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深淵の宴  作者: 謎村ノン


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3/12

3.都市

 僕たち仲間(パーティー)は、『都市(ザ・シティー)』という『場』の一角にやって来た。

 『都市』は光と『構造体』で作られた巨大な『場』の『複合体コンプレックス』だ。

 オジサンの『場所(アドレス)』は、様々な建物を模した『場』がある所だった。

「ふむ、二十一世紀のいくつかの都市合わせて、上下に引き延ばして設計されたそうですよ」

 興味深く『看板(ヘルプ)』を『読んで』いた八神が言う。

「へぇ。こんな所が『実装空間』にあったんだねーっ」

 ヒカルだけが感心したように言う。アイリーンは首を振った。

「せっかく『見晴らしが良い』処にこんなものを作るなんて、信じられませんわ」

「うん、そうかも。僕も『都市』のこんな奥まで来たのは初めてだけど、なんか凄いね」

 何も『構造体』がない標準(デフォルト)の『実装空間』の眺望に慣れている僕たちにとって、『都市』はとてもムダが多い場所のように感じられるのだ。

 しかしオジサンの所在を突き止めるのは問題無かった。

「ほーい、こっちだよーん」

 加藤の指示に従って建物の『場』をすり抜けて行くと、一軒の『家』があった。

 僕は『図書館(ライブラリー)』と『接続(リンク)』して、『家』のデザインについて『読んだ』。

 それによると、極めて古典的な型式の日本家屋だった。けど、数百年前の東京都民が見たら、その物理的敷地面積に驚くはずだ。プールやテニスコートと、鯉の『実存体エージェント』まで泳ぐ日本庭園までセットになった一戸建ての邸宅なのだ。

 もっとも『ここ』では物理的な広さは、ほとんど意味が無い。そもそも何故『家』なるものが必要なのか、僕にはよく分からない。『家』のように形状が決まっている『構造体』は、『図書館』にある『構造(データ)』を『参照(コピー)』して『創る(クリエイト)』すれば一『単位秒』もしないうちに現れるのだから。

「やあ、こんな処に、人が来るなんて珍しいの」

 唐突にオジサンが声を掛けてきた。いつの間にか僕はオジサンのすぐ側まで来ていたのだ。

 オジサンは『実存体(エージェント)』で出来た庭木の『(コード)』を整形していたようだった。

「あ。こ、こんにちは。ずいぶんと、その。古典的な趣味ですね」

 別に皮肉で言った訳ではない。例の『講義』の『場』といい、僕はオジサンの意匠(デザイン)が本当に新鮮に思えたのだ。

 静的な『構造体』と違って『実存体』は、自らが占める実存空間領域を『コード』に従って書き換えてゆく働きを持っている。

 『実存体』の集合を『(プロセス)』と言い、『(コード)』を自ら考えて制作することを『彫刻(イメージング)』あるいは『工作(エンジニアリング)』と言う。

 しかし、オジサンは言葉を聞く『チャンネル』しか開いていなかったせいか、僕のその『感覚(フィーリング)』を理解してくれなかった。

 オジサンは、フンと鼻を鳴らした。怒った様子は無かったが……。

「おぬしのような若けぇ者に、この『家』の良さが分かるものかね」

 言葉の意味とは違って穏やかな口調で言うと、大きな植木バサミのような『掟編集体(コード・エディタ)』を消しながら、僕の方を見つめた。

 僕は、言葉だけを使う会話に慣れていないから、ついつい正直に話してしまう。

「えーと、でもまだあなたは、この家が標準だった年代には生まれていなかったですよね?」

 オジサンは大声でがははと笑った。

「そうさな、オレは当年とって二百十八歳だ。そりゃ二十一世紀ってのは、オレが生まれるより相当に昔の時代だがな。しかし、若いの!」

 オジサンの問いかけに思わずかしこまってしまう。

「は、はい?」

「オレは『外』の方で長く暮らしてたんだ。そいつは二十一世紀の人間と同じじゃないかね?」

 僕はなんと答えたら良いのか分からなかった。

 他のみんなはどうしたのかと、思わず『視線』を周囲に向けると、皆、垣根の脇でひっそり『隠れて』いるのが分かった。僕とオジサンの会話を見守るつもりなのだろうか?

