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サボりのエチュード

 聞こえてくる革命のエチュードの演奏は終盤に近づいていた。悲しさを表現する透き通る高温の存在感は増し、対する低音はそれに呼応していく。本当に誰が演奏しているのだろう、おそらく音楽の先生だと思うが。


 はっ!!!まずい!!!


 急に七瀬が振り向こうとする素振りを見せたので、とっさに後ろへ足音を立てないように小走りし数メートル先の壁の後ろに身を隠した。


 案の定七瀬は振り向き自身の危機管理能力に引いてしまった。


 「誰か、いるの?......気の所為......?」


 七瀬の声は朝より細く、弱く、悲しげだった。

危なかった。俺は高くなった心拍数を下げようと必死に胸を押さえた。


 ピアノの音は静かに最後の一音を引き終え、奏者らしき人が音楽室の中から出てきた。

 え、八重桜先生!?

 あまりにも衝撃的な事実に飛び出しそうになった首を手で抑え引っ込めた。


 「ん、君は、白月七瀬だったか。なぜこんなところにいるんだ。まだ一時間目の途中ではないのか?」

 「はい。帰る途中にショパンの曲がきこえて気になり立ち寄りました。それに、クラスの皆は自習時間なので問題はないかと」

 「そうか、なら早めに教室戻りたまえ。予鈴がなるぞ」

 「しかし、なぜ八重桜先生はここへ?右手には数学のテキスト。もしかして隣のクラスは先生の数学の授業では?」

 「流石に変に見えるか?先生だってさぼりたいんだ。生徒たちには中学の知識を詰め込んだ演習問題を配っている。解説付きの回答も渡しているし大丈夫だろ」

 「そうですか、ならいいんです」

 

 首を曲げながらも納得した態度を見せたが七瀬も納得したようだった。


 「そうか。んで、ところでなんだが、、、」


 八重桜先生は七瀬の顔を覗くと「はぁ、」とため息をついた。


 「なんですか?」 

 「この今にも泣きそうな顔はなんだ」

 「え、泣きそう......なぜ。そんな顔してますか?」

 「なぜって、見ないと分からないのか?」


 八重桜先生はスカートに付いたポケットからスマホから取り出し、カメラを七瀬に向けパシャリ。

「ほれ」と言って七瀬に写真を見せた。

 

 「ほ、本当ですね。私はあまり顔に感情を出さないタイプなのに。今に崩れそうな顔......ふふふ」

 

 七瀬は顔を両手で揉みほぐした。揉み過ぎだったのだろうか、彼女のまぶたはここから見えるほ赤く染まり、腫れていた。

 

 八重桜先生は力ない声で笑う七瀬の肩に手を乗せた。


 「話してみろ」

 「お時間がないので先に失礼します」

 「時間ならある。次の授業は私だから、気にすることはない」


 八重桜先生の準備が良すぎるせいで、何も言い返すことのできなくなった七瀬は強行突破するしか無いと見て後ろを向き去ろうとした 


「私一人だけで大丈夫ですので、これで失礼します」


 八重桜先生は七瀬の手首を掴み片手を上げた。

 パンッ。


 「な、なにしてんすか!先生!」


 音が鳴った瞬間、反射的に体が動いてしまった......  


 七瀬の頬が赤く染まっている、今の音、相当痛かったに違いない。

七瀬は驚きのあまり口を半分広げたまま立ち尽くしていた。

 涙が目からこぼれ落ちたものだろうか、ポタ、ポタ、と水が跳ねる音がする



 睨む八重桜先生とゆっくりこちらを向く七瀬が俺の視界に写った。


 七瀬に何手出してんだよ......


いつも読んで頂きありがとうございます!


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