二週間ぶりの再開
二話 二週間ぶりの再会
ピピピッ ピピピッ ピピピッ ピピピッ
一定のリズムを刻んで鳴り響く電子音が憂鬱な朝の時刻を教えてくる。カーテンの隙間から差し込む陽光が目に当たって眩しい。
「今日から学校か......」
どうしたものか。前日までは軽く起こした体も今となっては大変重く、体に力が入らない。
とうとう電子音が最終警告の早いリズムを鳴らし、本格的に起こしに来た。俺は乱暴に床の目覚まし時計を止め、すぐさま二度寝の体制へと移行した。
「礼愛君、起きて。寝坊しちゃうよ」
すると、
聞き慣れた、綺麗で透き通る優しい声が耳元で囁く。
「七瀬............」
そして俺は再び深い眠りについた。
なんて、贅沢な目覚ましだったのだろうか。
現在俺は二度寝という後々地獄堕ちの遅刻確定コースを一直線で駆け抜けている。
すると下から玄関の扉が開く音がした。
「ドンドンドン!おーい礼愛兄!遅刻するよー!朝ごはん置いとくからねー!いってきまーす」
妹の春野が起こしに来てくれたようだ。
ドンドンは口で言わなくても良いだろ。寝すぎてダルくなった体をゆっくり起こし長めのあくびをした。
うん。行ってきます?春野がいつも家を出る時間は七時五十分。俺がいつも起きる時間は七時丁度。俺は一時間近く二度寝していた事になる。
「やばいやばいやばい!」
俺はすぐさま階段をかけ下り、歯を磨き、制服に着替る。気づけば時計は八時を数分過ぎていた。
学校の始業ベルは八時三十分。学校まで自転車を全力で漕いで十五分ってとこか。
良かった。朝ごはんを食べる時間が数分ありそうだ。
俺は急いでリビングに行き、テーブルの上にある妹手製のオープンサンドを手に掛けた。
それの側には「愛しの礼愛兄様へ。遅刻オツ♡」と書かれた、ムカつくがブラコン満載の置き手紙が添えられている。うちの妹は家事も洗濯も出来るし、おまけにとてもかわいい。
ほとんど家に帰ってこない親がいる生活ではうちの妹は超重要人物である。
誰もいない部屋で流れるテレビとは、なんとも不気味な存在感を醸し出していた。
「春野のやつテレビつけっぱなしにしてったな」
朝の情報番組がお料理コーナーの実演をしていた。今日のメニューは青椒肉絲と麻婆豆腐らしい。
番組が左上に表示している現在時刻を見て、あらためて遅刻への危機感が高まった。
遅刻遅刻、、
両親は幼い頃に離婚。俺たちは母親の方に親権が移
ったのだが、母はほとんど家に帰っていこない。そんな母に仕事について聞いても話してくれず、どうやってここの家計は成り立っているのだろうか。
おっとさすがに家を出なければ本当に遅刻してしまいそうだ。
俺はオープンサンドを胃に流し込み、全力で自転車のペダルを漕いだ。
「うおおおおおおおお!」
俺は力の限り漕いだ。初日から遅刻なんて洒落にならない!きっと自己紹介もあるというのに始めから印象が悪くなってしまうのは避けたい!
学校まで残り一キロに対し、現在時刻八時二十分。良かった全然間に合いそうだな。
信号待ちをしていると、俺の失恋相手である白月七瀬が対面の信号付近の電柱にもたりかかりながら、力ない目で遠くを見つめて体育座りをしていた。
卒業式で顔を合わせて以来、二週間ぶりの再会になるが、相変わらずの清楚な美人であった。
”礼愛君どうしてここに?”
”お前がここで座ってるから心配しただけだ(無言で手を差し伸べる)”
”ありがとう、でも、うまく立てない、だっこして?”
と、上目遣いで懇願してくるテンプレ展開を想像したが、そんな事はありえないと確信する。だって振られたんだから。
信号の色が変わり、渡った直後に七瀬にぶつからないように歩いて横断歩道を進んだ。その行動で自分の予想を超える出来事が起きるなんて考えもしなかった。
横断歩道を渡りきって再び自転車にまたがると、ズボンの裾が引っ張られた。
「待って」
「え、なんですか?」
「急に敬語?前みたいにタメで良いのに」
俺に気づいた七瀬は、何も無かったかのように、話しかけてきた。とにかく冷静になり、普通に対応しよう。
前まで散々避けてきたくせに今のはずるいだろ。
「はぁ。で、こんな所でなにしてんの?」
「貧血」
貧血?お、俺の血がご必要ですか?
「歩くとフラツイてしょうがないの。だから、後ろに乗せてってくれない?」
あぁ、そういう事ね。てっきり吸血鬼にでもなったんじゃないかって思ったわ。
一応俺は困っている女性を放っておくほど、男は廃ってないから七瀬を自転車の後ろに乗せることにした。
「しょうがない。乗れ、遅刻ギリギリだから飛ばぞ?」
「私貧血なんだよ?病人は労れと教えて貰わなかったの?」
「何様だよ。今なら置いていってやっても良いんだど。」
「あははーしょ、しょうがないなぁ礼愛君はー」
こいつ本当に何様だよ。本当に貧血か?
七瀬は顔をニコニコさせながら後ろにまたがった。
………………
でも、やっぱり、この心の距離感が一番居心地良いんだよな。
「あと、七瀬?なぜこんなに顔を赤らめておられるのですか?」
「れ、礼愛君っ、か、顔見ないで!ほら、遅刻するよ!」
「はいはいそれじゃ、行くぞー」
この反応って――いやいやないない。
俺はこの気持ちを紛らわせるために自転車を全力で漕だ。このタイムロスを挽回しないと!
横目から見える七瀬の顔は爽やかで、晴れ晴れとしてた。向かい風になびかれる黒く艶のある髪は綺麗という言葉で表しきれないほど麗美なものだった。
しばらく進むと信号に引っかかった。
「はぁ、今の信号行けたのにな」
そう俺がぼやいていると、
「もしかして、気にしてる?」
「え」
突然にして必然であるかのように七瀬は口を開いた。きっと告白のことだろう。
気にしてない訳ないだろ。現在進行系で気まずいわ!
「私さ、また礼愛君の友達として前みたいに戻れた
ら良いなって思うんだよね」
とてもありがたいお誘いであった。だって、昔のように仲良く接してくれるのだから。
戻りたい。けど、そんな簡単に承諾してもいいのか。
俺は半年間、七瀬にシカトされ続けてきた。
なぜ、彼女から助けを求められ、関係を戻そうとしてくるのだろうか。しかしここで断ればもう一生話すことなんてきっと無いだろう。
「あぁ、そうだな。よろしく頼む。水に流したつもりはないが、やっぱりお前とは仲良くしたほうが良さそうだ」
「なにその面白い返し方、はははっ」
そう。それで良い。まずは友達から始めるんだ。七瀬もそう言ってるし、これから惚れさせれば良い。
「礼愛君、青信号だよ」
「あ、やべ」
また俺はペダルを漕ぎ出した。ゆっくりと、地道に、丁寧に関係を作って行けば良い。
という心情とは裏腹に七瀬を気にかけず、全速力で学校を目指した。
読んでくれてありがとうございます!
が




