第十九話 コタールという商人
「お茶のおかわりはいかが?」
二人きりになった談話室で、ハーベラがお茶をソーンリヴに勧める。
「いただきます」
ジュブラン執事が退室する際に淹れなおしていた紅茶の入ったポットから、ソーンリヴのティーカップに透明感のある赤い液体が静かに注がれる。
立ち上る香気がソーンリヴの鼻腔をくすぐり、この家の客人である深い藍色の女性は、その香りを愉しみつつ、ハーベラの言葉を待った。
初春の陽は既に傾き始め、窓から差し込んでくる陽射しは、談話室を淡いオレンジ色に染め上げていた。
もうじき、王城の大鐘に合わせるように教会の子鐘が四つ鳴る時間帯である。
自分のカップにも紅茶を注ぎながら、ハーベラが口を開いた。
「さて、どこから話たものかしらね?
私たちとシュウイチロウと出会った頃のお話はしたわよね?」
「ええ。シュウイチロウからも聞いています」
「そう……。他には?」
「いいえ、これといっては。あちらの世界のことについて多少尋ねたりはしましたが」
ソーンリヴがカップを受け皿に戻す際に鳴った小さな音は、談話室の中に響くことはなく、周囲の静寂に吸い込まれていく。
「ふふ……。あれだけ“あの人”から、迂闊に自分の居た世界のことは他人に話すな、と言われていたのに相変わらずなのね、シュウイチロウは。
それとも、余程貴女のことを信頼しているのかしら?」
「どうでしょう?アイツはどこか抜けているというか、適当なところがありますから。
まあ、怖い上司と思われているのは確かでしょうね」
唇の片端を持ち上げるいつもの表情で、ソーンリヴは笑った。口やかましい上司という役を演じている自分に対して。
その様子を見ていたハーベラが、諭すように目の前の女性に言う。
「シュウイチロウのことですもの。きっと気付いていると思うわよ?」
何に、とは明言しない。
過去に行商人の妻として、現在はアーオノシュでも有数の大店を切り盛りする男の妻として生きてきたこの老年に差し掛かろうとしている女性には、ソーンリヴの言わんとしていることが理解できているようであった。
「だとしたら、少しばかり恥ずかしいですね」
言葉どおり、僅かに頬を上気させてソーンリヴが応じる。
「そうかしら?そんな貴女だからこそ、私はお話したいと思ったのだもの。
“あの子”を含めた私たちの過去を、ね」
ハーベラ・クレルミロン……旧姓ハーベラ・アペンツェルは、我が子たちに質問攻めにさせている真っ最中であろう、異世界人の男の姿を思い浮かべて、一つ笑いを漏らすと話し始めた。
異世界の日本という国から、アルタスリーア王国にやって来た安来修一郎が、アペンツェル夫妻に拾われて一年半が過ぎようとしていた。
それまでは、殆どと言って良いほど通じない言葉に四苦八苦しながらの旅であった。
ハーベラやパルメルが身振り手振りで、何とか簡単なコミュニケーションを取ることが可能といった状態が数ヶ月続いた。
ハーベラの夫であるコタールも、どうやら修一郎が本物の異世界人であると結論付けたようで、都市から都市への移動の最中など手の空いた時間を使って、少しずつこの世界の言葉を教えるようになっていた。
コタールは、人間族、獣人族、妖精族合わせて総勢二十人を超える隊商の隊長だった。
隊商とは、アルベロテス大陸中を旅し、その土地その土地で商品の仕入れや販売を行う、旅商人の集団だ。
それまではバンルーガ王国やルザル王国まで足を伸ばすこともあったが、ハーベラが四人目を身篭ってからは、アルタスリーア国内の比較的大きな都市を主な商圏と定めたようであった。
後々判明することであったが、修一郎が現れた場所は、アルタスリーア王国の王都であるアーオノシュとその南に位置する漁業の街スァバーを結ぶ公路の途中であったらしい。
