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家事、そして……

今作は百合宮桜が執筆いたしました。

 買い物から戻ってきた二人には更なる仕事が待っていたが、その前に試練が待っていた。買い物に行く前に作っておいたホットケーキのもとが先輩ことリーナの手により恐るべきものに変えられていたのだった。

 それを彼女の後輩であるラグナの度重なる気絶と長年の勘で察していたエレーナは見た目はマトモそうなリーナのお菓子を食べる前にある提案をした。

「禾槻さん、これをどうぞ」

「何、これ?」

 不思議そうに禾槻は見る。一見すると蜜のようなものだが違う気もする。

「一族に伝わる甘い蜜です、パンのようなあまり味のしないものにつけて食べるのでホットケーキにも良く合いますよ」

「へ~ありがとう。使わせてもらうよ」

 爽やかな笑顔で禾槻は言う。本来、この蜜は現在でいう胃薬である。騙すのはエレーナとて心苦しいが世の中にはそうも言ってられない局面もあるのだ。そしてエレーナの機転によって二人の胃袋は事なきを得たのである。味は……エレーナ曰わく健康的だったらしい。

 二人は非常に絵になる様子でホットケーキを完食した後、更なる仕事ーー即ち家事に取りかかった。

 なぜならここには家事をするべき人間がいない。いや、いることにはいるのだがかのメイドは冷血ショタコンの異名を艦内に轟かせるだけあって、文字通り少年のそばを片時も離れようとしないのだ。

 更なる不幸は大人気ない三十路の変人貴族やら長生きなクセして無愛想で身勝手な少女やら趣味は掃除らしいが掃除より酒に飲まれて床を汚すことの多いダメ人間やらがいるのもこの原因の一つである。

 そして何よりもこの二人がなんだかんだと言いながらも面倒見がよく、世話焼きなのが彼らの労働状況を悪化させていると言える。 そういうわけで二人は買い物という重労働の直後であるにもかかわらず、家事という重労働の追い討ちをかけられているのであった。全くをもって、情けも何もない話である。

「僕は掃除をするからエレーナさんはいつも通り……」

「はい、お洗濯とお夕飯の支度ですね」

 わかってますよ、と言わんばかりの笑顔である。それじゃあと分かれる息のぴったりさは熟年夫婦と言っても過言ではない。

 二人が掃除や炊事を終わらせ、さらには片付けと明日の朝ご飯の下拵えまで終えた頃には日は暮れ、辺りは闇に包まれていた。これは別に特殊なわけではない。二人がすべての労働を終え、一息つこうとすると変人研究者以外は皆、床についてしまうのである。

 如何に彼らの労働状況が過酷なものかがわかる良い事例であるが、彼らにとってはこれが「普通」らしい。よって改善などは無理である。








 エレーナは自室で星を眺めていた。彼女はこうして静かに何もせずに星を眺めるのが大好きだ。

 コンコンとノック音がした。

「開いてますよ」

 穏やかな声でエレーナは言う。

「突然、ごめんね。もう寝るとこ?」

 入ってきたのは禾槻だった。

「いえ……星を見ていましたの」

 うっとりとした声で言う、エレーナ。

「思い出があるの?」

「そう……ですね。ルイさんのお話をしたでしょう。彼が好きだったんです」

「……ごめんね」

「話題をふったのは私ですから。それより私に用事があったのではないのですか?」

「そうだね、そうだった。長くなるからホットミルクでもどう?」

「ありがとうございます」

 ふわりと微笑むエレーナ。禾槻が毎日家事という名の重労働をしているのはこの笑顔のためでもあった。彼女のお礼が欲しくないと言ったら嘘になる。禾槻は頬が少し熱を持つのを感じる。こんな時ばかりは顔色がわかりにくい褐色の肌に感謝した。

「今から話すことは内緒にしといてね?」

 唇に人差し指をあてながら、禾槻は言う。エレーナは静かに頷いた。

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