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56 照れていたのですか?



 もともとエステルは姿勢が良かったが、ダンスやマナーの訓練をするようになったからかさらに背筋が伸びて見える。

 そのせいか双丘のふくらみがほどよく強調され、ドレスをいっそう華やかに見せていた。

 ラベンダー色のドレスはエステルの美しい黒髪にとても合っている。

 エステルの周囲だけ光が散らしたように輝いて、女神のたたずまいのようだった。


 ほんの一拍見つめただけでこれだけの衝撃を受けたクラウドは、エマ、アン、テンプルトン、そしてエステルに背を向けたまま脳内で悶絶する。


(エステルのドレス姿をもっと見たい! いやこれ以上見たら触れたくなってしまう……それはまずい! ていうか俺はぜったいに顔がどうかしてしまっているぞ! どうにかしなくては――) 


「あの……クラウド様、どのドレスがいいと思いますか?」

 エステルのおずおずとした声に思わず口を抑える。心臓が飛び出すかと思った。


「仮縫いをしていただいていて……どれも素敵で決められないので、クラウド様にも感想をいただけるとありがたいのですが」

「ど、どれでもいいと思う!」

(全部似合う……どれを着ても可愛すぎて美しすぎて選べるわけないだろうっ)


 クラウドの思考がまったくわからないエマ、アン、テンプルトンはその一言にさあああと青ざめた。

(どれでもいいって……)

 三人はそうっとエステルに目を向ける。


「……っ」

 エステルは哀れなほど項垂れて、唇をかんでいた。


 ぐ、とエマが両手を握って叫んだ。

「あ、あらあ! そういえばクラウド様の御衣裳もありましたわねえテンプルトンさん!」

「オ、オウ! そうでした!」

「まあまあでしたらクラウド様もこちらにいらっしゃってくださいな! ささ、さささ!」

 エマが年長者の機転でクラウドを半ば強引にソファへ座らせる。

 そのとき、一同は気付いた。

 常日頃、冷静沈着、めったに表情を変えないクラウドの顔が熟れたリンゴのようだということに。


(((クラウド様……もしかして照れている???)))


 エステルも驚きに目を瞠った。

(クラウド様、あんなにお顔が真っ赤に……)


 あまり表情を見せないクラウドがこんなに顔を赤くする理由は、いくらエステルが自分に自信が持てなくても想像できる。


(もしかして、わたしのドレスを素敵だと思ってくださっているのかしら……?)


 そう思うと「どれでもいい」という言葉が違う意味を含んでいたのだとわかる。


(もしかして、どれも素敵すぎてどれでもいい、という意味……?)

 今度はエステルが、みるみるうちに熟れたサクランボのような顔になった。


 それを見ていたエマ、アン、テンプルトンは、

(((見ている方がいたたまれなくなる……)))

 と領主夫妻の純愛っぷりにどぎまぎした。

 そのどぎまぎを紛らわせるようにエマが大仰に手を叩く。


「そう、そうですわ! 殿方の御衣裳を決めるにはまず御夫人のドレスを決めなくては決まりませんわねえテンプルトンさん!」

「そそそその通り! まさにその通りでございます!」

「ということでクラウド様! エステル様のドレスを一緒に選んでくださいませんか?」

「なっ……」


 顔を赤くして口をぱくぱくしているクラウドに、エステルは勇気をふりしぼって言った。


「お願いですクラウド様! 一緒にドレス、選んでください!」


 ここまで言われてはクラウドも否と言えない。

 真っ赤な顔のままマネキンに被せられたドレスにじっと視線を注ぐ。


(くそっ、魔物と対峙したときですら、こんなに困ったことはない……!)

 自分の話下手を呪いながら、クラウドはマネキンと並んで立つエステルからなるべく視線を逸らすように意見する。


「ん、んん、そう、だな……エメラルドグリーンは……エステルの、その、瞳の色と合っているし、ピンクは……ごほん、エステルの肌の白さを引き立てる……ラベンダー色は、エステルの黒髪をその、華やかにだな、見せるなと……」


 しどろもどろになりながら、思案した結果。


「やはり……それだ」



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