王都で日用品や衣服に用いる麻や木綿の生地などを仕入れ、スァバーでそれらを売り、そこで得た資金を元手にスァバー特産の魚の干物をはじめとする海産加工品を仕入れて、王都へ戻る最中に修一郎に出くわしたとのことであった。
ともあれ、ハーベラが無事四人目の子供を出産し、修一郎が片言ながら何とか簡単な会話が出来るようになった頃、コタールは一度隊商を解散させ、アーオノシュに借りた一軒家にハーベラを住まわせるように手配した。
さすがに乳飲み子を連れての旅は、子供にも母親にも多大な負担をかけることになる。
十四歳になった次男のカーロンと十三歳の長女パルメルに、母親のハーベラと生後二ヶ月の三男ランシュ、それに加えて異世界人の修一郎を託し、コタールは十七歳の長男セギュールを連れて行商を再開した。
当時、コタールはセギュールを自分の跡継ぎにしようと考えており、セギュール本人も父親の跡を継ぐつもりであったからだ。
修一郎は、子供たちが愛読していた御伽噺や寓話の本を教材として、そしてカーロンやパルメルを教師として、大陸公用語を学んでいった。
コタールは一ヶ月から二ヶ月に一度は王都に戻り、妻や子の近況や修一郎の様子を把握するように努めていた。
「シュウイチロウ、どうだ?こちらの世界の言葉は覚えたか?」
コタールが戻る度に投げ掛けられている何度目かの公用語での質問に、修一郎も同じく公用語で答える。
「はい。とりあえず会話は問題ないと思います。
ですが、読み書きはまだ不安が残ります」
カーロンが言う。
「うん。シュウイチロウが言うとおり、日常会話は大丈夫だと思う。
文字の読み書きについても、俺と同じくらいには出来るようになったから、そこまで心配しなくてもいいんじゃないか」
「さすがに公の文書のような“お堅い”言葉遣いは、まだまだだけどね。
ねえ、父さん。今度、シュウイチロウに大人が読むような本を買ってあげて?
私たちが持っていた本は、どれも完璧に読めるようにはなったから」
カーロンの言葉を補足しながらも、もう一人の教師役パルメルが父に強請る。
カーロンも勉強は嫌いではないのだが、どちらかと言うと体を動かすことを好み、修一郎の語学習得状況を正確に理解しているのは、パルメルのようであった。
「そうは言うがね、パルメル。本はなかなかに馬鹿にならない値段がするんだぞ?
おいそれと買えるようなものでは……」
「でも、もしシュウイチロウがこの世界で生きて行かなくちゃならないなら、いつかは必要になるわ。
公用語の文字が完全に習得できたなら、父さんの仕事だって手伝えることも出来るんだし」
渋るコタールにパルメルが畳み掛けるように言い、ハーベラが笑いを含んだ声で追い討ちをかける。
「いいじゃないの、あなた。パルメルは将来、魔法院で働きたいと言っているし、何もシュウイチロウだけが使うわけでもないもの。
それに、もしかしたらこの子も勉学の道を選ぶかも知れない。そう思えば、高い出費ではないでしょう?」
胸の前に来るように位置を合わせた抱き紐の中で眠る、一歳半のランシュを見つめながら、四児の母であり行商人の妻でもある女性が柔らかな笑みを浮かべた。
「分かった、分かったよ。まったく、お前たちはシュウイチロウに甘いな。
その代わり、文字の読み書きを習得したら、俺の仕事を手伝わせるからな?」
前半は妻子に向けて呆れたように、後半は修一郎に向けて投げ遣り気味に、コタールが応じる。
口では何だかんだと言うものの、結局のところ妻子には敵わない夫であった。
加えて、異世界人ながらもコタールの留守の間、子供たちと共に家を守ってくれている修一郎に対し、多少なりの信頼或いは感謝の念が芽生えているのかも知れない。
「シュウイチロウは事務の経験があるんだろ?だったら、俺としても手伝ってもらえると嬉しいな。
取引は俺と父さんが担当して、商品の在庫や売り上げ管理なんかをシュウイチロウに担当してもらえれば、かなり楽できそうだ」
事の成り行きを面白そうに黙って眺めていたセギュールが、父親が折れたのを見計らって発言する。
