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深淵の宴  作者: 謎村ノン


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1.前哨

※こちらは、『異世界にゲスト神として召喚されたらしいんだが…… 』のヒカルの過去が舞台の物語です。主人公の『ユウ』は、『異世界に~』の高槻 裕とは別人ですが、魂的な結びつきはあるとゆー設定です。

 『講義』は退屈だった。ヒマをつぶすために来たのに、これじゃあね。

 ここは木目印刷のスチール机がずらりとすり鉢状に並んだ教室だ。僕は、その上下左右ちょうど真中くらいの位置に座って、頬杖を付きながら正面を見ている。

 教壇の前では、中年のオジサンが熱弁をふるっていた。それも本当に『話して』いるのだよ、これが。

 彼の服装も、二十一世紀初頭の大学教授が着ていそうな標準的な背広だし、それに全体的なこの雰囲気。

 まったく、古典的(クラシック)な風景だよなあ!

「ふ、ふぁあ」

 そう考えたら欠伸が出た。

 周囲を見回してみた。飽きてきたのは僕だけじゃなかったみたいだ。みーんな、眠たそうな顔をしている。いや、本当に寝ている奴や「内職」をしているヤツもいた。

 なんとなく、さらに教室をぐるっと眺めてみる。

(お?)

 『視界』の端に、とてもキュートな女の子を発見した。もっと『注視』しようかな……。

「ええいっ! おぬしら」

 オジサンが大声を上げて教卓を叩いた。警戒信号のような感覚が同時に皮膚を通して伝わってくる。

 『抜け』ようとしていたヒトが引きつったように立ち止まった。僕も、驚いて視線を正面に戻した。

 オジサンは怒鳴り続ける。

「こんなものはニセモノにすぎん! 外に出るんだ、外に」

 また、ご多分に漏れず、説教が始まった。なんかもっと面白いコトを話してくれればいいのだけど、ま、しょうがないかなとも思う。オジサンの年齢は二百歳を超えているだろうから。見た目は、旧世紀の中年くらいなんだけどね。

 たしかに今回も、話の最初の方は、なかなか興味深かった。

 オジサンは若い頃、宇宙船のパイロットをしていたそうで、思い出話を語ってくれたんだ。

 パイロット訓練校時代、事故、恋人との出会い、どうしてパイロットを辞めることになったのか、等々。

 言葉を聞くことでイメージを創りあげるのは久しぶりだから、とっても新鮮味があった。ほとんど『ゲーム』感覚だ。

 でも、聞いているだけだと、やっぱり疲れる。それにだんだん愚痴と説教ばかり言い始めるんだものなあ。

「さて、っと」

 小声で呟いて、女の子の方に目線を向ける。

 やはりすごく綺麗なコだった。僕と同じくらいの歳らしく見えるけど、ちょっと大人っぽい感じを受ける。漆黒の長髪をポニーテールにまとめていて、二十一世紀風に地味な服装をしているように『見え』る。

 女の子は、ものすごく真面目にオジサンの話を聞いているようだった。

 まさかこのオジサンの『講義』は初めてなのだろうか?

 今すぐ『接触(チャット)』するのは無理そうな感じだから、僕も、もう少し聞いていようかと思う。

「うーん、でも退屈、だよねえ」

 普段あまり感じない感情が募っていく。これを『イラつく』というのだろう。思わず貧乏ゆすりなどしてしまう。

 こういう時には雰囲気を変えると良いかもしれない。

「えいっ」

 小声で、もったいつけて言ってみる。

 すると『二十一世紀初頭の日本の大学』風景が、それより一世紀も前にあったアメリカの大学の教室に変わった。まばたきする間も無くて、ただ次の瞬間そこにいたという感じ。

 教室の大きさそのものは大して違わないけど、受ける雰囲気は相当違う。

 いや、あのオジサンにはこれくらい古い雰囲気が似合うよね。僕は、ほくそ笑んだ。

 机はホンモノの木で出来ているし、プラズマ・ディスプレイは黒板とかいう白い石で書く板に変わった。

 オジサンの背広も古典的な型に変わって『見え』て、なんとなく滑稽に思えてくる。

 でも僕も今は同じように吊りズボンで格子模様(チェック)のシャツを着ていた。そのシャツも荒い木綿の感触がある。

 机に爪をたてれば傷がつくだろう。窓の外から入ってくる森林の匂いがかぐわしい。小鳥の鳴き声が聞こえてくる。そういった小鳥なんかも僕と同じくらい『実存』しているのが、『ここ』の特徴だよなと思う。

 女の子を見ると、彼女もリボンを着けて、女学生といった感じの服装をしていた。

「う、か、カワイイ」

 『講義』が終わったら絶対声を掛けようと心に誓った。

 とりあえず背筋を伸ばし、話の方にまた耳を傾ける。

「……いいか! ワシは、こんなものを発明した奴は歴史上最大の犯罪者だと思っておる。星にたどり着いたばかりで、なんでこんな所でもたもたしておるのだ」

 オジサンの話はワケの分からない単語を羅列しながら続いた。耳の左から右にそのままスルーしてるように感じる。やっぱり、退屈だ。

 つい思考の糸がほどけて、ぼーっと考え込んでしまう。


 そういや『ここ』は昔のヒトにとっては想像もつかないような場所なんだろうなあ、なんて考えがふと浮かんだ。

 『ここ』というのは、もちろん『実装空間リアル・イクイップド・ユニヴァース』のこと。

 『ここ』では何かを思うだけで、ほとんどどんなことでもできる。

 例えばどこかに『行きたい』と思うだけで、すぐその場所に『いる』。

 何かを『食べたい』と思えば、何も無いところにその料理が『ある』、つまり出現する。

 『見える』ものの形状を変えることも造作ない――この教室の風景のように。まあ、今は僕だけが「アメリカの古典的な大学風景」を見ているにすぎないんだけどね。

 昔のヒトだったら、自分だけ見えるものが違ったら困ると思うかもしれない。でも『見え』なくても誰がどこにいるか分かるから全然問題無い。他のヒトやモノの位置を『感じる』んだよね。