 オジサンは『講義』の時と同じような口調で話し始めた。

「ホントにな、三百年前に生まれていりゃあ良かったんだがな。『ここ』がいつもいる住所(アドレス)になってから何度そう思ったことか」

 僕はこくこくと頷いてみせる。

「君、フロンティア精神という言葉を知ってるかね?」

「は、はい。言葉は知ってます、けど」

「そう、二十一世紀というのはなあ、本当に素晴らしい時代だったんじゃよ。そうさなあ、子供がようやく物心がついて周りの世界を知り始めて、これからどうなるんだろう、とワクワクしていた……そんな時代じゃった」

「はあ」

 僕の返事に、うおぉっほん、とオジサンは咳払いしてみせた。

「目ン玉が、歴史上で一番『外』に向いていた時代だったんじゃ。宇宙へ海洋、そしてナノ世界から高次元宇宙までな。そうさな。君、この作家を知ってるかね」

 オジサンは中南米系と思われる作家の名前を告げた。僕は知らないと答えた。

「まあいい。この作家が書いた二十世紀の偉大なブンガク作品にこんなフレーズがある”そして実ったのは妄想という果実だけだった”」

「は、はあ」

 どうもオジサンのペースに、はまってしまったかな、と感じる。

「そう、我々すべてが、妄想の世界の果実となって腐っておる。現実の空間に背を向けてどうなるというのだね」

 僕は、オジサンの『講義』を聞いた時から考えていたことを言ってみた。

「え、えーと。でも、人類はもともと都市を作ったりして、環境を変化させてきたじゃないですか。『外』の宇宙に進出しても、他の惑星で同じことを繰り返すだけじゃないかな。その替わりに『実装空間』の高次元宇宙へ進出したのでは?」

