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リーディア  作者: シュタイン
第一章 復讐者は踊り狂う
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第一話 黒夜に潜む者

 首都、東京。大戦時に他国から異線敷く者(レイラー)が侵入し戦火に見舞われながらも、その跡を感じさせないような煌びやかさを現在(いま)は放っていた。

 国土の大きさは大国に比べるべくもないが、軍人の中でも圧倒的な能力を見せた一部の個人の手により勝利がもたらされた。一人一人の練度も高かったため、流れを掌握した時には勝利に持ち込むのは早かった。

 最新鋭の兵器が登場し多くの命が散ったが、科学技術を否定するかの如く異線(レイル)を用いて敵を屠る英雄たちは現在でも伝説的に語られている。特に国軍の軍人は憧れを抱くものが非常に多い。大戦時に戦争に従事していた世代はもちろんのこと、生ける伝説として一目だけでも姿を見たいと軍人になる若者が今も後を絶たない。

 国軍は当時の戦死者を厚く弔いその家族にも丁寧な対応を行った。

 そして、今後国に戦火が及ばぬよう一層練兵に取り組むようになった。主に異線(レイル)を軸に置きながら最適な訓練方法と武器の組み合わせを探り、個と衆の二つを同時に鍛えていった。

 しかし、国軍にとって対処し難い二つの問題が起きた。

 一つは、国の四方に現れた個々人が災害級の力を有する異線敷く者(レイラー)四災人(しさいじん)の存在。なんの予兆もなく出現したそれらは多数の人間を殺害し、更には警察の特殊部隊も半ば壊滅の危機に遭ったため、ついに軍が出陣し討伐を試みるもいくつもの部隊が全滅した。軍は討伐するにも一人当たりに国軍本部の最高戦力を割かなければいけないという見積りを出し、政府と軍は即座に周辺住民を避難させ、発生地域の完全封鎖を敢行した。

 幸いにして彼らは積極的にその場から動くことはなかったため、一定の戦力を近郊に残しながら彼らを監視するという方針に決まった。封鎖された地域に住んでいた住民からは非難の声が飛び交ったが、幾度かの話し合いである程度沈静化した。

 現在でも抗議は止まないがそれでも積極的に攻め込んでいるわけではないため要監視からの方針は今のところ変わらない。大きな動きが見られれば討伐に向けて動き出すだろうが。

 二つ目はある意味で戦力的にどうにかならない問題。異線(レイル)と科学技術を悪用した犯罪者の増加。発展した科学技術の穴を突いて異線(レイル)を用いて犯罪を行う人間や流出した情報から異線(レイル)を使い見分けがつかないような詐欺を行うなど多種多様に変容した。

 科学技術と異線(レイル)の組み合わせは相乗効果をもたらし、複雑さと犯人特定の難易度を戦前よりも上げていた。

 個人が行っているわけでも特定の集団だけが行っているわけでもなく、無秩序に増加していたため対処が遅れる結果となった。

 批判の声は次第に膨れ上がり、無視できぬ問題へと発展した。

 そのことを危惧した政府は軍に一つの部隊の設立を要請した。最初はその乱暴さや一歩間違えれば国への信用問題になりかねないその提案に渋ったが、他に良案がなかったことと現行の法律を変えるのに要する時間に増える民の悲しみを考え承諾した。

 表向きは軍属の独立部隊として設立されたそれは確実に成果を上げていった。裁きから逃れ、他者を害し食い物にしてきた罪人を次々と食らい尽くしていった。

 捕食者は今日も黒夜から罪人を睨み続けている。




「おはよう~」

「おはようッス」

 街中にある小さなビル。三階建てで広さだけは十分にあるそこは都市部から少し離れた場所にあった。

 近所の人間は何かしらの企業が入っているだろうと思ってはいるが具体的な業種も企業名も把握していない。実際は企業とは全く別のものが入っているのだが、周囲の人間は大して関心はない。自分に大きく関わりがなければ興味を持たないのはとても人間らしいだろう。

 ビル内部の二階にはデスクが立ち並んでおり、備え付けのPCも完備されている一番広さを持った部屋がある。内装はモダンで近代的という表現がふさわしいだろう。デスクには書類やファイル、私物と思わしきものが並んでおり私物のラインナップや書類の並び方で個性を見せている。同じフロアには複数の部屋があり広さはまちまちだが、いずれも職務上必要性のある部屋だ。

 二つの声がPCの並ぶ部屋に響くと、入り口に一番近いデスクに座る女性が椅子を後ろに引き声をかける。

「あら、おはよう。仲良く出勤ね」

 ジーンズを履き、緑のトレーナーの上から白衣を纏った眼鏡の女性はオフィスチェアを時計回りに90度回転させ、正面に向き直る。

癒尾瀬(いおせ)さん、聞いてくださいよー。叶未(かなみ)さんが朝っぱらからインターフォン連打で無理やり起こすんッスよ。酷くないッスか?」

「私の優しさだよ~」

「起きないとドア斬るは脅しでしょうが!」

「なにをー!」

 朝から騒がしい斗霧(しなぎり)叶未(かなみ)を見て優しく微笑む癒尾瀬(いおせ)と呼ばれた女性。職務の内容が殺伐としているだけにこうした些細な日常があることは素直に喜ばしいことであると彼女自身感じているようだ。

