとは。非常識なやつめ」
突然の侵入者に不満を漏らすが、これも魔王という存在が引き起こしたもの。おそらく、寝込みを襲う予定だったのだろう。
「どうしますか? ご命令とあらば、直ちに処理いたしますが」
そう言う側近の目は、ぎらぎらと光る鋭利なナイフのようで、侵入者に対する怒りが手に取るように分かる。この側近も、こんな夜遅くに魔王を起こしたくなど無かったのだ。
「それもいいが、敵戦力はどれくらいだ? お前が起こすほどだ。それなりなのだろう?」
「はい。構成は戦士が2人、魔法使いが3人、僧侶が2人、騎士が1人、遊撃手が1人の計10人のパーティーです」
「……多いな」
「はい。そしてその内、戦士2人、魔法使い2人、僧侶1人がAランク、騎士がSランクです」
「人数が多い上に精鋭揃いか。……全く面倒な」
こちらがモニターです、と側近は指をぱちんと鳴らす。すると、何も無かった中空に突如映像が流れ始め、映像には確かに先程言っていた人間が映し出されていた。
「……ほう」
この世界では、Aランク以上になるとギルドから戦士は篭手、魔法使いはローブ、僧侶は指輪といったように、職業別に装備品を与えられる。しかしもし、その部位の装備品を変えたくないのならば、代わりにネックレスを与えられるのだが、実際にそれを受け取るものは極めて少ない。
何故なら、その与えられる装備品はそれ自体に高い能力が施されているからである。篭手ならば攻撃と防御を、ローブならば魔法能力と魔法防御、精神干渉の抵抗力、指輪ならば精神力と加護の力などが増幅する。そしてその上がる能力値が他と一線を画すので、殆どの冒険者が各職業の装備品を受け取るのだ。因みに、ネックレスは幸運値が上がる。
冒険者としても、ただ幸運値が上がるだけのネックレスより、自分の職業に合った能力が上がる方がいいので、それも理由の一つとされる。
さて、魔王は映像を見て嘆息したが、それは数人のAランク冒険者を見たからではなく、視線は大きな盾を持っている人物に注がれている。その盾には赤い竜の刻印が入っており、その持ち手は騎士の職業を冠するものだった。
騎士の職業を冠するものは、世界でも少なく――というのも、騎士は実績を積んだものが貴族以上のものに任命されて始めてなれる職業だからである――、その能力はとても強力であった。
騎士になるには、実績だけでなく、他にも必要な能力がある。騎士となるには高い耐久力と、そして治癒魔法を持っていないと騎士になることは出来ない。騎士はその身で味方、或いは王族を守る職業なので、そういった能力が必要なのだ。
さて、今回ここに来ている騎士だが、その盾には先程言ったように赤い竜の刻印が入っていた。その刻印はSランクにのみ与えられるもので、それは王族に認められた証であり、誉れであった。
そんな勲章をつけた人間が一人――しかも騎士なので強さ倍増――、パーティーにいるとなるとそれはとてつもなく厄介だ。何せ、Sランクとなると太刀打ちできるものはそういない。しかもAランクまでいるので、このパーティーを潰すのは骨が折れる作業だ。
側近も強いことは確かだが、一人でこれを相手にするのは酷過ぎる。他に仲間をつけて戦っても、その損害は大きなものとなるだろう。
「仕方がない。私がいこう」
「しかし魔王様、あなたがいかれなくとも、兵を用意してくだされば私が行きます」
「いや、これくらい精鋭揃いだとお前も危ないし、部下も何人残るか分からない。足止めを数人用意させて、私が出向く」
「御意に」
側近は恭しく頭を下げ、兵を用意しようとする。しかし魔王はそれを止めた。
「待て、今回はプランCで行く。それの準備も頼む」
「はっ。分かりました」
側近はまた頭を下げ、今度こそ退室した。
魔王はその姿を見送ると、直ぐに寝巻きから着替え、ナイトキャップも外して戦闘服に着替えた。
「さて、常識も弁えない輩に一つお灸を据えてやるか」
魔王はくっくと邪悪な笑みを浮かべて部屋を出た。
「よく来たな。我を討伐せんとするものよ」
「お前が……魔王か!」
「如何にも。我こそが魔王であり、そして、全魔族を統べるものだ」
「お前の首、今日こそ討ち取ってみせる!」
「ふん、やってみるがいい。しかし、ただでくれてやるつもりはない。精々足掻け」
魔王はマントをたなびかせ、目の前の挑戦者達に視線を送る。
その手には、こちらが見慣れたものがあった。
「ほう。我が宝物庫を暴いたか」
「ああ。“聖剣”〈エクスカリバー)に、伝説の弓〈聖天の弓〉、他にも使えるものは全て頂いた!」
「……呪を解除したか。特別強い呪を付与したと言うのだが……侮れんな」
「こちらには、優秀なのが多いんでね」
そう言って“聖剣”を構える騎士。
それに続くように、他のものも次々と己が武器を構えていった。
