薄暗闇のエチュード
天気予報では晴れと言っていたが、外はシトシトと霧雨があたり一面を湿らせていた。
身体測定が終わった守と俺は武道館の出入り口でアリエルを待つ間雑談をしていた。
「この雨強くならないと良いね。僕バス登校だから良いけど、礼愛君は自転車でしょ?今日かっぱ持ってきたの?」
「それがないんだよ。まぁ、雨でも結局乗って帰らないとだし」
七瀬と相合い傘して距離が縮まってこの先の大きな一歩繋がるなら話は別だが、俺はあいにく自転車登校なのでそもそも相合い傘になる事は無いのだ。
「そっか、じゃあ強く降らないことを祈るしかないね」
「そうだな。あ......」
更衣室の出入り口の方から一人、目を微かに腫らして寂しげに歩く七瀬がいた。
「どうしたの?あ、七瀬さん、何かあったのかな......」
「そうみたいだな。もしかして胸のサイズが大きくて皆に引かれたとか?」
「もう!礼愛君ってば!」
その後ろから駆けつけるアリエル、その他女子二人。
「なんで先行っちゃうの七瀬〜。かなでちん達と一緒に帰ろうよ」
銀髪ポニーテールの彼女はかなでちんと呼ぶらしい。変わった名前がこの世にいるもんだな。
「礼愛君今笑ったでしょ!?一ノ瀬オコ!だかんね?」
「はいはい」
というよりなんだこのファッションは、登校初日とは思えないほど、太ももの上半分を見せたギリギリのスカートで長いストッキングを膝上まで上げていた。男子にパンチラは許して生足は許さないとか理解できない。
「だから言ったろ一ノ瀬、この名前はやめろって。笑われるのは一目瞭然だろ。私は三之宮かなでだ。改めてよろしく頼むよ佐々木礼愛君」
「いや!私この名前好きだもん!かなでちんしか勝たん!」
目をギュッとさせ必死にぽかぽかと三之宮の背中を叩く一ノ瀬を見ると小動物みたいで可愛かった。
「ん、、まぁ、一ノ瀬がそこまで言うなら分かったが、この名前を呼ぶのは二人の時だけにしてくれ」
七瀬が会話に入れずモタモタしてると、アリエルが後から会話に入ってきて、
「七瀬さんどうされましたの?顔が随分と暗いようだけれど......」
「え?そうかな、でも大丈夫だよ。心配ありがとう。ただ疲れただけだよ。私少し貧血気味だから」
「そう、なら無理はしないように」
七瀬はコクンとうなずくと、俺たちが声をかける前に去っていった。
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俺は今、湿った薄暗い廊下を一人キュッキュと鳴らして歩いている。なぜ一人なのかというと、急いで朝ごはんを食べたせいかまた腹を下し、武道館に備えられた和式トイレに立て籠もっていたからだ。
流石に守を二度もトイレ待ちをさせるわけには行かないので先にアリエル達と一緒に帰らせた。
まだ慣れない校舎内の来た道を戻ろうとした時、ピアノの音が逆方向から微かに聞こえてくる。勢いのあり、ベースの低音に高い音が混ざり合う緊張の走る旋律だ。微かに聞こえる階段状に駆け抜ける低音の重圧感は、これだ!と曲名を分からせた。
「これは、革命のエチュード......」
クラシック音楽に興味のある人なら誰でも知っていると思う程有名な曲だ。音の方向は来た道とは真反対に位置し、迷子になる心配をしたがどうしても気になったので音につられ導かれるようにあるき出した。
雲で覆われた太陽の光の届かない薄暗い廊下を進み、右、左、真っ直ぐ進むと、次第に音が近づいてくる。誰が弾いているか分からないが技術レベルは最高級のものだ。
すると突き当りに「音楽室はこちら」という看板があった。壁の下側に張り付いており相変わらず見にくい位置に置いてあった。
少し進んだ先にポツンと一人女子生徒が立っていた。
あ......七瀬。
音楽室のドアの前で立ち尽くしている七瀬が居た。その立ち姿は見るに耐えないほど肩を落とし、顔も暗く、彼女の後ろから黙って見ていることしかできなかった。麗しく切ない、余計なものから切り離された一切感情の無い天使のように見えた。
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