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街の事務員の日常  作者: 滝田TE
街の事務員の日常
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第十四話 王都


 王城の大鐘が四つ鳴り響き終えた頃、修一郎たちを乗せた路線馬車は、アーオノシュに到着した。

 辺りは既に薄暗くなってきていたが、人通りはアーセナクト中央広場の昼間よりも遥かに多い。

 大きな篭を背負ってどこかへ向かう中年の人間族の女性や、板金鎧に身を固めた数人の騎士、大きな荷物を括りつけた馬を引っ張っていく犬人族の商人、冒険者風の出で立ちのグループなど、様々な人々が修一郎の目の前を通り過ぎていく。

 修一郎には懐かしい光景に思えたが、王都を訪れたのは初めてだというソーンリヴは、率直に感想を口にした。


「やはり、王都だけあってアーセナクトとは比べるべくもないな……」


 王都を囲む城壁を潜ってすぐの場所に設置されている、路線馬車停留所周辺でもこの人通りである。

 商店や酒場などが集まる地区の人通りは、如何ばかりのものか想像もつかない。

 周囲の建物は白壁で統一され、大通りの路面もアーセナクトのような石畳ではなく、白っぽいレンガが敷き詰められている。

 その大通りの広さは、アーセナクトの優に三倍はあろうか。

 そして王都の中心部には、アルタスリーア国王の居城であるアーステルア城が、その白い威容を誇っていた。

 他国の者から“白き王都”と呼ばれる所以である。


「では、ソーンリヴさん。とりあえず宿を探しましょう」


 馬車に乗り合わせた二人の男性客に、軽く別れの挨拶を告げると、地面に置いた荷物を持って修一郎は歩き出した。

 何度か王都を訪れているだけあって、修一郎の歩みには迷いがない。大方、宿の目星も付いているのだろう。

 明日以降の宿泊先は、ブルソーが確保してくれているはずなので、今夜の一泊だけ自力で探さねばならなかった。

 じきに夜になろうという時間であるのに、術石を利用した街路灯が等間隔に設置された大通りを歩く人の数はいっこうに減ることもなく、店も煌々とした明かりを灯している。

 市庁舎を中心に放射状に延びるアーセナクトの大通りとは違い、王都の大通りは所謂碁盤の目のように幾本もの大通りが交差し、さらにそこから小路が延びている。

 そこかしこの小路から、店から、人が現れては消えていき、多種多様な種族が入り乱れる様は、ソーンリヴには、まるで祭りの日のように感じられた。

 そんな中を歩くのだから、ソーンリヴは修一郎を見失わないように付いて行くのが精一杯で、周囲をじっくり観察する暇もない。

 もし、先を歩く修一郎が時たま振り返りつつ、ソーンリヴが付いて来られるように歩調を合わせてくれなければ、この人通りの中、迷っていたかも知れないくらいであった。




 アーセナクトの食堂通りにあたる“歓楽街”を抜け、酒場や食堂の喧騒が薄れてきた場所に、修一郎の目指す宿はあった。

 人間族の老夫婦が営んでいるその宿は、その主の容貌に似て古びていたが、どこか落ち着ける雰囲気が全体を包んでいた。

 木造三階建ての建物には、看板らしきものもなく、入口も通りから見ただけでは、中を窺えない造りになっている。

 老夫婦は修一郎を覚えていたようで、深い皺が刻まれた顔を更に皺だらけにしながら、二人を歓迎してくれた。

 この宿もセボにあった宿と同じく、一階が食堂、二~三階が客室となっており、一泊の料金には、夕食と翌日の朝食代も含まれていた。

 一人部屋を二つ確保して荷物を置くと、二人は一階の食堂で夕食を摂ることにした。修一郎が強く勧めたためである。