セギュールはセギュールなりに、修一郎を様々な面で観察し、会話から彼の性格や知識を聞き出すなどして、この異世界人を信用することにしたようであった。
実際、この世界に於いては商人や学者でもない限り、加法・減法はともかくとして、二桁以上の乗法・除法を理解して扱うことができる者は稀である。
修一郎があちらの世界で就いていたと言う、数字を扱う仕事が役に立つかも知れないのだ。
「俺が明日にでも街で見繕って買ってくるよ。シュウイチロウやパルメルに有用な本をね」
そう言い残して、セギュールは自分に割り当てられた部屋へと消えていった。
長男の背中を見送ったコタールは修一郎に視線を移すと、苦笑に似た表情を浮かべ、極々簡素な家族会議の結果を異世界人の男に告げる。
「そういう訳だ、シュウイチロウ。一日も早く、頑張って言葉を覚えてくれよ。
お前の世界にあるのかは知らないが、こちらの世界には“受けた恩を返さない者は一生半人前”という諺があるんだ。
それに、俺は商人だ。投資したカネは、利息を付けて回収するのが当たり前の仕事をしている。
俺に拾われたことを幸運と取るか不幸と取るかはお前次第だが、異世界人のお前に対しても俺は商人として接するつもりだからな」
「はい。それは理解しています。
少なくとも、受けた恩を仇で返すような真似はしません。安心……じゃないな、ええと、信じてください」
いたって真面目な面持ちで返事をする修一郎に、パルメルが笑いながら小さな訂正をする。
「シュウイチロウ、惜しいけどちょっと違うわ。そういう時は『心配は要らない』と言うべきよ」
「そうでした」
尚も真剣な表情を崩さない異世界人の態度に、ついに耐えかねたのかハーベラが声を立てて笑った。
それに釣られるように、カーロンが、次いで指摘した本人のパルメルが笑い出し、状況を理解していないランシュまでもがハーベラの腕の中で無邪気な笑い声を上げている。
行商人の一家に転がり込んできた、青年というにはやや薹が立っている男の、王都での生活はこの後一年半続いた。
末っ子のランシュが三歳になると、アペンツェル一家は再び全員で行商を再開することとなった。
修一郎がこの世界にやって来て、四年目の春の二の月のことである。
この頃になると、修一郎もこの世界……と言うよりこの大陸の公用語の会話や読み書きはほぼ完璧にこなせるようになっており、日常生活には何ら支障をきたさない程度には慣習や文化も理解していた。
だが、それに伴って、修一郎はどことなく投げ遣りな態度を時折り見せるようになり、それを目にしたコタールとハーベラは、一抹の不安を感じていることも確かであった。
この世界の言葉を解し、文化や歴史を知るにつれ、修一郎の中に「もう元の世界には戻れないのではないか」という、恐怖を伴った諦観が根を張っていったようだ。
どういった理由でこちらの世界に来る破目になったのかは、分からない。
だが、コタールや王都で知り合った人々に尋ねるうちに、異世界人は自分だけではないことが判明した。
この国に限って言えば、過去にも数人の異世界人が存在していたという記録や言い伝えが残っており、それを裏付けるように、修一郎の世界の言葉の一部はこの世界でも普通に使われているのだ。
それが分かった時には、修一郎は希望を抱いたのだが、記録や言い伝えの最後は、必ず“その異世界人はこの国で一生を終えた”という言葉で締め括られており、一瞬でも喜んだ分、その事実による反動は大きかった。
この世界に来た当初は、とにかく先ずは言葉の壁を何とか乗り越えねばならず、他のことに気を回す余裕がなかったこともあって、修一郎はその日その日を懸命に過ごすことで回帰の念を抱くことは殆どなかった。
しかし、ここに至って幾らかの精神的余裕が出てきたことが、逆に修一郎を追い詰める形になっていたのだ。
