ことわざシリーズ 2 二兎を追う者は一兎をも得ず
ことわざ:二兎を追う者は一兎をも得ず
> 欲張ってあれもこれもと手を出すと、
結局どれも中途半端になる。
大事なのは、まず一つを選んで全力でやること。
「俺、サッカー部も生徒会も、両方いけるっしょ」
そう言い放ったのは、志村ハルキ。中学2年生。
身長は高く、顔立ちもそこそこ整っていて、口数も多い。とにかく「自信満々」な男だ。
テストの順位も悪くはないし、友達も多い。少し調子に乗っている感はあるが、本人はいたって本気で「何でもできる」と思っている。
春のある日、ハルキは二つの大きなチャンスを前にしていた。
ひとつは、サッカー部の副キャプテンの推薦。
もうひとつは、生徒会副会長の立候補。
「両方やれば、最高じゃね? 部活でも目立つし、生徒会でもリーダーシップってやつ?」
友達のコウタが言った。
「どっちかに絞った方がよくない? どっちも忙しいぞ?」
「俺ならいけるって!」
ハルキは笑って、どちらの話にも「やります」と答えた。
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最初の一ヶ月、彼は絶好調だった。
朝は生徒会の書類整理、昼はクラスのまとめ役。放課後はサッカーの練習。
帰宅しても、次の日の資料と宿題をなんとかこなす。
だが二ヶ月目に入った頃、歯車が狂いはじめた。
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ある日、生徒会の会議に10分遅刻。
「ごめん、部活のランニング長引いて……」
別の日にはサッカー部の練習試合にユニフォームを忘れた。
「悪い、昨日生徒会のプリント作りで寝ちゃってさ……」
試合での動きも鈍くなり、キャプテンから「お前、最近集中してねぇぞ」と言われる。
生徒会の顧問からも「責任感が足りない」と注意される。
さらに期末テストでは、ハルキにしては珍しく赤点ギリギリの点数を取ってしまう。
「なんか全部中途半端だな……」
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夏、サッカー部は大事な大会を控えていた。
生徒会も文化祭準備で忙しい時期。
その日の放課後、どちらも「どうしても外せない日」が重なった。
サッカー部の練習試合。対戦相手は県でも強豪の中学。
生徒会は、文化祭の出し物決定の最終会議。
両方とも「お前が必要」と言われた。
「……無理だ、どっちかしか出られねぇ」
結局ハルキは、どちらも中途半端に遅れて顔を出した。
生徒会では出し物が決まらずに話が流れ、
サッカー部の試合ではポジションを他の選手に取られていた。
「お前、どっちも中途半端なんだよ」
キャプテンのその言葉は、ハルキの胸に突き刺さった。
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帰り道、人気のないグラウンドで、ハルキは一人ベンチに座っていた。
(なんで俺、こんなにバカだったんだろ)
目を閉じる。風が吹く。どこか遠くで子供の笑い声がする。
「……何でもできるわけじゃねぇんだな」
初めて、そんなことを思った。
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それから、ハルキはサッカー部を選んだ。
生徒会には「ごめん」と頭を下げ、副会長の座を辞退した。
その代わり、部活に全力を注いだ。
次の大会、ハルキはベンチではなく、ピッチの真ん中に立っていた。
キャプテンの声が飛ぶ。
「ナイスパス、志村!」
「おう!」
ようやく、自分の足で立っている実感があった