 オジサンは僕の方をじろりと睨んだ。僕の考えが『ここ』一般のヒトの見解だと知っていたからだろう。

「キミ、若いの! オレはまだ現実という方向から目を背けられずにいる、哀れなオイボレさな。だからオレはこの時代の人間じゃあ、ない」

 僕は、少し苛ついてきていた。こんな感情がわき起こってくるのは久しぶりだった。『ここ』では何でも可能になるから、ストレスという状態とはあまり縁がないのだ。

「でも、『実装空間』は妄想じゃありませんよ!」

 オジサンは、僕の言葉を聞くと、口元を何とも表現しようの無い感じにひきつらせた。

 まずい、怒ったのかな、と思った。しかしそれは大笑いの前兆だった。

 オジサンは、ほとんど一『単位分』くらい、ほとんど息を肺に吸い込んでないんじゃないかと思ったくらい、笑った。

 正直言って、僕は彼の『精神(スピリット)』が異常を起こしたんじゃないかと、心配になった。

 しかしオジサンは横っ腹を痛そうにさすりながら、また話し始めた。いや、もちろん『ここ』では息をする必要は無いから、オジサンは演技をしているだけなのだけど。

「いや、まいった。『ここ』は妄想の世界そのものじゃよ。少なくとも、ニセモノじゃ!」

 オジサンはそこで言葉を切って、笑うのを止めた。

「ところで、君、何しに来たのかね?」

「あ、はい。えーと、その」

 僕はオジサンの態度にすっかり取り乱していた。しどろもどろになりながら、なんとかオジサンの講義を受けてからのいきさつを説明する。

「ふむ。なるほど、オレの『講義』を聞いてくれたことに感謝するよ。オレも、まだヒトが恋しくなることがあるんでな。で、その女のことだがな」

 オジサンはあごひげをさする。僕はごくりとつばを飲み込んだ。

「オレにもわからん」

 オジサンが呟いたその時、垣根の『構造体』がばきばきと割れて、他のみんなが身体を出した。驚きの信号が伝わってくる。

「あ、破っちゃったハラホロヒレハレ」

 加藤が悪びれた風もなく頭を掻いて言う。僕は焦った。

「あ、僕の友達です。お気になさらないで」

 オジサンは八神をじっと見据えて、口元をにっと引き延ばして笑った。

「最初から気づいておったよ。防犯用『実存体』を放っておるからな、ほれ」

 オジサンが言うと、四角い長方体に短い円柱がついたような何かが、家の屋根からにゅっと突き出てきた。

「これはカメラと言って、二十世紀の映像撮影装置じゃ」

「はあ、確かに記録データで見たことがあります」

 僕は、頷いた。確かに、僕は、昔の映像『構造(データ)』領域で、オジサンのカメラに似た形状のものを見たことがある。

 みんなも珍しそうに、微妙な音をたてながら長さを変える円柱を眺めていた。

「へえ、面白い種類の『彫刻(イメージング)』をしているんですね」

 このカメラの形に創られた『実存体』は『構造(データ)』の一部に、二次元画像として『実装空間』の『形状値』を記録する働きがあると、すぐ分かった。

 僕が感心して言うと、オジサンはまたフンと鼻を鳴らした。

「君ら、若い『マスター級』とやらが『彫刻』したのと比べたら、お粗末な出来じゃろうて。しかしオレは魂を込めて創っておるからの」

「は、はあ。別に『マスター級』を認定する機関があるわけではないですよ。僕たちが勝手に名乗っているだけで。でもその……このカメラ、とても芸術的ですよ」

 『(コード)』に精通しているヒトは、相手の実力がどれくらいか分かるものだ。

 確かにオジサンの『実存体』内部の『掟』は、たとえば僕たちが創る『ゲーム』の『場』とは、それこそまったく比較出来ないくらい単純だ。しかし、先ほどの庭木の手入れといい、オジサンのような年代のヒトが、『図書館』から引き出すのでなく、『彫刻』で制作できるというのは、実はとても珍しい。

「僕なんて、こんなカメラを『彫刻』しようなんて、想像も出来ないですよ。参考になります」

 力説すると、オジサンはまんざらでもなさそうに頷いた。

「そうじゃな、そういえば。ほれ、昨日の『講義』を聞いていた女も、オレに『彫刻』のことを聞いてきたんじゃ」

「え?」

 突然話題が変わったので、僕は思わず唾を飲み込んだ。お年寄りの話を聞くのは、なんか大変だと一瞬思う。

 ちらりと皆の方を向くと、ヒカルが興味津々といった表情でオジサンの言葉を待っていた。

「オレは初めて『講義』の内容について質問を受けることになるのかと喜んだのだが。参ったものじゃ」

 オジサンは眉をしかめて口元だけ笑った。また大笑いするのかと一瞬思ったけど、それは無かった。

「君達は多分知らんだろうが、オレはこれでも昔は、ちょっとした『彫刻』の権威だったのじゃ。パイロットを辞めた後、余生のつもりで『実装空間』基部の『深淵(アビス)』制作にも関わっておったからの」

 へえ、と僕は感心した。そして、『実装空間』を最初に『創造(クリエイト)』したヒトがまだ生きているのかと驚いた。

「あの女にはな、オレが――二十世紀後半に流行したゾンビというバケモノが出る2D映画を知っているかね?」

「は、はい。ジョージ・A・ロメロ監督、ですね」

 ゾンビ……蘇った死体が襲ってくる映画を、僕はたまたま見たことがあった。

「知ってるな、よし――その、ゾンビのような怪物を『彫刻(イメージング)』して『辺境』の方へ放たなかったか、と問いつめられたんじゃ」

 ゾンビ? 僕が『実存体』として見たことがあるのはゲーム中に出てくるモンスターだけだ。しかしゲームの『場』専用のモンスターが『場』の外に出てくるということは不可能だと思うし、聞いたこともない……。

 ゴホン、とオジサンは咳ばらいをする。

「まるでな、オレをハンザイシャか何かのように扱いおった」

「ハンザイシャって何でしゅかー?」

 それまで沈黙していた加藤がおどけた口調で尋ねた。僕も聞き慣れない言葉の意味を思いだそうとして頭をひねった。

「悪い奴のことじゃ! オレがそんなことをして何の得になるかと聞いたら、”あなたは『ここ』をあまり良く思っていないようだから”とぬかしおった」

 喧嘩をするヒトのことだろうかと、僕は想像した。

 しかし『ここ』では喧嘩という現象が起こることは、めったに無い。仮に誰かが誰かに悪意を持ったとしても、なぜ「悪意」を持ったかという理由が『意識』や『感情』の以心伝心で伝われば、大抵の場合は同情されるだけだからだ。