「さあ魔王、会話はここまでだ。お前を殺して、世界に平和を取り戻す!」
「ふん、何も知らない単純馬鹿が。わざわざ自らの寿命を縮めるとは。普段ならお前らほどの人間を殺すのはあまり気が進まないんだがな……我が眠りを妨げた罪、とくと思い知るがいい!」
そう言って魔王も構える。
お互いに殺気を飛ばしあい、辺りの空気はこれ以上ないほどに張り詰める。
そうして数秒が過ぎ、先に魔王が動いた。
「漆黒の火炎!」
赤ではなく黒い炎が冒険者達を襲う。しかし冒険者も然るもの、一人の魔法使いが杖を振るう。
「清流の壁!」
若干の神聖を帯びた水の壁が出現し、冒険者達の身を守る。しかし、炎の勢いは尚も衰えなかった。
「ふん! そんな中級魔法で、防げるかあ!」
「聖なる加護!」
炎が水の壁を突き抜けようとした瞬間、僧侶の一人が呪文を唱える。
すると、白い光が水の壁を覆い、突き抜けようとした炎は霧散した。
「――なるほど。魔力消費の大きい上級魔法で防がずに、弱点を突く中級魔法に神聖を付加させて、暗黒魔法にも強くする。それで魔力の消費を抑えたか」
「お前相手に対策を練って来たからな。――今度はこちらから行くぞ!」
戦士二人が飛び出し、魔法使いと僧侶が後衛で準備し、遊撃手がそれより後方で狙いを定める。そして騎士は中衛で後ろを守れる場所に位置する。
パーティーは息の合ったコンビネーションで魔王相手に善戦していた。
「漆黒の嵐!」
「灼熱の渦!」
「紅き血槍の雨!」
「上級防御!」「聖なる加護!」
両者は一進一退の攻防を続け、戦いはまだまだ続くと思われたところで、唐突に魔王は後ろに跳び引いた。
「どうしたんだ、魔王?」
「いやな、お前達が余りにも強いから、ついつい調子に乗ってしまった」
「……まるで遊んでるみたいな言い方だな」
「そうだ。貴様らはどうかは知らんが、俺にとっては唯の暇潰しでしかない」
「ふざけるな!」
魔王の態度に、今までの緊張感もあり冒険者達はすぐに激昂した。
「くくく。なら、本当の戦いをしてやろうか?」
「ぐっ――――」
魔王から放たれるプレッシャーに多少気圧されるが、それでも踏ん張り魔王と対峙する。
「どうやらお前らは、自ら寿命を縮めるのが好きなようだな」
「それは、どうかな――!」
“聖剣”を持った戦士が飛び出し、魔王に渾身の一太刀を浴びせようとするがしかし、“聖剣”は魔王に届く前に振り下ろされた。
「な、何だ。体から力が抜ける」
“聖剣”を持った戦士は地に伏し、突然沸き起こった身体の異状に疑問を持った。
「くくく、はーっはっはっは! 馬鹿め! 敵の本拠地にある武器を持ってくるとは愚の骨頂! 俺様が何もしてないと思ったか!?」
「何を馬鹿な! 呪は解いた筈だぞ!?」
「くくく、確かに呪は、な。だが、付加されてるのが呪だけだと思ったか?」
「なんだと!?」
「その剣にはな、魔法付加がされているんだよ。効果は、所有者の魔力と体力を貪り食う」
「なっ――ぐっうう!」
魔王が高笑いをしている前で、冒険者達は次々と地に倒れ伏していった。
「おっと、忘れてた。“聖剣”以外にも魔法付加してたっけな」
冒険者達は、それぞれこの城で見つけた高性能の装備品を着けていた。その装備品に施されていた魔法によって、魔力と体力を奪われたのだ。
「くそっ。卑怯な!」
「おいおい。俺様は魔王だぞ? 魔王が卑怯な事をして何が悪い? それに、この城の宝物庫にある装備品を、お前らは盗んだんだぞ? 当然の報いを受けたまでだろう」
「何を! この装備品だって、お前が冒険者から奪ったものだろう!」
「奪ったとは人聞きの悪い。俺はただ、自分を殺しに来た人間を殺し返し、持っていたものを頂戴しただけだ。なにもおかしな所はあるまい?」
魔王は悠然と、地に這い蹲る冒険者を見てせせら笑う。
これが魔王の言っていたプランC。側近にわざと城のあちこちに特別な装備品を用意させたのだった。
「さて、これでもう戦えるのはお前だけだな。いや、素直に凄いな。体力と魔力を根こそぎ奪われても尚立っていられるとは」
そう喋りかける相手は騎士だった。彼は城にある装備品はあまり着けていなかったので、奪われる寮は他のものより少なく済んだのだ。――しかし、奪われた量は、おそらく他の冒険者が奪われたのなら動けなくなるくらいの量ではあるが。
魔王もそこに感嘆し、騎士にその言葉を送ったのであった。
「……この、卑怯者が」
騎士は朦朧とする意識の中、それでも罵声を浴びせる。
がしかし、その声には最初ほどの覇気はなく、立っているのも辛そうであった。
「流石はSランクだな。その姿に敬意を表して、最後は私の手で止めを刺してやろう」
見ると、周りのものは既に事切れていた。魔力と体力を吸収し尽くされ、命を保っている事が出来なくなったのだ。