無論、今もアペンツェル一家の世話になっている状況であるから、普段は温和に振舞っている修一郎であったが、ふとした弾みに、どこか一歩引いた視点で物事を判断するような態度を見せるようになっていた。
それを見かねたコタールが下した決断が、一家揃っての行商の再開であり、修一郎を旅に連れ出すことであった。
この国で生まれ育ったコタールは、異世界人についての知識をある程度なら持っているのだが、それは飽くまでもアルタスリーア国内に居た異世界人に関してのことであり、他国や他大陸での異世界人に関する知識は皆無と言って良い。
ならば、行商で立ち寄る街や国で、異世界人に関する新たな情報が得られるかも知れないというのが、コタールの目論見の一つであった。
ランシュがある程度大きくなるまではアルベロテス大陸を出るつもりはなかったが、いずれは他の大陸に足を伸ばしても良いとまで考えている。
それは、修一郎のためだけではなく、コタールの商売の発展にも繋がることであったため、ハーベラやセギュールも、コタールの考えに賛成してくれていた。
この大陸を巡り、他大陸でも情報を収集することで、修一郎の心境に少しでも変化をもたらすことが出来れば良い。それが、希望であっても、諦念であっても。
そこから先は、修一郎本人が決めることであり、コタールもハーベラも口を出すつもりはない。
運命を厭うてコタールたちの前から姿を消すなら仕方ないし、この世界に骨を埋めるつもりで生きていくならそれもまた良し。その際には、多少なりの助言は出来るだろう。
それが、修一郎を拾った行商人夫妻の出した結論であった。
行商を再開したコタールは、まずはクレルミロン運送で新たに荷馬車を一台調達した。
同行する人数が増えたことにより、荷台に商品を積む余裕が少なくなったためだ。
店主のクロワバーシュは、コタールの古くからの友人で、ハーベラとも面識がある人物だった。
一台はコタールが手綱を握って家族を乗せ、もう一台はセギュールが商品を運ぶことになった。
その後、王都の商館にて隊商に参加する行商人を募り、一定数が集まった時点で、コタールは一路アーセナクトを目指した。
アーオノシュの特産となっている、これも異世界人がこの世界にもたらしたと言われている白磁の食器や、絹織物などを仕入れ、二十数名の行商人の集団が公路を進む。
「いいかね、シュウイチロウ。ここアルタスリーア王国では、政の中心はアーオノシュだが、商いの中心はアーセナクトにあるんだ。
商人や商人を目指す者なら、一度は訪れておかなければならない街と言われている。
それに、様々な地域の商人が集まる場所ならば、シュウイチロウのような異世界人に関する情報なり手がかりなりが手に入るかも知れない。
幸い、アーセナクトには腐れ縁の知り合いも居る。奴との伝を作っておけば、今後何かと便利だろう」
御者台に並んで座る修一郎にコタールは馬車の手綱を渡し、自分はのんびりと前方を見据えたまま話している。
アーオノシュと各主要都市を結ぶ公路は、国内に張り巡らされた多数の公路の中でも人通りの多い公路であることから、定期的に騎士団が巡視を行っているため、治安は良いと言える。
特に、アーオノシュとアーセナクトの間にある公路は、最も交通量が多く、最も安全な公路として知られており、魔獣や野盗といった外的脅威とは縁遠い道であった。
無論、公路から少しでも外れればその限りではないのだが、未だ陽が天高くある今の時間帯の公路を進む隊商には、穏やかな空気が流れている。
馬の蹄鉄が路面を叩く小気味良い音に、馬車の車輪がたてる重く低い音、荷台で笑い声を上げるランシュとその兄弟たちの会話に、隊商に参加している他の行商人たちの会話。
空には雲雀に良く似た小鳥が数羽、これまた雲雀に良く似た声で囀っている。
「アーセナクトに着いたら、お前にも商売の手伝いをしてもらうつもりだ。
