星の数
いくつか理由を見つけて拾って、道を振り返る。
僕が通った道はとても暗くて、振り返ることはできても帰ることはできない。
頼りになる明かりは両手いっぱいに持った、今にも零れそうな星だけ。
――僕はどうやってここまで歩いて来たんだっけ?
冷たくなった手を温めてくれる人ももういなくて、僕はもうこれから先ずっと独りなんだ。
足も冷たいし、ボロボロで、僕はいったいどこまで歩いて行けばいいんだろう。
少なくとも、君を諦める理由を全部拾うまでは、どこまでも行かなくちゃいけないんだ。
――僕じゃ君を幸せにしてあげられないから。
――僕じゃ君を不幸にしてしまうから。
――僕じゃ君と釣り合っていないから。
――僕は見た目も性格も格好良くないから。
――僕は優しくないから。
――僕じゃ、君を悲しませてしまうから。
全部、拾おう。
君がボロボロになる前に、僕がボロボロになったらいい。
そうすれば、僕はきっと君を忘れられるから。
そうすれば、君はきっと僕を忘れられるから。
――いたいよ。
何も言わないでよ。
僕が決めたことだ。
痛くもないし、居たくもない。そんなこと思っちゃいけない。
――君に幸せになってほしいから。
――君の笑顔を見たいから。
――君の泣き顔はもう見たくないから。
僕を失った君が泣くのなら、それで最後になればいい。
――『あなたは私が――じゃないの?』
――だよ。
だから、悲しませたくないんだよ。
出口が見える。
きっと、あそこが終わりだ。
出口の前にある星を最後に一つ拾って、終わりだ。
そっと手に取る。
その拍子に、せっかく拾った星が零れ落ちる。
散らばった星を拾おうとすると、その手を誰かが握った。
覚えのある、温かさ。
誰かが、出口にある星を指差す。
あれを拾えと言っているんだと思う。
よく見ると、僕が今まで拾ってきた星よりも大きかった。
――『それだけでいい』
誰かはそう言って消えた。
僕は大きな星を両手で拾った。
――君が好き。
気付いたら僕は泣いていた。
小さな星をいくつ集めても、その想いは消えなかった。
だから、最初に捨てた。
でも、返されてしまった。
どれだけ理由を集めても、この想いには勝てないのだと君に言い返されたみたいだ。
好きなら諦める理由にしてはいけない、そう言っているらしい。
僕はすぐ目の前の出口を、その星だけ持って出た。
『私のことは、あなたが幸せにして』