「プレルさんのところとは違った良さがあって、私は気に入ってるんです。

 それに、ソーンリヴさんには是非試していただきたいモノもありますしね」


 ソーンリヴの背中を押すようにして食堂のテーブルにつかせると、修一郎は宿の主である老人に、毎日通っている者のような口調で注文する。


「バラカさん、以前いただいたアレを二つお願いします。

 食事は今日のお奨めを二人前で。あと、ツマミを適当に二品ほど」


「はいよ。どうするね?アレは温めるかい?」


「いえ、彼女は初めてでしょうから、まずはそのままで。私も同じでいいですよ」


「そうかい。じゃあツマミもアレに合わせたものがええかの」


「そうですね」


 相手の老人も慣れたものであるのか、矢鱈と指示語が多い会話なのに、会話は成り立っていた。


「シュウイチロウ、アレとは何だ」


 注文が一通り終わり、向かいに座る修一郎が口を閉ざした頃合を見計らって、ソーンリヴが訊ねる。


「先ほど言った、ソーンリヴさんに試していただきたいモノですよ。気に入ってもらえると良いのですが」


 詳しく話さないのは、実際にそのモノが来てから自分で確かめてみろということなのだろう。


「……ふん。話すつもりがないのなら、それでも構わんが、私は気に入らなければ率直に言うぞ?

 飲み物を頼んでいないようだから、恐らくアレとは飲み物なのだろうがな」


「その時は、改めてソーンリヴさんの好きなものを注文してください。確かに好みが分かれるものではありますから」


 修一郎が言い終わるのを待っていたかのように、バラカと呼ばれた宿の主が、盆に何やら器を載せてやって来る。


「ほいよ。お主に聞いたとおりにしてみたら、常連にえらく受けてな。

 今じゃこれがお決まりの器になってしもうたぞ」


 そう言って、テーブルに置かれた容器は木製の四角形をしていた。

 材質は杉だろうか?木の柾目を巧く活かして組まれているようだ。容器の中にはやや黄色味のある透明な液体が満たされ、隅には塩が少量盛ってある。


「マスザケは受け入れてもらえましたか。試しに言ってみた甲斐がありましたよ」


 それを見て相好を崩す修一郎に、ソーンリヴはこれが修一郎の世界のモノであると直感した。

 “マスザケ”と共に運ばれてきた皿には、乳白色のどろりとした塊に黒い液体がかけられたものが盛られている。


「おまけにユバまで。ツマミとしては申し分ないですね」


 メガネが出来上がった時よりも嬉しそうな修一郎に、ソーンリヴは若干呆れながらも確認せずには居られなかった。

 “マスザケ”とやらはいいとして、“ユバ”と呼ばれたこの物体は、どう見ても何かの出来損ないのようにしか見えない。


「おい、シュウイチロウ。いい加減教えてくれてもいいだろう」


 今はメガネをかけていないせいか、以前のように眉を寄せながら異世界人の男を見るソーンリヴの視線は、睨んでいると言っても良いくらいである。


「まあまあ。まずは乾杯といきましょう、ソーンリヴさん」


 なみなみと注がれた液体の入った木製の容器をゆっくりと持ち上げながら、修一郎は相変わらず嬉しそうな表情のままだ。


「……飲めばいいんだろう。飲めば」


 にこにことご満悦の後輩事務員に嘆息しながら、ソーンリヴもそれに倣う。

 中の液体を零さないように、互いの容器をゆっくりと、そして軽く合わせて、ソーンリヴはそれに口を付けた。

 含んだ瞬間は水かと思えたが、すぐに口腔内に果物のような香りと仄かな甘さが広がる。

 酒精の類であることは確かだが、ブドウ酒よりはきつく、バンルーガ王国のウトカと呼ばれる火酒ほどきつくはないくらいか。むしろ、最初の口当たりの良さからブドウ酒よりも飲み易く感じる。