だが、仕事の合間は好きにしていい。市庁舎を訪ねるなり、魔法院で過去の記録を閲覧させてもらうなり、自分のことに時間を使いなさい。
もちろん、仕事を覚えるつもりがあるなら、俺がみっちり叩き込んでやってもいいがね」
何か面白いことでもあったのか、荷台の中で笑い転げているカーロンとランシュ、ハーベラにすがるようにして兄弟を睨んでいるパルメルを見遣って、コタールが続ける。
「お前の境遇に同情することは出来るが、手助けしてやれることとなるとそれほどあるわけでもない。
精々が、俺の持っている知識と人脈をお前に分けてやる程度だ。そこからどうするかはお前が決めることだからな。
まあ、それが分からないほど子供でもないのだから、これは言うまでもないことか」
「…………はい」
修一郎は前方に伸びる公路に目を向けたまま、一言だけ口にした。
「このまま行けば、陽が沈む前にアーセナクトに到着するはずだ。
隊列の先頭をセギュールに交代させるから、馬車を二番手に下がらせなさい。
俺はその間、少し休ませてもらう。シュウイチロウも疲れたら、カーロンに変わらせるから遠慮なく言うんだぞ」
コタールはそう言うと、御者台から危なげなく立ち上がり、後方に付いて来ていたセギュールが操る馬車に向けて声を上げた。
すぐさまセギュールと、コタールと昔から付き合いのある行商人の犬人族の二人が乗った荷馬車が、修一郎の操る馬車を追い越して前に出る。
馬車の速度を調節しながら、異世界人の男は何やら考え込んでいるようであった。
そんな修一郎を他所に、そのまま隊列は何の問題もなく進み、やがて一行はアーセナクトに到着した。
談話室が濃いオレンジ色に染まっている。
紅茶の香りと、いくつかの鉢植えが咲かせている花の香りが渾然となって室内を満たし、歳の離れた二人の女性を包み込んでいた。
昼というには遅く、夜になるにはもう暫くはかかる時間である。
思い出話を途中で止めたこの屋敷の女主は椅子から立ち上がると、軽く伸びをして、話し相手である年下の女性に向き直る。
「そんな感じでね?シュウイチロウも一時期は、何というか、少し投げ遣り気味なときもあったのよ。
今の“あの子”からは想像できないかも知れないけれど」
ハーベラが小さく笑うと、ソーンリヴは素直な感想を口にした。
「そうですね……。確かに、今のあいつとはすぐには結びつきません。
ですが、もし私があいつの立場になった場合を想像すると、同じような態度を取らないとは言い切れません」
「そうねぇ。私だってたった一人で全く知らない世界に放り出されたら、どうなるか分からないわ。
それは大抵のヒトに言えることでしょうね」
ハーベラも、修一郎の立場を自分に置き換えて想像したことはあるのだろう、自然な口調で応える。
その世界で生きてきた時間が長ければ長いほど、何らかの柵がヒトには付き纏う。
家族であったり、友人であったり、恋人であったり、そういった人間関係だけに留まらず、生活基盤や社会的地位なども含まれるだろう。
それらが何の前触れも、容赦も、本人の意思すらも関係なく、強引に断ち切られ、知らない世界に放り出されるのだ。
それで何の思いも抱かないほうがどうかしている。
「ですが、シュウイチロウはそれを乗り越えたのでしょう?だから、今のあいつがある」
「うーん……。乗り越えた……のかしらね?正直なところ、まだ私も確信は持ててないのよー」
どこか無理矢理おどけたような口調で、ハーベラは自信がないと告げた。
でも……と、続ける。
「“あの子”がここに来たってことは、そういった一切のことを乗り越えた……いいえ、少なくとも飲み込んだからだと思いたいのだけれどね」
ポットの紅茶がなくなっていたため、部屋の外に待機していた老執事に新たな紅茶を持ってくるように命じると、ハーベラは再びソーンリヴと向き合うように椅子に座った。
言い訳は活動報告にて。
とりあえず、更新が遅れてすみません……。