18. 古くからの言い伝え
起きたばかりで声を出しにくい喉をむち打ち、人から借りている本を開き、声に出した。
『昔、あるところに聖女がいた。その聖女は慈悲深く、誰の願いも叶えていた。その名を――――。彼女の力――聖女の力の保有量は今までの聖女、今存在している聖女の中でも段違いに多かった。だからこそ、あの膨大な力を使いこなせているのだとだれもかもがそう思い込んでいた。だが、それは正しくはなかった。膨大な力があるからこそではなく、膨大な力を彼女自身の"努力"で使いこなしていた。だが、膨大すぎる力は身体を蝕む。それを防ぐためにも力を使う事が必要である。そこで聖女と呼ばれる役割を作り、国が膨大な力を持つ者を守っていた。だが、時は流れて国は聖女という者を物のようにして使うようになった。時が経ったことで本来の事を忘れたのだろう。未来へと聖女の役割..."聖女を守るため"という本来の理由を語り継がなくてはならなかった。』
一度息をゆっくりと吐き、声に出した。
『時は流れ...と書いたがそれは何年の事だったかと言うとたったの"10"年だ。ちょうど10年が経った頃、――――は国を守るために力を使った。魔物の住む森から国へとやってきた魔物に力を使った。彼女自身は国を守りたかっただけなのに生き物を"殺した"。そういう事実が残った。彼女はその際に来た魔物達に力を見せて敵わないと感じさせて森に帰すだけのつもりだったが、魔物と戦っていた彼女の想い人が魔物に殺された。それを見た彼女は目から血の涙を流し、今まで掠らせるに留めていた"力"を解放させ全ての魔物に寸分狂わず見事に当てて見せた。彼女が我に返った時にはもう手遅れだった。彼が殺された時点でもう手遅れだったのだ。彼女は生き物を殺した事で神に見放され力を使うことが出来なくなった。力を彼女が使えなくなったと知った国の王は、彼女に無慈悲に命令を下した。』
「『何も出来ない役立たずは出ていけ。元はと言えばお前がこの国に来たから魔物が来たのだ。』」
...?どういう...ことかしら...?
彼女が来たから...聖女が来たから魔物が来た...?
私は混乱してページを素早くめくった。
『彼女は王の命令を守り国を出て行った。出ていくという表現は正しくはないが国の端へと住まいを移した。力のないものを切り捨てた国の名前は...』
「――クリネラ...王国...」
嘘だ...嘘だ...
見たことのある名前だと思った。聞いたことがある名前だと思った。
『イヴィツア=クリティア』
私の曾祖母の名前だった。昔から付き合っていた彼の弟と結婚したと聞いていたけど...こういう事だったのね...そして、力があったという事は私のお母様にも力はあったはず...だけど...判明しなかったという事は聖女としてある魔力が少なかった。そして魔法使いとしての魔力は多々あった。
その血を受け継いだ私は聖女としてある魔力が多い上、魔法使いとしての魔力が多い。
「だから私は...再生魔法が...」
禁忌だった魔法に自分自身が知らず知らずのうちに使っていて人の前で使い、自然では起きるはずのない現象を起こして...こんな...世界を作り出しているのは...私自身ですか...?
まだ本には続きがあった。
『国を豊かに...世界を平和にしたいなら...魔法という便利な物を世界から消さなくてはならない』
本を読んでいる最中にもう本当は気づいていた、
私は――居てはいけない存在だったのだと。
ですが...困っている人々を助けなくては私の気が済みません。
私が力の使いすぎて死んでも、この世界を滅ぼしてしまってもいい。
世界が滅ぶ前には神が確実に手を差し伸べてきたから...滅ぶことはない。
そう私は気づいてしまったから――力の限り死の運命から抗いながら世界を出来るだけ平和に致します。これが私の役目です...!