 後口も何時の間にか消え去っていて、酒精特有の喉を焼く感覚と鼻腔に残る香りがなければ、本当に水ではないかと勘違いしてしまいそうだ。

 容器に使われている木は、やはり杉であったようで、杉の香りもこの液体の美味さを引き立てているようである。


「美味い……」


 酒気を伴った甘心の吐息と共に、ソーンリヴがその一言だけを口にした。


「気に入ってもらえたようで何よりです。

 これは“サケ”と言います。正確には“ニホンシュ”ですが。

 私の生まれた国で作られている、コメを原料とした“酒”です。

 こちらの世界でも酒精を含んだ飲料全般を“酒”と呼んでいるのには驚きましたが、私の国で“酒”と言うと、大抵この飲み物を指します」


 嬉しそうに説明する修一郎も升酒を一口飲み、美味いと呟くと、次はそちらの“ユバ”を試してみてください、と勧める。

 言われるがままに、ソーンリヴは木のスプーンで湯葉を掬い、口に入れた。


「かかっているソースは独特の風味があるが、悪くはないな。

 この“ユバ”とやらは、大豆の味が濃いのにあっさりしていていい」


 恐る恐るといった感じで、それを口に入れたソーンリヴだが、香ばしさを伴った、塩味と言うには複雑な味のするソースと、湯葉の大豆の旨味が口の中で混ざり合い、渾然一体となる。

 引きあげ湯葉自体に歯ごたえはないに等しいが、逆に、このとろりとした食感が堪らない。


「これも私の生まれた国で作られていたものです。ソーンリヴさんの言うとおり大豆を原料としています。

 かかっているソースは“ショウユ”と言います。これも同じく大豆が原料ですよ。

 私の国では、最も多く使われていた調味料の一つですね。

 ユバを食べた後、サケを飲んでみてください。ユバの味を何倍も楽しめると思います」


 日本酒と湯葉に心を奪われたソーンリヴは、修一郎の勧めるとおりに湯葉をもう一度口に入れて咀嚼すると、サケを口に含む。


「…………」


 最早、言葉を失った状態のソーンリヴに、修一郎は満足げな笑みを深くした。


「こちらも気に入ってもらえたようですね。

 自分の故郷の味を気に入ってもらえるというのは、矢張り嬉しいものです」


 修一郎は、にこやかな表情を崩さないまま説明する。

 これらは、この宿の主のバラカが若い頃に、西の大陸ラングナントで出会った異世界人から製法を教えたもらったこと、以前修一郎が王都を訪れた際に、どうせならば升酒を試してはどうかと提案したこと、日本酒好きな者は升に盛られた塩をツマミとして呑んだりもすること、サケとショウユは特別なカビを用いて発酵させて作っていることなど、一つ一つ丁寧に、そして楽しそうに話す修一郎に、ソーンリヴは呆れの成分を混ぜた笑顔で聞き入っていた。




 同僚である異世界人の話から、彼の生まれ故郷に興味を持ったソーンリヴが、あれやこれやと修一郎に質問をしながらも、宿の食事を楽しんでいると、この二日間で耳慣れた声が宿の入口から聞こえてきた。


「こんばんは。部屋は空いて……おや?あなた方は……」


 ちょうど修一郎の座っている食堂の席から入口が見通せたので、声の主はすぐに分かった。

 ソーンリヴは背中を向けた形になっていたが、聞き覚えのある声に、椅子に座ったまま身体を捻って後ろを向く。


「リバロさん?どうしてここに?」


 二日の間、同じ馬車に揺られていた男の一人の名前を、修一郎が呼んだ。


「いやあ、ちょっと妻と喧嘩してしまいましてね……」


 決まり悪そうな苦笑いを浮かべながら、リバロという名の人間族の中年男が食堂に入ってくる。

 客の応対をすべく近寄ってきたバラカには脇目も振れず、まっすぐこちらに近づいてくるリバロに、修一郎はあることを確信したようであったが、それを表には出さずに応対した。