 自分が考えてることやイメージを相手に直接伝えることもできる。だから、言葉のような不細工な伝達手段を使う必要は、ほとんどない。

 昔のヒトが超能力とか言っていたようなことが『実装空間』では可能になるんだ。

(ま、もちろん『外』ではこういった超能力は、もちろん使えないけど)

 僕は言葉に出さないで呟いていた。

 そういえば、『外』にある僕の身体は、寝椅子をガラスでくるんだような透明なカプセルの中に浮かんでいるんだ、ということを思い出す。

「うーん」

 思い出したら、ちょっとだけ妙な気分がした。

 そう、確かにあのオジサンが言うように、『外』の世界の方が現実の空間なのだろう。

 だけど僕くらいの若い世代にとって、『ここ』の方が本当の『現実(リアル)』なんだ。

 もちろん、たまには『外』に出なければならないこともある。『カプセル』の保守点検とかでね。

 でも『外』では、不便な空間をうろつくのがとっても苦痛に感じる。食事や水を絶対に摂らなければならないし、お腹がいっぱいになったら食べ足りないような気分がしても終わりだし。トイレにだって行かなければならない、それも歩いて、だ!

 何というか、『外』では全身が何か重い液体の金属に浸されているような気分になる。出来のすごく悪いゲームの『(バッドゲーム)』の中を彷徨しているような、そんな感覚がするんだ。

 それに比べたら『ここ』ではすべてが軽やかで楽しくて――美味(おい)しい。


「いいか、おぬしら! EPR共時性通信で光の速度を超える通信網があって、巨大な物体の情報を転送するのも実用化されておる。つまり技術的には完全に可能になっておるのに、だ」

 オジサンが怒鳴ったせいで、また現実に引き戻された。

「なのに、なんで超光速の有人宇宙船の開発を止めてしまったんじゃ! こんなまやかしの実装空間に籠もっておらずとも、わずか三十光年先には地球のような水惑星も発見されておるんじゃぞ」

 何回か聞いているせいで、オジサンの話がクライマックスに差し掛かってきたのが分かる。

 そろそろまじめに聞いてあげますかと、僕は軽く思った。

「発展を止めた種族に残っているものは、衰退だけじゃよ。そこんとこをよく考えてみよ!」

 強い調子でオジサンが怒鳴ると、しばらく周囲はしんと静まり返った。

「では、今回の話はこれで終わりじゃ」

 まだ興奮している口調でオジサンが告げる。すると教室を形作っていた『場』が暗闇に融けていくように消えた。

 オジサンが『講義』用に『図書館(ライブラリー)』から呼び出していた『場』を消去したのだ。

 周囲がごく普通の『ここ』の風景に戻った。様々な『構造体』やら『オブジェ』などが薄い光の線と共に浮かんでいるような感じに『見える』。

 そういえば以前に、飛行機の上から眺めた夜の都会の風景という大昔の映像データを見たことがあったけど、それにちょっと似ていると思う。

 聞いていた人達がばらばらと『立ち上が』ったけど、最初の四分の一も残っていなかった。

 僕も欠伸をしながら、その座標から『出る(イグジット)』しようと思った。

(いや、待て。と)

 あの女の子のことを思い出す。さっそく周囲に『サーチ』を掛けてみた。

(うわ、ホントに真面目なコだなあ!)

 女の子はオジサンと何かを話し込んでいた。講義のことについて質問しているようだった。

 しばらく待っていると、周囲は僕と彼女、それにオジサンだけになっていた。こんなに長く何を尋ねているのだろうと不審に思っていると、ようやく女の子がオジサンに『Bye』の挨拶をして離れようとした。

 すかさず彼女の側に近づいた。

「あのさ、僕、ユウって言うんだけど、キミ、この『講義』初めてだったの?」

 僕が話しかけるのを無視して、女の子は進もうとした。

「えーと、もしよかったら、一緒に木星の磁気嵐でも見に行かない? 今の季節はオーロラが綺麗だよ」

 彼女はようやく僕の方を振り返った。

 じっと目を見つめてくる。琥珀色の瞳に見据えられて、僕はたじたじとなってしまった。

「あのね、ごめんなさい。私、忙しいの」

 液体ヘリウムよりも冷たい言葉だった。

 しかも文字通り「言葉」だ。音声情報だけとはいえ、心なしか怒りのイメージが含まれているように思えた。

 唖然としている僕を残して、女の子は行ってしまった。

 これって、やっぱり振られたってことなんだろうな……。

……実は、この話は、高校の頃に初めて書いてコバルト文庫大賞に応募し(て落ちた)小説を、後日、全部修正したモノです。文体とかが、当時のコバルト文庫の影響アリアリなのが今見るとナントモ……でも、いわゆるLitRPG的な話で、昔から変わらないなあ……と見返して思ったり思わなかったり。

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― 新着の感想 ―
日米同時公開おめでとうございます!『日米同時公開』という響きだけでもハリウッド超大作的なイメージでなんかすごいと思います!笑 1話目から「実装空間リアル・イクイップド・ユニヴァース」の手触りが濃くて、…
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