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偽者勇者の私  作者: 天羽
第一章 私と魔法使い
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第一話 勇者の報せ

 魔王軍との前線に突如現れ、魔人を切り裂く私は、各地で乱立する〝勇者〟の一人と呼ばれていた。

 そして、その中でも私は本物ではないか?と、思われるほどに信奉されていた。

 理由は二つ、一つは私が魔人を複数倒しているから。

 今回の戦場でもそうだったが、私は魔人の多くを討伐している。

 他の勇者と呼ばれる者達は、多くても五体程に対して、私は既に十数体以上も倒している。

 私が強いというのもあるが、魔人の討伐数に差があるのは他にも理由がある。

 それは、ここが最も魔王軍が弱い前線という事だ。

 強力な魔人が一切いない。恐らく、他の戦線に強力な魔人が出払っている。

 それにはこの周辺諸国の戦力も関係している。

 戦場となったこの国には、〝英雄〟がいない。それによって、魔人達はその他の英雄がいる戦線で猛威を振るっている。

 英雄とは、古から存在する称号。

 聖神教会という、大陸最高の宗教が定める人類の強者。

 二つ名を与えられ、その存在は魔人にとっては脅威、人類にとっては文字通り英雄となる。

 高い力を誇り、軍隊にも勝る。中には勇者と並ぶ者もいたとか。

 基本的に、魔王軍と人類の戦いは英雄と勇者、魔王と魔人で決まると言っても過言では無い。

 戦争は数では無く、どれだけの英雄、魔人の数や質を保有しているかで決まる。

 万の軍勢にも勝る英雄、魔人はそれだけ重要な存在なのだ。

 それだけに、今回の戦いは魔人にとって苦しいものとなっただろう。

 魔人五体による侵攻。下位の魔人とはいえ、並の魔物とは一線を画す力を持っている。

 それが五体となれば、英雄もいないこの国を攻めるには過剰戦力だ。

 だからこそ、満身していたのだろう。私が駆けつけるまで、魔物達の士気も高く、魔人も後方から見物しているだけだった。

 その勝ち戦の雰囲気を、私が壊した。

 最前線で戦っていた魔人の一人の首が飛んだ。油断しきっていたからか、何の抵抗もなく斬り落とせた。

 少し前まで人間相手に力を見せつけ勢いに乗っていたその魔族は、何が起こったかも分かっていなかっただろう。

 その後、二人の魔人が援軍に来たが、私に倒された。

 その後残った魔人達は撤退し今に至るわけだ。

 話を戻し、私が勇者と呼ばれる二つ目の理由は、私が奇跡と魔法を使えるから。

 この二つの力には、特殊な才能が必要で、歴代でその全てを行使したのは、勇者しかいないからだ。


 戦場の後始末で、魔物の遺体から素材回収や、死んだ兵士の死体を運ぶのを手伝っていると、鎧を纏った屈強な男が、少数の供回りを連れてやって来た。

 恐らく将軍、彼は私の前まで来る。


 「此度の戦、助力感謝申し上げる。貴殿の力がなければ我らは今頃ここに倒れていただろう」

 「魔人は人類共通の敵、協力するのは当然よ。感謝しなくてもいいわよ」


 私の言葉を聞いたその将軍は微笑んでいた。

 何かおかしい事を言ったのか。


 「やはり貴女は他の勇者とは違う」

 「実力は違うかもだけど……」

 「いいえ、他の勇者はその称号に甘んじて危険な前線には出なかったり、法外な報酬を要求してきたりと散々ですが、貴女は彼らとは違う」


 将軍は私を褒め称える。

 悪い気分はしないが、何が目的なのかが気になる。少なくとも、褒めるだけの事は無いだろう。


 「ミファー殿、陛下から伝言を預かっております。もし戦場に現れたのならば、王城に招けと言われています」


 国王直々の招待。

 これが意味するのは一つ。勇者の任命だ。

 これまで全ての勇者は、大なり小なり力の差はあれ、国家の国王から任命されている。

 慣習のようなもので、多くの国家が勇者を任命して乱立させていた。

 勇者を任命した国は魔王討伐後の世界で大きな影響力を得る。

 世界を救った勇者の任命。それは大きな意味を持つ。

 それにより、多くの国家の元首達は勇者の任命をする為、強者を探す。

 今勇者と呼ばれる者が乱立しているのはそういう背景もある。

 勿論、勇者の任命において一つの国家元首の任命は第一歩でしか無いのだが、それでも勇者を各国は探している。

 そして聖神教会の任命も得られれば、その勇者の地位が確固たるものになる。

 勇者の任命の流れはこんなものだが、今回は最初の段階、王からの任命である。

 私はそれを、受けた。

 将軍達は感謝の言葉を述べて去っていった。

 勇者、か。

 その日は、戦場の後処理を手伝った。

 その後近くの街の宿に泊まり、王城へ向かう準備をする。


 

