防人 — 日出づる国の覚悟
XX27年、X月。 国際社会の度重なる警告を無視し、とある国は台湾への大規模侵攻を開始した。早朝の闇を切り裂いて飛翔するミサイルの閃光が、平和の夜明けを血の色に染め上げていく。
日本の首相、佐倉は、官邸地下の危機管理センターで静かに状況を見つめていた。モニターには、台湾の海岸線に押し寄せる大洋連合の揚陸艦隊と、それを迎え撃つ台湾防衛軍の必死の抵抗が映し出されている。隣国の悲鳴は、もはや外交辞令で押しとどめられるレベルを超えていた。
「総理、国連安全保障理事会は機能不全です。大洋連合の拒否権で、非難決議すら採択できません」
外務大臣の報告に、佐倉は深く息を吐いた。 「国際法は、力ある者が無視する時、無力となる。ならば、我々がその『力』となるしかない」
佐倉は顔を上げ、歴戦の自衛隊統合幕僚長、伊吹と目を合わせた。
「防衛出動を命じる。本土防衛、シーレーン確保。そして何よりも、自由と民主主義という普遍的価値を守るため、友邦台湾への支援を断行せよ」 伊吹は無言で敬礼した。その瞳には、覚悟の炎が燃え盛っていた。
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沖縄本島西端の岬。 陸上防衛軍、通称「陸防」の第307沿岸警備隊、隊長である東三等陸佐は、双眼鏡越しに波打つ海を見つめていた。彼の部隊は、最新鋭の地対艦ミサイルシステム「海燕」を配備している。その射程は、台湾海峡を睨むには十分だった。
「隊長、警戒海域に複数の高速艇。識別不明」
レーダー手からの報告に、東は冷静に指示を出す。 「識別信号を再要求。応答無ければ、敵と見なし、射撃用意」
大洋連合は、正規の侵攻と同時に、海上民兵や特殊部隊による攪乱戦術を仕掛けてくる。それが彼らの常套手段だった。日本の領海、そしてEEZ(排他的経済水域)に侵入し、台湾への日本の動きを妨害する狙いだ。
「目標捕捉。……敵、ミサイル発射体制に入ります!」
次の瞬間、東は「海燕」の発射ボタンに指をかけた。 「撃て!」
轟音と共に、白煙を上げながらミサイルが夜空を裂いた。それは、日本の領土を守るための「盾」であり、同時に台湾へ向けられた牙への「警告」でもあった。
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東シナ海上空。 漆黒の夜空を切り裂くステルス戦闘機「隼」の編隊が、超音速で飛行していた。日本の航空防衛軍(空防)が誇る最新鋭機だ。 編隊長である「ファントム」こと、ベテランパイロットの神崎一尉は、コックピットのHMDに映し出されるレーダー情報を睨んでいた。とある国の戦闘機群が、日本の防空識別圏へ猛然と侵入してきている。
「全機、隊形維持。目標捕捉次第、交戦規定に従い対処する」
無線から指示を出す神崎の声は、驚くほど冷静だった。 大洋連合は、航空優勢を確保し、日本の「かがり火」への攻撃ルートを確保しようと必死だった。彼らの目的は、台湾を孤立させ、日本の介入を封じることだ。
「ファントム隊長、目標ロックオン!」
僚機の声が響く。神崎は迷わず、トリガーを引いた。
「こちらファントム。ミサイル発射。……ヒット確認!」
空中で閃光が走り、大洋連合の戦闘機が火を噴いて墜落していく。 それは、純粋な技量と最新鋭の技術が織りなす、命懸けの空の舞だった。日本の空を守り、台湾へ向かう「かがり火」を護るための、譲れない戦い。
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台湾東方沖、国際公海上。 海上防衛軍(海防)の旗艦、多用途ヘリコプター搭載護衛艦「かがり火」の飛行甲板から、F-X戦闘機が次々と発艦していく。それらの機体には、日本の国籍マークと共に、小さな台湾の国旗が描かれていた。これは、日本の意思表示だった。
艦長の海堂一等海佐は、艦橋からその光景を見守っていた。 「全艦へ。これより、我々は台湾東方沖の**『自由の回廊』**を維持する。大洋連合のいかなる武力侵攻も、これ以上は許さない」
その声は、重厚な決意に満ちていた。 大洋連合のミサイル艇や潜水艦が、次々と「かがり火」艦隊に迫る。だが、日本の誇るイージスシステム搭載護衛艦群と、水中を高速で進む最新鋭潜水艦「白蛇」が、その侵攻を許さない。
「対艦ミサイル接近! 右舷より!」
「迎撃開始! 全砲門、目標へ指向!」
閃光と爆音が海上に木霊する。だが、日本の艦隊は一歩も引かなかった。 F-X戦闘機は、台湾空軍の残存戦力と連携し、とある国の航空機や艦船を次々と排除していく。その連携は完璧で、国際社会の誰もが予想しなかった「日本の本気」だった。
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三日三晩にわたる激戦の末、大洋連合は台湾東方沖の「自由の回廊」を突破できず、甚大な損害を被った。同時に、日本の介入によって台湾西部の防衛ラインも奇跡的に持ちこたえ、国際社会からの非難の嵐が、大洋連合を直撃する。
国連緊急総会。 日本の佐倉首相は、毅然とした態度で演説した。 「我々は侵略者ではない。我々は、自由と民主主義という普遍的価値を暴力から守るため、国際法に基づき、友邦台湾への支援を行った。とある国の行為は、世界の平和に対する重大な挑戦であり、断じて許されるものではありません」
全世界のメディアは、日本のこの断固たる行動を「鋼の防波堤」と称賛した。 とある国は国際社会からの猛烈な非難と経済制裁にさらされ、事実上、台湾侵攻は失敗に終わった。
佐倉首相は、官邸の自室で静かに窓の外を見つめていた。 戦いは終わったわけではない。しかし、日本は世界に示せた。 この国が、自らの手で平和を守り、他国の自由のために戦う「覚悟」を持っていることを。 そして、その覚悟の根底には、差別でも排外主義でもなく、ただひたすらに**「守るべきものがある」**という、純粋な志があることを。 その日の夜空は、かつてないほど澄み切っていた。