騎士は無念と思いながらも、戦う力もない今、魔王に殺されてしまう他なかった。
ならば最後は敵の手で葬られるのがいいだろうと目を瞑り、魔力と体力を吸収されて無様に死んでいった仲間に哀悼を捧げる。
「これで終わりだ」
魔王から死刑宣告がなされ、騎士はその命を絶った。
「お疲れ様です、魔王様」
戦いの一部始終を見ていた側近が労いの言葉をかける。
「久々に楽しめたな。最近はお前らに横取りされてばかりだからな」
「それは申し訳ありません」
側近は頭を下げるが、魔王はそれを手で制した。
「いやいい。お前らが俺のためにやってくれてるのは分かってるからな。今のは逆に俺が大人気なかった」
「ふふ、もう一つ、大人気なかったですけどね」
側近が言う“もう一つ”というのは先の戦いの事である。
「なんだ、軽蔑したか?」
「いえまさか。逆に尚の事尊敬いたしました。流石は魔王様です」
「よせ。照れるではないか」
本当に照れているのか、やめろと手を振る。
ふと外を見てみると、思いのほか時間がかかっていたらしく、先程より月が低い位置にあった。
「ふむ。久々に暴れた上に、こんな時間だ。俺はもう寝る。多分昼くらいまで寝るから、朝は用意しなくていい」
「はい、畏まりました」
そうして魔王は広間を去り、寝室へと戻っていった――――。
初めましての方も、初めてじゃない方も、こんにちは、アオです。
いやはや、今回は如何でしたでしょうか?
自分の中の魔王像はもう少し残虐だったのですが、少し自重いたしました。
最終的にパーティーの全員が死んでしまったわけですが、これが本当の対魔王戦だと思ってます。
さてさて、以下、短編のくせに地味に凝った設定を垂れ流していきます。
・暗黒魔法・神聖魔法について
“暗黒魔法”と言うのは、(説明するまでもないでしょうが)通常魔法の強化版&暗黒版です。基本的に暗黒魔法は同じレベルの魔法でもこっちの方が強いです。
そしてそれと対を成すのが“神聖魔法”です。
これは暗黒魔法と違い、他の魔法と威力は同じですが、暗黒魔法に対しては徹底的に強くなります。
基本的に暗黒魔法は上級の魔族や魔法使いが使い、神聖魔法は僧侶とかが使います。他にも、神聖魔法は回復もあったりと、暗黒魔法は攻撃なのに対し、神聖魔法は補助に向いています。
・呪について
“呪”というのは暗黒魔法の派生です。
基本的に術者に対して不利な要素が多い呪ですが、しかし逆に能力自体は大幅にアップします。
解けるのは神聖魔法の解呪だけで、今回も僧侶さんが頑張りました。
・魔法付加について
魔法付加とは、呪と同じく能力をアップさせるものですが、呪ほど協力にはなりませんしペナルティーもありません。
但し、装備品の容量までしか魔法付加は出来ず、基本的に一方向のみに特化した魔法付加が施されます。(呪は容量などは関係ない)
しかし呪とは違い、魔法付加はその装備品に魔法の力を付属させるものなので、それで魔法を使うことも出来ます。(例えば、炎の魔法付加をした場合には、剣から炎を出せます)ここら辺が魔法と呪の違いです。
さて、今回問題となった、所有者の体力と魔力を奪う魔法付加ですが、これは“吸収”と“放出”の魔法付加を丹念に、心血と真心を込めてやりました。
本当だったらそこまで奪われたりはしないんですが、施された装備品は古今東西に名を馳せる名武器・名防具なので容量も大きく、結果、あれ程の効力を発揮しました。
汚いですって? ノンノンノン。あれはあれで、魔王様の挑戦者に対する準備なのです。なにも冒険者だけが準備してるとは限らないじゃないですか。
・ランクについて
本編でもさらっと書きましたが、Aランク以上の冒険者にはそれぞれの高級装備が与えられます。Sランクになると、その装備品に王族から赤い竜の刻印を頂戴します。因みに、ランクは最低がF-、最高がS+です。それぞれのランクは ―<無印<+ という順番です。
Aランク以上に与えられる装備品ですが、武器はどの職業ももらえません。篭手とかローブとか、そういう防具だったり、指輪やネックレスと言ったようなアクセサリー系だったりします。
これは、「大事なのは身を守る防具であり、敵を屠る武器は技量で補うべし」という信条からです。なので、思いっきり防具である盾を渡される騎士は、みんなの尊敬の的だったりします。
以上です。
何か他に、「これはどういう事なのか」といった質問があれば、感想にてご質問ください。感想で返答した後に、ここに加えさせていただきます。
あと、別に質問じゃなくても感想は頂けると嬉しいです。寧ろじゃんじゃんください。
……はい、調子乗ってしまいました。すいません。
またどこかでお会いしましょう。
それでは。