 そもそも『ここ』では、どんな身体的欲求でもすぐ満たされるから、ストレスを感じることが余りない。だから身体の本能的な防御機構である「恐怖」や「怒り」の感情を覚えるのは、せいぜいゲームの『場』の中にいる時くらいだ。

 『ここ』にいるかぎりヒトが物理的な損害をうけることもないから、仮に喧嘩が起こっても、たとえば街路格闘系モノの『ゲーム』で勝負になるだけだ。ま、自分たちの『場』に閉じこもって延々と喧嘩を続けるヒトがいたと聞いたことはあるけど。

 僕が考え込んでいると、アイリーンがオジサンに言った。

「それは、あなたが『ここ』に何か破壊工作を仕掛けようとしたと、その女の子が考えていたということでしょうか?」

「えーっ、そんなの無理だよ。『ここ』の安定度って凄いんだぜ。変な『自己増殖体』の『虫』を作っても、すぐ『自然淘汰』されるだけだしさあ」

 ヒカルが実感を込めた口調で言う。実際にそういう悪戯をしたことがあるのだろうか?

 オジサンはうんうんと頷いた。

「その通りじゃ。四次元時空に匹敵する安定性こそ『ここ』が存在する高次空間の特性でもあるからの。オレはナンセンスじゃ、と怒鳴ってやったわい」

 本当にオジサンが怒った声を出したので、僕はびくっと首を縮めた。

 オジサンは淡々とした口調に戻って続ける。

「残念ながらオレのような幼稚な技巧しか持たぬ者の『彫刻』は、若い者が見たら誰が創ったのか、はっきり分かるはずじゃからの、その証拠を見せてみよと言ってやった」

「で、証拠はあった?」

 本当に興味ありありといった口調で、ヒカルが尋ねた。僕はちょっとマズイかな、と思った。

「もちろんオレは何もやっておらんわ! したがって証拠も何も無かったわい。オレは『ここ』におるんじゃ。見つかって立場を悪くするような事をなんでやらにゃならんのだ、いや、やるワケがない!」

 オジサンは思い出して腹が立ってきたのか、顔を赤外波長で火照らせて頭から湯気を立ち上らせていた。

「オレは、あの女が何をしようとしていたのかは知らん。しかしな、不愉快な女じゃったわい!」

 冷静に聞いていた八神も、興奮したオジサンをなだめた。

「大体事情は分かりました。貴重なお話、どうもありがとうございます」

「あ、また『講義』行きます」

「フン」

 僕達は、適当に礼を言うと、オジサンの『家』を後にした。


***


 『都市』から僕たちがいつも集合する場所の『場所(アドレス)』に向かう光の帯『(バス)』の上で、僕は八神に話しかけた。

「よく考えてみたら彼女があのオジサンと話した後、オジサン、怒っていたみたいだった。オジサンが怒りやすいのかと思ったけど、彼女が気に障るようなことを聞いてたんだね」

「そうですね、その女の子は単にカリカリしていただけなんじゃないでしょうか」

 八神が微笑みながら応えた。

 そうかもしれないけど、彼女は僕のことを十分に『観察』してから返事をしたような気もする……。

 ずっと無言で考え込んでいたアイリーンが、ぼそっと言った。

「あのオジサン、の『精神(スピリット)』の『記録(ログ)』を少し見させていただきましたわ。誰かが『覗見(ハック)』していた跡がありましたわ」

「え?」

 本来『精神』そのものに触れるのはあまり良くないとされているけど、誰かの『記録』を見るのは僕たちには難しくはない。

 しかし、オジサンはもちろん、僕もアイリーンが見たことには気づいていなかった。

「ほとんど目立ちませんでしたけど、女の子があのオジサンを探っていたことは間違いありませんわ」

 僕達の感覚だと、確かにあのオジサンが何か『悪さ(トリック)』をするとは思えない。何を彼女は調べていたのだろう?