「王都に戻ったら真っ先に奥さんに顔を見せると仰っていたのに。何か問題でもあったのですか?」


 お食事中のところすみませんな、と言いつつも隣のテーブルにつくリバロは、肩に担いでいた荷物を床に置いて、表情を変えないまま言葉を続ける。


「勿論、あれからすぐに家に戻ったのですがね。

 どうも妻に言わせると、アーセナクトで二日間も何をしていたんだ、と。

 出掛ける前に、ちゃんと向こうに二日滞在すると言っていたのですが……」


 リバロの口調から察するに、どうやら彼の妻は、夫がアーセナクトで浮気をしていたのではないかと疑っているようであった。

 馬車の中で交わされた会話から、リバロは結婚してまだ一年経っていないとのことで、今回のアーセナクト行きについても、彼の親友が自分の店を持った祝いに出向いたためだと聞いている。

 新婚と言えなくもない状況で、妻を残して一週間以上家を空けたのだから、浮気を疑われても仕方ないのかも知れない。


「まあ、明日にでもなればアイツの頭も少しは冷えるでしょうから、今日一晩だけどこかで過ごそうと思いましてね。

 それで、適当に宿を探していたのですが、目ぼしい宿は全て満室でして……。

 途方に暮れていたところに、この宿の噂を思い出した、という次第です」


 確かに、バラカの営む宿は、落ち着いた雰囲気と出される食事の質の高さから、王都でも知る人ぞ知ると言われてもおかしくない宿ではあるので、この都市に住む者なら名前くらい知っている者も居るだろう。

 バラカも看板を出していないだけで、来る客を選ぶような真似は余程のことがない限りしないため、宿の場所が分かるのであれば、宿泊が可能かどうか確認くらいはしようと思ってもおかしくない。

 ここにやって来た理由を説明し終わると、リバロは漸くバラカに向かって宿泊の手続きを始めた。


「さて、これでやっと寝床も確保できたことだし、私も荷物を置いて食事にしますかね。

 では、ヤスキさん、また後ほど」


 宿帳に記入し、一泊分の料金を支払うと、そういい残して、リバロは二階の客室へ続く階段を荷物を担いで上がっていった。




「……やれやれ。どこの誰が雇ったのかは知りませんが、もっと芝居の巧い人物を寄越せばいいものを」


 リバロの姿が完全に見えなくなってから、修一郎は大きくため息を吐いた。


「ふん……。お前もさすがに気付いていたか」


 バラカに新たな升酒を注文しながら、ソーンリヴが口の片端を持ち上げて笑う。

 だが、顔では笑っているものの、その目は剣呑な光を湛えていた。

 この女性ひとは、こういった表情が似合うな、と心の中で苦笑しながら、修一郎が応える。


「いくらなんでもあからさま過ぎますよ。

 馬車の中でも、訊ねてくるのは私に関することが殆どでしたしね。今も、ソーンリヴさんには目もくれてなかったじゃないですか。

 それに、いくら喧嘩して家を追い出されたとは言え、荷物がそのままというのもおかしなものです。

 更に言うなら、あの人は宿に入ってくる前に中を確認してから声を掛けて来ましたから」


「ついでに言うなら、もう一人の厳ついほうの乗客も怪しいものだったがな。

 何気ない振りを装って、確りと私たちの会話は聞いていたようだぞ」


 商人であれば、どこに金儲けのネタがあるかも知れないので、他人の会話に気を配るのは当たり前である。

 しかし、ソーンリヴが言ったもう一人の乗客は、王都周辺で土木作業に従事していると言っていた。

 この怜悧な上司の言うことが本当であれば、情報収集担当がリバロ、もし何かあった時の荒事担当が、その男といったところだろう。

 それに気付いていたのか、馬車の中で修一郎とソーンリヴが交わした会話は、本当に日常の雑談程度に止めていた。

 二人が王都に向かう理由は、それに気付く前であったので、迂闊にも修一郎が漏らしてしまったが、もしかすると、今回の支店の事務員が倒れたこともこれに関係しているのかも知れない。

