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第1話 運輸部第二運輸課(4)

「艦――運輸課長。検閲完了です。自治区内への進入許可出ました」

 ごつい体格のオドルフ副長が船長席の右に立ち、オペレーターからの報告をフィアに伝える。

「了解。出航手順に移行」

「出航準備、全て完了しております」

「出航。進路目標、自治区避難民センター集荷所」

「了解。浮揚します」

 船体底部に縦列に並ぶ浮揚用噴出ノズル周辺から、自身を覆い隠すほどの高さまで土埃を巻き上げながら、全長160mの鉄の塊がゆっくりと浮き始めた。

 10mほどの高さで高度を維持し、前後進用の推進機関を稼動する。

「主機安定中。推進一番、二番、負荷運転開始」

「了解」

 船長席に着座していたフィアはモニタから眼を離して立ち上がり、前方の航法手席頭越しの窓から、霞がかかった艦橋の外を見つめた。

 フィアの視線の先、船の進行方向と平行に、船より広く取った幅で二筋のマーカーランプが点々と続いている。

 航行制限エリア内の航行帯マーカーである。

 陸船は、運航時に地表に向け高圧力の空気を連続噴出する構造上、船の直下の一般家屋など簡単に押し潰してしまう。

 それが人だとすれば最悪の事態は避けられず、現にそうした事故もないわけではない。

 また船側にしても、船を浮かせる圧力が掛かる地表面の範囲に極端な高低差があると、水平を保てなくなり最悪横転の恐れすらある。

 これを陸船の対地効果範囲といい、よほど小さな船以外は船の規模により決まる規定数以上の対地センサーが船底に設置されており、常に地表との離隔と硬度を検知、自動的に水平になる様に噴出圧力が調整される。

 この危険回避の為に、都市部や集落、主要交通機関付近には航行制限エリアを設け、その区域内では航行帯の中しか運行できない、と法で規制されているのだ。

 フィアは、再び自席のモニタに眼を戻した。

 ややあって画面中央の自船の俯瞰図両側に二本のラインが表示される。

 これは、船の航法装置がマーカーから発せられている誘導波を受信したことを意味している。

 モニタから眼を離さないままのフィアが、指示を飛ばした。

「自動操縦に切り替え」

「了解。マーカー誘導航法に切り替えます」

「両舷微速、前進」

「了解。両舷微速。……航行帯に乗りました」

 ふう、と席に座り込んだフィア。制服のポケットから軍用の懐中時計を取り出し、膝に乗せる。

「制限区域を抜けたら経済高度まで上げて進路に乗せて下さい」

「了解」

 返答を確認してから、淡い金色の懐中時計の盤面上部にある手巻き式のネジを、ゆっくりと巻き始めた。




 検閲所の作業員たちが聞きなれた一般的な輸送船のそれよりも一際大きい、圧搾空気噴出音と推進用多重ファンネルの高周波反響音が、周囲一杯に響き渡る。

 彼らは仕事の手を休めて、逆光で影になった去り行く船体を見上げていた。


 元ニウ・ナドル国軍、航空支援型強襲制圧艦LCA125。

 前紛争において、現在の国軍主力である第四世代艦に分類される攻撃型艦艇群と共に、シア帝国との国境線を幾度となく強行突破、その搭載火器と航空戦力によって国境付近の数箇所の前線基地を街ごと制圧、地図帳の国境線を一部描き直させた拠点打撃艦隊の一員である。

 第三世代から第四世代への移行期に竣工したこの強襲制圧艦は、同型艦たちが次々と更新工事を受け最新の第五世代艦が登場した現在も運用され続けている中、CW社に軍からの天下り組が目立ち始めた頃と時を同じくして、民間払い下げ対象の指定を受けた。

 そして、竣工からたった8年で軍籍から抹消される。

 LCA125の現在の艦識別コードはCW-LCA02。艦名ナドーラ。


 自社ドックで徹底的に近代化改装されクレバーウルフ社に籍を置くこの“輸送船”は、軍艦と言われる事を極端に嫌う女性運輸課長指揮の下、二日後にはシアとの国境近くのモルドネ自治区難民キャンプで荷役の予定だ。




(第1話 完 2話へ続く)

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