 皆、考え込んでしまった。

 加藤が、腕を組んで一言、

「アヤシイ」と言った。

 ヒカルもポツンと呟く。

「じゃ、これからどうするー?」

「あのオジサンのような方は、他には存じませんわね」

 アイリーンが言う。それに、あの女の子が何を探っていたのか分からないから、「変わったヒト」を一人一人、尋ね歩くというのはダメだ。

「ご老人の『記録』には、女の子の『旅程(パス)』に関する情報は無かったのですか?」

 八神が顎に手を当てて聞く。アイリーンは頷いた。

「彼女、かなり『できる』方ですわ。さすがに『覗見(ハック)』の痕跡は消せなかったようですが、何も手がかりになりそうな情報は残してありませんでしたの」

 加藤も、珍しく気難しい表情をしている。

「アイリーンほどのウデでパスが分からないなんて、やり手なストロングアーム」

 神妙な顔でヒカルが首をかしげた。

「ふーん、じゃあ、まったく手がかり無し、じゃないー」

「うーん」

 僕は、頷いた。皆、まいったねという『感覚』を伝えてくる。

 しばらく沈黙が続いた後、ヒカルが提案をした。

「あのさっ、みんなで『人通り』の多いところに立って、『掲示板』を作って、かたっぱしから情報を集めていくってのは、どうかなっ?」

 アイリーンは、同意の『感覚』を送ってきた。

「そうですわね、その女の子を知っている方を探せば良いですわね」

 八神が眉を寄せた。

「いや、その女の子は『外見(シェイプ)』を変えていたのかもしれませんね。ユウ、そもそも本当に女だったのですか?」

「え? あ、それは間違いないよ。少なくとも『精神』から流れ出る思考パターンは女の子だったから」

「そうですか。まあ、『尋ねる』のはすぐできますね。その女の子がどこか通ったのを見た奴を探せば良いですから」

 八神は顎に手を当てて頷いた。

「では、ヒカルの提案のように『交差点』で手分けして聞いていくことにしますか」

「ウワー、なんか面白そうじゃん!」

 加藤も賛成した。

「そいじゃ、グタイテキにどうする?」

 ヒカルは何故か神妙な表情になって言った。アイリーンも真面目な表情になって応える。

「交差点の『場所(アドレス)』IDのAF-8751と8776を逃しては駄目ですわねえ。わたくしがやりますわ」

「よし、私は、R-CD027を担当しましょう。加藤さんはどうしますか?」

「OH-574をやる」

「じゃあ、ボクはMRT-255を当たってみるー! ユウはMA-4989DAなんか、どう?」

「う、うん」

「じゃ、みんなー、ガンバローねっ!」

 ヒカルの台詞に他の三人も掛け声で応えた。僕は目頭が少し熱くなってくるのが感じられた。

「ではさっそく始めましょう。二三:四〇標準時に、いつもの『喫茶店』に集合ということでよろしいですね? 何か分かった時には、その時点で呼んで下さい」

 八神の言葉に皆、同意の『感覚』を伝え合う。

 すると皆がまさに光のスピードよりも速く、それぞれの『場所』へ行き始めた。僕も『移動』し始める。

「ユウ、じゃね!」

「それじゃ、また。ヒカル」

 まだ『接続』しているヒカルからのメッセージに応える。するとヒカルの笑顔の『意識(イメージ)』が伝わってきた。

「どうしたの、八神?」

 アイリーンの怪訝な声が聞こえてきた。

 『ここ』では距離は関係無いとはいえ、もう数兆の何乗かの『単位素子』『番地(場所)(アドレス)』ほども離れている。けど、僕たちの『結び(シンクロニシティ)』はそれだけ強いのだ。

「ああ、ユウの『感覚』だと女の子はかなり真面目に何かを探していたようだ。何なのかと思ってな。それに”ゾンビ”とは……」

 しかし八神の返事が少しの間だけ聞こえて、接続が切れた。もちろんこちらから『接続』すれば聞こえるのだけど、それはしないことにする。

 確かに、女の子の態度はよく考えてみたら普通じゃなかったかな、と思った。

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