 ■ ■ ■


 そんな理由から、勇者と呼ばれていた私は今日、城に呼び出されていた。

 王都に着いた時、検問所で呼び止めらた。

 昨日の将軍が私の事を話していたのか、すぐに兵士たちは私を止め、馬車へと案内してくれた。

 城までの道のり、揺れる馬車の中で街並みを見る。

 魔王軍との戦争中で兵士達には少なからず緊張感があるようだが、それでも戦勝の雰囲気で盛り上がっていた。

 人も多く、様々な営みが見える。

 田舎者だからか、こういう都市に来ると全てが輝いて見えた。

 王城へと着くと、二人の兵士に案内されて、王がいる玉座の間まで歩く。

 派手な装飾は少なく質素に見える城内だが、堅固な造りで大理石の床や装飾品、働いている執事やメイドの佇まいを見れば王家の権威が良く分かった。

 玉座の間に入ると、国王が私を待っていた。

 若い。私よりは全然上だが、その顔はまだまだ青さが残っている。

 私は玉座の前まで歩くと、膝をつく。


「そなたがミファーか」

「国王陛下に拝謁いたします。ミファー・エカルと申します」


 平然と、妹の名前を名乗る。

 これは妹が死んだあの日からで、村の人達にはあの日、魔王に私が殺された事にしていた。

 勇者が死んだ事を知らせると、絶望すると思ったから。

 その日から私はミファーと名乗り、勇者を演じてきた。

 

「堅苦しいのはよい。此度は貴殿に頼みがあって呼び出した。勇者とならないか?」

「……お断りいたします」

 

 自然と口から出たのは、拒否の言葉だった。

 勇者は私の中ではただ一人だから。

 

「……なぜだ?貴殿は勇者の素質を持っている。それに……勇者となるのはこの上ない名誉だぞ?」

「……私には荷が重すぎます」


 それを聞いた王は、残念そうな顔をするが、決して無理に勧めるようなことはしなかった。

 勇者の任命の話を飛ばし、今回の戦果の礼と褒美をもらった。

 会話の最後、王は再度勇者の話をした。

 

「私は貴殿に期待している。数多の人を見てきたが、貴殿は確実に勇者となる素質を持っている。勿論国家の利益の事も考えて話してもいる。だが、余は今世間に出ている勇者のような者達とは違い、貴殿は勇者としての心がある」

「買い被りですよ。」


 謙遜しながらも、私はこの王への評価を改める。

 若き王、この男は国の利益の為に私を勇者に選定しようとしているかと思ったが、違う。

 先の戦場では魔人五体に対して何の策も無しに軍隊を派遣したと思っていたが、この王はそんな愚かでは無いことを感じさせる。

 恐らく私の援護を想定して派遣したのだろう。

 その証拠に、将軍は私への伝言も預かっていたし、現れたことに混乱も無かったし。

 このヘラノ王国は魔王軍に攻め込まれている小国。

 先代の代では腐敗した貴族と王家の圧政や、贅沢による莫大な宮廷費などで問題があると聞いていたが、今代は違うようだ。

 先代から王位継承をした目の前の王は傑物だ。

 名はアレク・ヘラノ。

 人を見る目に優れ、多くの優秀な者を出世させ、魔王軍との前線を押し返した。

 ただ、先代王である父を暗殺から始まる黒い噂もあったのと、昨日の前線で魔人に対する策の無さから噂が独り歩きしているのか、情報統制がされているのかと思っていたが間違いだった。


「どうか魔王討伐に出向いてはくれないだろうか。各地の勇者は、みなが魔王を恐れ、魔王領に向かわない。そんな中で貴殿からは、魔王へ臆するどころか、憎悪がみえる」

「………」

「報酬は幾らでも出そう。王位だろうと渡す。どうか……頼めないだろうか?」


 欲深い王族に利用されるのは嫌だったが、この王なら良いだろう。

 街の様子も活気に溢れていて、統治もしっかりしている様に思えたし、私利私欲の為に勇者候補を立てようとしているわけでもない。

 

「一つ、条件があります」

「何であろうか?」

「私は決して帰っては来ません。魔王を倒すことは約束しますが、報酬も王位も用意しなくて結構です。そのまま、どこかへ消えますので」

「その程度なら承ろう。しかし、私はその様なお伽話の英雄の様な悲しい終わりは許さん。必ずや帰って来るが良い。我が王国はいつでもそなたを受け入れる」

「そう、ですか」

「貴殿の旅に幸があることを」

「はい、それでは」


 出発の日程と、段取りを決めるとそのまま私は踵を返して、城から去る。

 数日後、私は盛大な歓声と共に、勇者として旅立った。

 もう少し何かあるかと思ったが、すんなりと話が早く進んだ事に驚いている。

 民に手を振りながら、笑顔を見せる。

 勇者とは世界を救い万人を助ける者。

 今ここで私を応援している人達も明日には魔王軍に蹂躙されるかもしれない。

 だからこそ、早く私はあの憎き魔王を討つのだ。

 私の(勇者)を殺したあの男を。


「まずは、この先にある村、ウィルスを目指そうか」

 

 ウィルス村、ここ周辺で一番大きい冒険者ギルドがあるところだ。

 魔王討伐には仲間も必要だろうし、立ち寄っていく。

 

「ここに凄腕の魔法使いがいると聞いたからね。行ってみる価値はありそうだ」


 ここから偽勇者の旅路は始まるのだ。

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