 だとすれば、こちらの事情は、誰かは分からぬ“相手”に、ほぼ完全に把握されているか、最悪その“相手”の仕組んだとおりに事が運んでいるのだろう。


「とりあえず、ブルソーさんには、このことを伝えておいたほうがいいでしょうね。

 いきなり実力行使に及ぶとは思えませんが、支店の事務員の件もあります。用心に越したことはないでしょう」


「そうだな。

 ところで、厄介ごとに巻き込まれるであろう私に、謝罪の言葉はないのか?」


 運ばれてきた升酒に口を付けながら、ソーンリヴはからかうような表情を浮かべている。

 本心から迷惑がっているわけではないのを分かっているのか、修一郎はいつもの頼りなさげな顔で、


「事態の推移を面白がっている上司に謝ろうという気は、なかなか起きないものですよ。

 下手をすると、私たちだけではなく、マリボー商店全体に関わってくる可能性がありますから。

 謝るとしたら、ソーンリヴさんだけではなく店の皆全員になるやも知れません。

 はぁ……。少し大っぴらに動きすぎましたかねぇ……」


 と、収まりの悪い頭を掻いた。


 アーセナクトに住むようになってから、ライターやメガネ、それらに関するアイデアと技術を、修一郎は然程隠すでもなく他人に伝え、それをもってマリボー商店やレベックの工房などに利益をもたらしている。

 細かく言えば、プレルの食堂のメニューに採用された修一郎の世界の料理は、サンドイッチだけではないし、風呂や台所の新たな様式もコスラボリやクータンたち職人の知るところとなっているのだ。

 国は、異世界人である修一郎の動向を監視してはいるだろうが、国や民に害を為すような真似をしなければ、動くことはない。

 その辺りに関しては、大陸憲章に何やら書かれているらしいのだが、詳しい内容を修一郎は知らなかった。

 ただ、余程のことをしない限り、国という巨大な組織からの干渉を受けないことだけは判明したので、それ以上細かく調べるつもりもなかったのだ。

 この世界にとって、異世界人は珍しいものの、類を見ないとまでは行かない程度には認知されているため、普通に暮らすことが出来ればそれでいいと、修一郎は割り切っている。

 ただ、国としてはそうであっても、その下の貴族や一般市民にとっては、修一郎は稀有な存在であり、何らかの益を生み出す金の卵と見られる可能性がある。

 貴族は国の一部を担う立場であるため、軽率な行動に出ることはないだろうが、怖いのは一般市民……特に、同業者の嫉みや恨みを買うことだ。

 いずこの世界に限らず、既得権益を脅かす存在は疎まれるものである。

 今回の騒動が、それに当たるのではないかと、修一郎は心配しているのであった。


「それに関しては、我々が思い悩んでもどうにもならんだろう。大本を探るのは、マリボーさんに任せたほうが良さそうだな。

 シュウイチロウ、明日にでもブルソーと一緒に、伝達板で我らが雇い主に連絡しておけ」


「分かりました。確かに私たちが今すべきことは、支店の事務を滞りなく進めることですからね」


 思いもかけない展開に、折角の美味い“サケ”と食事が中断されてしまったが、修一郎たちの本来の目的は支店の臨時応援である。

 遊び気分で来たわけではないが、これから約三週間、何事も起こらねば良いと願わずには居られない修一郎だった。


 修一郎の向かいに座るソーンリヴは、三杯目となる升酒と二皿目の湯葉を注文し、升に残っていた酒を一気に呷ると宿の入口に目を向けた。

 ここから通りを見ることは出来ないが、微かに歓楽街の喧騒が流れ込んできているのは聞き取れる。

 王都アーオノシュの夜は始まったばかりで、おそらく日付が変わっても、歓楽街は眠ることはないだろう。

 初めて訪れた街であったが、そこに暮らす人々はアーセナクトと変わることなく、様々な感情を持ち、それぞれが日々の生活を送っている。

 暫くの間、ここで生活することになるが、この街が好きになれるかどうか、此度の事態を含めて見極めようとソーンリヴは考えていた。



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