 怪我を負って帰ってくることも少なくないため、こうして傷なく笑いあいながら出勤してくれることは素直に嬉しいし安心する。

「まあまあ、悠江(ゆうえ)くん。朝から美少女に起こしてもらえるなんて同じ宿舎じゃなかったら起こらない奇跡だよ?」

「そうだ!そうだ!」

 いつのまにか癒尾瀬の傍に行きブーイングのように非難する叶未。斗霧は澄ました顔で何のこともなく答える

「俺、年上がタイプなんで。先輩といえど叶未先輩は年下ですしちょっと・・・」

「その目は節穴かー!この大人の色気に溢れたレディを見ておかしなこと言いやがって」

 斗霧は何を言ってるんだといった目で叶未を見つめ、ため息を吐く。

 二人はなおもくだらない言い合いを続け癒尾瀬は静かに見守る。

 そこにもう一人桃色のワンピースの上から白衣を羽織った女性が癒尾瀬のデスクに書類を運んできた。

「癒尾瀬さん、こちら確認お願いします」

 黒の長髪はどことなく透き通った海を思わせ、束ねていないからこそ髪の美しさが際立っているかのようだった。癒尾瀬は書類を受け取り持ってきた女性に声を礼を言う。

「ありがとう、メロウちゃん」

「はい。・・・あの二人は昨日の夜も対象(ターゲット)を追いかけてたのに朝から元気ですね」

「あれぐらいタフなほうが頼もしいわ。特にこんな特殊な部隊ならね」

「それはそうですね」

 にこやかに少々呆れた様子で斗霧と叶未に視線を向ける。メロウはファイルを抱きながら右手で欠伸が出た口を覆う。

「ふわぁ」

「あら?寝不足?」

「昨日好きなドラマのシーズン2が配信されたんでついつい夜更かししちゃって。ああでも業務に支障は出しませんよ」

「そんなに面白いドラマなのね。私も見てみようかしら」

「はい!ぜひ!」

 騒ぎ合う二人を余所に穏やかな会話で和む医療班所属のメロウと癒尾瀬。業務内容に対して楽し気な雰囲気でいられるのは彼らが慣れているからか、あるいはそういった業務だからこそなのか。

 斗霧が関節技を叶未から決められて床を叩きながらギブアップを訴えだした頃、苦しそうにしながらも疑問を口に出す。

「そ、そういえば刃衛(じんえ)副隊長と栞副隊長が『北』と『西』から要請が来たって聞いたんッスけど」

 癒尾瀬がコーヒーを自分とメロウの分も部屋に置かれた裏にそれぞれの名前が記入してあるカップに淹れて持ってきて飲みながら答える。

「ええ、どうにも指定区域の外に移動するかのような動きが観測されたらしくてね。偶然かどうかはわからないけどほぼ同時にそれが起きたから上層部も対応に追われているらしいわよ。うちからも念のためにあの二人が派遣されたから少し心配ね」

 関節技でどこかのボクサーのように真っ白になった斗霧をみて満足そうにした叶未は続けて自分の疑問も声に出す。

「他の四人は依頼が入ったの?普段なら私たちより早く出勤してるよね?」

 先ほど答えた癒尾瀬ではなくコーヒーを机において癒尾瀬の隣のデスクに着席したメロウがファイルを開きながら回答を行う。

「はい、四人とも依頼が入りそちらに向かいました。二組とも昨夜『翠八天(すいはってん)教』の隠れ家と思わしき場所に向かいました。元は教団被害者からの依頼でしたが想定よりも規模が大きいことを踏まえ隊長が二組合同で依頼を遂行するように命じていました」

 国軍は異線(レイル)の性質や組み合わせを考えフォーマンセルを戦術上の基礎単位にしている。そこには使用武器や性格も考慮に入れられさらに軍略上の相性など様々な事柄によって決定される。

 しかし、斗霧や叶未が所属する隊は少数精鋭で行うべき業務であることといざという時に切り捨てやすいように少数で形成され、ツーマンセルが基本単位となっている。

 副隊長以上になると、単独で動くことが主となる。

 これについて所属する人間が誰も異を唱えないのは自身の力への自負、そしてそれを率いる隊長の実績に基づく絶対的な信頼ゆえである。

「翠八天教って、確か過激な思想で民間にまで被害が出てきたから一度軍と警察に制圧されたとこじゃなかった?」

「そうね。4年前に事件を起こして死傷者も50人以上出たからさすがに動かざるを得なかったといったところね。教団は解散したかに思えたんだけど、最近になって翠八天教に入信して帰ってこなくなった人が相次いで教団に人身売買されたり殺されたりしているってことを家族が訴え始めて、証拠まで揃えて依頼に来たからウチも動き出したのよ」

 PCに画像を映し出しながら当時の事件の凄惨さとともに事の経緯を語る癒尾瀬。その顔には事件のことを思い出したのか悲痛な色が浮かんでおり、無意識にか左手を強く握りしめている。

「でも二組も向かうってことは敵に相当な戦力がいるってことでしょ?私たちも向かったほうがいいんじゃない?」

 戦いに関しては頭の切れる叶未は的確に分析する。この部隊は一組いれば本部中将直下の軍、いわば国軍最高戦力の軍人500人以上に匹敵する。

 それでも二組が必要ということは少なくとも半端な戦力では依頼を遂行すらできないことを意味する。

「それについては・・・」

「私から話そう」

 入口から声とともに足音がし、斗霧たちの近くまで音が接近する。

 叶未は喜びを隠す気もなく、弾けるように呼び掛ける。

影守(かげもり)隊長!」

 現れたのは復讐を肩代わりする秘密部隊を束ねる隊長、影守墓人(かげもりはかと)である。

 

 

 

 

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